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領主の長男ですが、禁忌のスキルネクロマンシーを授かって処刑されかけました。蘇らせた愛するメイドや仲間達と共に、滅びかけの辺境の村から国を興す。  作者: ドラドラ
第十二章 愛を還す者たち

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第95話 まだ、終われない

 城の内部は、静かだった。


 いや、正確には――音が、殺されている。


 足音が石床に触れても、反響しない。金属が擦れる音すら、空気に吸い込まれていく。

 まるでこの城そのものが、外界との接触を拒んでいるかのようだった。


 壁に刻まれた装飾は、かつての威厳を保ったまま黒ずみ、剥がれ落ちている。王城であった名残は確かにあるのに、そこに人の気配はない。


 生きていない。だが、死んでもいない。


 そんな曖昧な空間を、俺たちは進んでいた。


 城門で別れたガレオンとコーハの背中が、何度も脳裏をよぎる。

 だがあの二人なら、必ず門を守り切ると信じている。


 ――問題は、俺たちの方だ。


 通路を抜けた瞬間、視界が一気に開けた。


 中庭だった。


 思わず、息を呑む。


 かつては、間違いなく美しい庭園だったのだろう。左右対称に整えられた石畳の道。噴水の名残。神話を模した彫刻。丁寧に区画された花壇。


 だが今は、そのすべてが歪み、侵され、冒涜されている。


 地面を突き破って伸びた樹木が、庭園全体を覆い尽くしていた。幹は異様なほど太く、黒ずんだ表皮の下で魔力が脈打っているのが分かる。枝の先には葉ではなく、枯れた指のような突起が無数に生えていた。


「……嫌な場所ね」


 サリアが低く呟いた、次の瞬間だった。


 ぎしり、と不快な音が庭園全体に響いた。


 樹木が、動く。枝が軋み、地面を這い、石畳を割りながらこちらへと伸びてくる。同時に、影から影へと腐臭が広がった。


 アンデッドだ。


 人の形を保ちつつも、半ば植物と融合したようなもの、樹皮が骨に絡みついた異形のアンデッド。数は決して多くない。だが、動きに無駄がなく、明確な意思を感じさせる。


 ――誰かが、指揮している。


「来るぞ!」


 ハードンの声と同時に、俺は喰闇《くらやみ》を抜いた、その時だった。


 ぱち、ぱち、と、場違いな音が響いた。


 ゆっくりと、余裕に満ちた拍手。


「ここまでよく来たね」


 樹木の奥から、ひとりの男が歩み出てきた。


 長い外套。穏やかな微笑み。だが足元では蔓が彼の歩調に合わせて蠢いている。人の形をしているのに、どこか自然の摂理から外れた存在。


 アルドレイン。樹木を操るネクロスの王子。


「待っていたよ。君たちがここに辿り着くのを」


 その声は、驚くほど柔らかかった。だからこそ、背筋が冷える。


 俺は一歩、前に出る。


「リヴはどこだ」


 喉の奥から、言葉を絞り出した。感情を抑え込まなければ、声が震えそうだった。


 アルドレインは、わずかに目を細める。


「さあ? それを確かめたいなら――」


 彼は、背後の歪んだ庭園を示した。


「先へ進むといい。進めたら、だけどね」


 次の瞬間、空気が裂けた。


 アルドレインが手を掲げただけで、庭園全体が唸りを上げる。

 樹木とアンデッドが、一斉に襲いかかってきた。


「迎撃!」


 サリアが前に出る。槍が閃き、迫る枝を断ち切る。

 ハードンが硬化した身体で前線を押し上げ、樹の打撃を真正面から受け止める。

 シュウの晴天が走り、アンデッドの首を落としていく。


 俺も、喰闇《くらやみ》を振るった。


 刃が樹皮を裂き、魔力を断つ。

 確かに効いている。だが、次の瞬間には地面から新たな樹が生え、倒したはずの隙間を埋めていく。


 全員で迎撃していくが、それでも――


「数が減らない……!」


 誰かの声が重なる。


 アルドレインは動かず、ただ、戦場を観察している。

 その視線は、俺たちの力量を測っているようだった。


 ――戦力は拮抗している。


 だが、その均衡は、一瞬で崩れた。


「キャア!」


 リリラの悲鳴。


 振り返った瞬間、血の気が引いた。


 後方に控えていたツムギとリリラに、樹木の枝が伸びていた。

 音もなく、狙い澄ました一撃。

 ツムギが糸を張り、必死に迎撃しているが、防ぎきれていない。


 考えるより先に、身体が動いた。


 俺は地面を蹴り、二人の前に飛び出す。


 喰闇《くらやみ》で枝を斬る。

 だが、同時に別の蔓が、俺の足に絡みついた。


「クロムさん!」


 ツムギの叫び。


 次の瞬間、腕、胴、首へと次々に樹木が絡みつい、締め付けが、急激に強まった。


 呼吸が、奪われる。


 地面から引き剥がされ、宙に吊り上げられる。


「ほう……いい反応だ」


 アルドレインが、楽しそうに見上げてくる。


「仲間を守るために、迷いなく身を投げ出す。嫌いじゃないよ。だがそれは――王の役目じゃない」


 胸が、ぎゅっと締め付けられる。


 ツムギと魂共鳴《ソウルリンク》を――そう思った。

 だが、集中できない。樹木が魔力の流れを乱し、意識を削っていく。


「別に君を殺しても構わないんだ」


 アルドレインの声が、やけに近く聞こえる。


「どうせメルクアが、蘇らせる。君は、その程度の存在だからね」


「クロム! くっ……どきなさい!」


 サリアが必死に突っ込もうとするが、樹木とアンデッドに阻まれる。

 他のみんなも同じだ。誰も、俺の元へ辿り着けない。


 樹木が、さらに締まる。


 骨が軋み、視界が暗くなる。


 ――ここまでか。


 その瞬間だった。


 心の奥底で、何かが叩きつけられた。


『諦めるんじゃねぇ!』


 荒々しい声。

 怒鳴るようで、叱りつけるようで――

 けれど胸の奥を、不思議と温かく撫でる響きだった。


 耳に残るその調子は、何度も背中を押された、あの日々の声とよく似ている。


『ここまで来たんだろうが!』


 胸の奥が、熱を帯びる。


 消えかけていた意識の底から、新たな力が湧き上がってくる。


 ――まだ、終われない。

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