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領主の長男ですが、禁忌のスキルネクロマンシーを授かって処刑されかけました。蘇らせた愛するメイドや仲間達と共に、滅びかけの辺境の村から国を興す。  作者: ドラドラ
第十二章 愛を還す者たち

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第97話 魂が届く距離

 城の奥へと続く回廊は、どこまでも冷たく、薄暗かった。

 天井の高い石造りの通路には、かつては誇りを示していたであろう紋章や装飾が並んでいるが、その多くは途中で削り取られ、あるいは歪に砕けている。


 ――近い。


 理由は分からない。だが、確信に近い感覚が胸の奥で脈打っていた。


 リヴだ。


 言葉にしなくても分かる。魂の距離が、確実に縮まっている。

 まるで、同じ方向へ引き寄せられる磁石のように。


 俺は、自然と歩調を速めていた。


「クロム、少し落ち着け」


 後ろから、ハードンの低い声が飛んでくる。


「焦るな。ここは敵の城だ」


「分かってる」


 そう返しながらも、足は止まらなかった。

 止められる気がしなかった。


 今なら、行ける。胸の奥に残る、あの声。あの温もり。


 旅立ったはずの仲間たちが、今も確かに俺の背中を押している。


 ――魂回帰《ソウルリバース》。


 その名を意識した瞬間、胸の奥が微かに熱を帯びた。


「今は、この力がある」


 思わず、口に出ていた。


 ツムギがこちらを見て、わずかに眉をひそめる。


「……無理はしないでください、クロムさん」


「大丈夫だ」


 根拠はない。だが、不思議と怖くなかった。


 その時だった。

 前方の通路の奥から、重く、鈍い足音が響いてきた。

 一つではない。複数だ。


「来る!」


 サリアの鋭い声と同時に、闇の中から影が浮かび上がる。


 アンデッドの群れ。

 だが、今までのアンデッドとは明らかに違っていた。


 手には剣や槍、斧などの武器を構え、間合いを測っている。

 無秩序に突っ込んでくる気配がない。

 中には、魔力を練る仕草を見せる個体すらいた。


「……スキルを、使ってる?」


 リリラが息を呑む。


 生前の動きをなぞっているだけではない。

 統率され、磨かれた動き。まるで、訓練された兵士のようだ。


 言葉を持たないだけで、命令に応じ、役割を理解し、連携して動く。


 やっていることは――ネクレアと、同じだ。


「厄介だな……」


 シュウが低く呟く。


 俺は一歩、前に出た。


「任せろ」


 胸の奥に意識を沈め、魂回帰《ソウルリバース》を呼び起こす。


 応えがあった。


 身体が、羽のように軽い。

 視界が研ぎ澄まされ、時間の流れが緩やかに感じられる。


 俺は足元の石を拾い上げた。

 掌に収まる、ただの瓦礫。


 だが、それで十分だった。


 一投。


 空気を裂く音すら置き去りにし、石が飛ぶ。

 アンデッドの額を正確に撃ち抜き、頭部を砕いた。


 二投、三投。


 距離も、防御も、意味をなさない。

 次々と倒れ、黒い霧となって崩れていく。


 指先に、別の感覚が走る。

 空気が軋み、紫電が走り、通路を塞ぐアンデッドの群れを、雷がまとめて焼き払う。


「……ほう」


 シュウが、素で声を漏らした。


 俺自身も、内心で苦笑していた。


「一度に使えるのは……一人の力だけか」


 雷を放ちながら、呟く。


「案外、使い勝手はよくないんだな」


 だが――悪くない。


 新しい力がある。それを、はっきりと実感できる。


 胸の奥で、少しだけ気が大きくなっているのが分かった。

 慢心だと分かっていても、今はそれを否定できなかった。


 アンデッドの残骸を踏み越え、先へ進む。


 ――リヴに近づいている。


 だが、その感覚に酔った一瞬の隙が、牙を剥いた。


 再び現れるアンデッドの群れ。


「……よし、次は――」


 魂回帰《ソウルリバース》を、再び発動する。


 だが、応えがない。

 胸の奥が、静まり返っている。


「……?」


 もう一度、意識を沈める。

 だが、 何度呼びかけても、返ってこない。


「クロム!」


 サリアの声。

 反応が遅れた。

 アンデッドの一体が、俺の死角から踏み込み槍を突き出す。


「しまっ――」


 その時、衝撃が走る。


「邪魔だ!」


 ハードンだ。

 俺を殴り飛ばし、前に出る。

 全身を硬化させ、盾となる。


「何しやがるハードン!」


「しっかりしやがれ!」


 次の瞬間、アンデッドの槍が、一直線に突き出された。


 ハードンの硬化した胸部を――貫いた。


 音が、消えた。血が、床に落ちる。


「――ハードン!!」


 正気に戻る。


 俺は叫び、喰闇《くらやみ》を振るった。

 ツムギの糸が絡み、動きを止める。

 サリアが槍を突き出し、シュウが背後を取る。


 連携。俺たちの本来の戦い方だ。


 精鋭のアンデッドは、ほどなく崩れ落ちた。


 ハードンのもとへ駆け寄る。


「……くそ……」


 膝をつき、血を押さえている。


「大丈夫よ、すぐに治す!」


 ツムギが必死に糸を走らせ、裂けた肉と骨を繋ぐ。

 だが、顔色は悪い。


「……血が流れすぎてる……」


 ツムギの声が震える。


 ハードンの命の火が、弱っている。


 喉が詰まる。


「心配するな、ハードン」


 震えを押し殺し、言葉を絞り出す。


「もし死んでも……」


 その先を、言い切る前に。


 ハードンが、俺を睨んだ。

 力のない目だが、意志だけははっきりしている。


「……先に言っておく」


 血を吐きながら、言葉を紡ぐ。


「俺が死んでも……ネクロマンシーは……使うんじゃねぇぞ」


 その言葉が、胸に突き刺さったまま――回廊は、再び静まり返った。

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