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領主の長男ですが、禁忌のスキルネクロマンシーを授かって処刑されかけました。蘇らせた愛するメイドや仲間達と共に、滅びかけの辺境の村から国を興す。  作者: ドラドラ
第十二章 愛を還す者たち

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第94話 死の城門

 城が、見えた。


 樹海を抜けた先。腐臭と瘴気の向こうに、黒く歪んだ輪郭《りんかく》が浮かび上がる。

 石で組まれたはずの城壁は、ところどころが不自然に膨れ、ひび割れ、その隙間から枯れた蔓や骨のような枝が突き出していた。


 まるで、死体が無理やり立ち上がったかのような姿だ。


 ――あそこか。


 胸の奥が、微かに疼いた。

 理屈ではなく、魂の奥で、何かが引き合っている。


 リヴが、あそこにいる。


 確信に近い感覚だった。

 同時に、嫌な予感もある。

 あの城は、俺たちを呑み込むための口だ。


 それでも、足は止まらなかった。


 ◇   ◆   ◇


 城下町は、すでに町ではなかった。


 石畳は割れ、道は歪み、家屋は半ば崩れたまま放置されている。

 扉という扉は内側から引き裂かれ、窓には何かが這い出た痕跡が残っていた。


 人の気配はなく、死の名残だけが、執拗に張り付いている。


「止まるな!」


 ガレオンの声が響く。

 考える暇はない。馬車を降り、俺たちは城下町を駆け抜けた。


 瓦礫の影から、路地の奥から、腐り落ちた肉の音を立ててアンデッドが這い出してくる。

 腕だけのもの。顎が外れたままのもの。脚を引きずり、這うもの。


 それらを斬り、突き、蹴り飛ばしながら先に進む。


 城門前に出た瞬間、空気が一変した。


 ――その数だ。


 城門を覆い尽くすように、アンデッドが群がっている。


 人の形を保つ者は、もはや少数派だった。

 四肢の数が合わないもの。骨と肉が無理に縫い合わされたもの。魔獣の名残を色濃く残し、唸り声を上げるもの。


 それはまさに死の壁。


 ここを抜けねば、先はない。


 喉が、無意識に鳴った。


「……やるか」


 隣に立つガレオンが、静かに言った。


 大剣を地面に突き立て、柄に手を置く。

 覚悟を決めた者の顔だ。そこに迷いはない。

 この男は、退路を考えない。切り開くことだけを考える。


「頼む」


 短く言う。 余計な言葉はいらない。


 俺は、魂共鳴《ソウルリンク》を解放する。


 魔力が跳ね上がる。

 意識が、引き裂かれるように重なった。


 魂が、繋がる。


 視界が、反転した。


 ◆   ◆   ◆


 重い。


 だが、この重さは嫌いじゃない。


 大剣を握る手に伝わる、確かな質量。

 刃の奥に流れ込んでくるクロムさんの魔力が、剣そのものを一段階上の存在へと引き上げていく。


 力が溢れている。

 魔力だけじゃない。

 クロムさんの中で渦巻く、焦燥と怒り、そしてリヴを取り戻すという執念までが、この剣に流れ込んでくる。

 押さえつけなければ、想いごと振り切ってしまいそうだ。


「……一直線だな」


 城門まで。ただ、それだけでいい。


 考えるな。振れ。


 踏み込むと地面が砕け、土煙が上がる。

 腰から全身を使い、大剣を薙いだ。


 一振り。


 アンデッドの群れが、音を立てて割れた。

 骨が砕け、肉が飛び散り、霧のように散っていく。


 まだ足りない。


 二振り。三振り。


 剣は、確かに重いが、押し返される感覚がない。


 クロムさんの魔力が、俺を支えている。

 背中を預けていいと思える力だ。


 アンデッドは、もはや敵じゃない。

 ただの障害物だ。


 叩き割り、押し流す。


「道は――開ける!」


 叫びと同時に、全力を込めた最後の一振り。


 城門前の広場が、文字通り割れた。

 死の壁は崩れ、一直線の道が生まれる。


「走れ!」


 合図と同時に、仲間たちが一斉に動いた。


 視界の端で、クロムさんがハードンに背負われているのが見える。


 やがて全員が城門へと辿り着いた。

 城門は、もはや門としての役割を失っている。片側が残っているだけで、閉じることなどできない。


 十分だ。


 俺は、剣を地面に突き立て、足を止めた。


 ◇   ◇   ◇


 視界が戻った瞬間、息が荒くなった。


 全身が、鉛のように重い。

 魔力を使った感覚が、はっきりと残っている。

 俺はハードンに背負われたまま、城門前に立っていた。


「ここまでだ」


 ガレオンが、こちらを振り返らずに言う。


「この城門は、俺が抑える」


 一瞬、誰も口を開かなかった。

 だが、俺はすぐに理解する。


 ――このまま進めば、城外からの増援が必ず来る。


 背後を断たなければ、俺たちは中で挟み撃ちになる。


「誰かが、ここで食い止める必要がある……」


 ガレオンがそう口にした瞬間だった。


「僕も、残ります」


 ガレオンの隣にコーハが、静かに立つ。

 魔力を抑え込むように深く息を吐いていた。


「……コーハもか」


「うん。かなり魔力を使いました。この先僕が役立てる場面はなさそうです」


 一拍置き、コーハは視線を上げる。


「それならここでガレオンさんを援護します」


 理屈は分かるが、胸の奥が僅かに締め付けられた。


 ガレオンは、城門を背に立つ。

 その背中は、これ以上なく頼もしい。


 その隣で、コーハが深く息を吐き、魔力の流れを静かに整えている。


「必ず、戻る」


 そう言うと、ガレオンは僅かに口角を上げた。


「当たり前だ」


 コーハは、ただ、小さくうなずく。


「……待ってます。ここを、守り切りますから」


 それだけで十分だった。


 俺は、ハードンに背負われたまま、城門をくぐる。


 振り返らない。


 ここから先は、俺たちの戦場だ。


 城の内部へ足を踏み入れた瞬間、空気が完全に閉じたように感じた。


 外の世界が、切り離される。


 逃げ場はない。


 だが――進むしかない。


 この先に、リヴがいる。


 そして、すべてを終わらせる答えが、待っている。


 俺は、歯を食いしばり、前を見据えた。

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