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領主の長男ですが、禁忌のスキルネクロマンシーを授かって処刑されかけました。蘇らせた愛するメイドや仲間達と共に、滅びかけの辺境の村から国を興す。  作者: ドラドラ
第二章 命の灯をつなぐ者たち

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第10話 未練が命を呼ぶ時

 数日が経った。村を包む空気は、わずかに変わり始めていた。

 まだ貧しさも脅威も消えてはいない。だが、どこかに前へ進もうとする気配がある。

 風の匂いさえ、ほんの少しだけ温かくなっていた。


 それは、リヴが村の住人たちに声をかけ、ひとりひとりの過去と力を聞き出して回ったからだ。


 朝から晩まで、彼女は誰よりも動いていた。

 傷を抱えた者たちの前で膝を折り、ただ耳を傾け、時に涙し、時に笑った。


 その小さな積み重ねが、村全体の呼吸を変えつつある。


 彼女の行動を見ているうちに、俺の中でも何かが噛み合っていくのを感じていた。

 俺にできなかったことを、リヴは自然にやってのける。


 生きている者を繋ぐということ――その力を、彼女は持っている。


 そして今、リヴの報告が終わった。


「これが、村の住人全員の情報です」


 分厚い羊皮紙の束を机に置く。紙面にはびっしりと文字が並び、誰ひとり取りこぼされていない。

 リヴの努力が、その重さに宿っていた。


「ありがとう。……随分、苦労しただろう」

「いえ。みんな、話すことで少し元気になったみたいです。自分を知ってもらえたって、嬉しそうで」

「そうか」


 彼女の笑みは、朝日みたいに柔らかかった。

 その光を見ながら、俺は報告書に目を通す。

 だが、ある二つの名前で指が止まる。


「……ドルビと、ミーノか」


 声に出すと、リヴが小さく頷いた。


「はい。この前の襲撃で、クロム様が蘇らせた二人です」

「二人のことは、俺から直接聞こう」


 ――彼らが何を想い、どこへ向かおうとしているのか。


 それを確かめることが、今の俺にとって必要だった。


 ◇  ◆  ◇


 ガレオンが家の扉を開けた。


「連れてきたぜ、クロムさん。例の二人だ」


 彼の後ろに立つのは、屈強な男と、控えめな女性。


 男は肩幅が広く、手は分厚く硬い。だがその瞳の奥にあるのは、静かな哀しみと、何かを作りたいという渇望だった。


 女性は淡い茶髪を肩で結び、微笑を浮かべている。けれどその笑みは、どこか痛みを含んでいる。


「俺はドルビ。……ギルディア出身だ」


 低く、落ち着いた声。

 ひとつひとつの言葉に重さがある。


「建築家をしてた。街の商会の建設を任されてたんだが……完成間際にアンデッドに襲われた」


 彼は拳を握った。節だらけの手のひらには、釘跡や古い傷が残っている。

 命を賭けて築いたものが、一瞬で崩れた男の手だ。


「崩落に巻き込まれて……気づいた時にはクロムさんに蘇らされてた」


 淡々としているようで、声の奥に震えがあった。

 思い出を噛みしめるように、彼は続けた。


「スキルは【木材加工】。木を生かすのが俺の仕事だ。図面を引けば普通の職人の倍は早く仕上げてた。……それでも、あの時は間に合わなかった」


 笑みが浮かんだ。

 だがそれは苦く、どこか祈りのようだった。


「今度こそ、最後まで建ててやらなきゃな」


 その言葉に、息が詰まる。

 彼の中でまだ燃え残っている意志――未完成の建物と共に止まった時間が、今また動き出そうとしている。


 俺はうなずき、女性の方へ目を向けた。


「ミーノと言ったな」

「はい。……ヴァルメイアで農家をしていました」


 かすかに震えながらも、温かい声だった。


「干ばつの年にアンデッドが襲ってきて……畑は荒らされ、食べ物もなくなって。気づいた時にはもう……」


 言葉が途切れ、彼女は胸元に手を当てる。

 その指が、過去の痛みに触れるように震えていた。


「でも、もう一度、みんなにお腹いっぱいを届けたいんです。……今度こそ」


 リヴが小さく息をのんだ。

 その真っ直ぐな想いが、胸に刺さる。


「スキルは?」

「【緑の手】です。作物の成長を促す力。でも、もう長いこと使っていません。あの時以来、ずっと――」


 沈黙が落ちる。

 外から、風が木々を撫でる音がした。


 俺はその音を聞きながら、心の奥で何かが芽吹くのを感じていた。

 未完成の家。枯れた畑。やり残した日々。

 そのすべてが、彼らの中でまだ生きている。


 ――あの日、他の死者たちはすぐに崩れ落ちた。

 魂が留まらず、灰になって散った。


 だがこの二人は違う。


 まるで何かに縋るように、確かな意志を持って戻ってきた。


「……クロム様?」


 リヴの声で我に返る。

 握った拳に、血がにじむほど力がこもっていた。


「分かったかもしれない」


 口から出た言葉が、自分でも驚くほど確信に満ちていた。


「俺のネクロマンシーは、ただ死者を呼び戻す力じゃない」


 視線が集まる。

 リヴも、ガレオンも、二人の蘇りし者も、息を止めて俺を見ていた。


「この力は――未練を抱いた者を現世に繋ぎとめる力だ」


 静寂が満ちた。

 風が止まり、焚き火の音だけが響く。


「あの日、他の者は留まれなかった。もうこの世にいる理由がなかったからだ。……だがこの二人は違う」


 俺はドルビとミーノを見る。


「建てたい家と、育てたい畑。その想いが、魂をこの世界に繋ぎとめている」


 ドルビは目を見開き、やがて苦笑した。


「……未練、か。あんたの口から聞くと、悪くない響きだな」

「私も……そうかもしれません。だって、まだ終わってないんです」


 ミーノが胸に手を当てる。瞳が潤み、しかし光を宿していた。


「この村の皆さんをおなかいっぱいにできたら――その時こそ、やっとみんなのもとへ行ける気がします」


 その言葉に、胸の奥が熱くなった。

 死を越えてもなお続く想い。

 それが、俺の力を通して、再び命となる。


「ありがとう、二人とも」


 俺は静かに頭を下げた。


「二人が、俺の力の意味を教えてくれた」


 ドルビはうなずき、口角を上げる。


「なら、次は俺たちの番だ。まず村の防壁だな。それに建てたいものはまだまだある」

「私も畑を見てきます。……土が生きていれば、きっと芽は出ます」


 リヴが微笑んだ。


「クロム様。お二人の力を借りれば、村の再建が始められます」

「ああ。北の樹海を切り拓くに、まずは生きる力を取り戻そう」


 ガレオンが腕を組み、にやりと笑う。


「ふん、俺たち死者が生を取り戻すか。面白いじゃないか」


 小さな笑い声が生まれ、家の中に広がっていく。

 外では、風が芽吹きを運んでいた。

 未練の灯が、確かにこの村で灯っている。


 空を仰ぐ。

 雲間から差す陽光が、村の中心を照らしていた。


 ――この光の中で、もう一度未来を紡ごう。


 ドルビの家が完成する日。ミーノの畑に緑が戻る日。

 それがきっと、この村の再生の始まりになる。


 そして俺は、もう恐れない。

 死を扱う力であっても、命のために使えるのなら――それが、俺の生きる意味だ。


 風が吹いた。

 新しい一日が始まる気配の中で、俺は拳を握る。


 ――消えぬ想いこそが、魂を呼び戻す。


 それは、命を求める者たちの祈りであり、俺の歩む理由だった。

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― 新着の感想 ―
Xではご指摘ありがとうございました! さっそく読ませていただきました。 ドルビとミーノ、それぞれの「やり残したこと」がとても印象的でした。特にただ蘇ったのではなく、未練や願いが魂を繋ぎ止めていたと…
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