交錯する想い
追記:ブラド→アニマ に変更です。
正座。
正しく座ると書くこの漢字の意味はなんだろうか?
心を律し、己の誠意を相手に示すということだと俺は考える。
そうすれば、きっと相手はこちらの話を理解してくれるに違いない。
「つまり、お前とサスケはここではない別の世界から飛ばされてきた――。」
「その通り。」
「なんて話を信じれると思うか?」
理解はされなかった。
そりゃそうですよね。
「その話は…まぁいい。問題なのは、ユキが女だったのはお前の趣味で、他の者達も全員性別を偽っていた――そういうのだな?」
「厳密にはサスケとジョージ、後しゃむ猫さんは間違っていないけどね。俺と咲夜…そしてルリルリとケイに関しては男だと思う。」
「随分と曖昧だな。」
「直接会ったことないですから。VCでもケイに関しては聞き専だったし。」
ヴィクトリアさんは深いため息と共に両手で頭を抱えている。
相当ショックが大きいみたいだ。 俺が原因なので心が痛い。
「正直、お前の言っていることは信じがたいし信じたくない。だが私や他の仲間のこと、偽りの塔の情報をここまで知っているとなると嘘を言っているとは思えん。」
「ヴィクトリアさん…。」
「私はお前のことを親友だと思っていた。6年前、初めてお前と出会った時のことを今でも鮮明に覚えている。」
初めて……確かバッファローの角集めクエストの時か。懐かしいな。あの時はMMOのルールもよく分かってなかったし、装備も初期装備で酷かったもんだ。
「だがそれは、あくまでも"ユキ"に対しての想いだ。ユウキ…だったか。お前ではない。」
「…。」
「なぁ…私はどうすればいい?」
すがる様な瞳でヴィクトリアさんは俺を見る。不謹慎だとは思うが、その姿は胸にグッとくるものがあった。
思い返してみれば、ヴィクトリアさんとは色々な話をしてきた。
ゲーム攻略もそうだが、家族のこと、仕事のこと、個人的な悩み事など口に出せばきりがない程に。
だがそれは俺を同姓の友達と思っていたからだ。異性だと知っていれば、きっと対応は違うものになっていただろう。
なら…俺はどうだ?
俺はヴィクトリアさんをずっと男だと思っていた。そりゃ、女性だと知っていれば対応は間違いなく違っただろう。
だが、今更"こうだったら~"などと言っても過去は変わらない。
今の俺にとってヴィクトリアさんはどうなんだ?
女性だからといって変な目で見るのか?
共に戦ってきた戦友ではなくなるのか?
「俺は――。」
違う、そうじゃないだろ!椎名優樹!
「俺はヴィクトリアさんが男でも女でも関係ないです。」
「…。」
「基本職のペーペーの時から一緒に戦って、色んなダンジョンをクリアして、後悔したり悩んだり…そして喜びを分かち合った戦友だと思ってます。」
「そう…だな…。」
「確かに性別をはっきり伝えてなかったのは俺に非があります。すみません。でも信じてください!俺にとってヴィクトリアさんはヴィクトリアさんでしかないんです!」
「ユキ…。」
決まった。決まったぞ椎名優樹!
男らしい。実に男らしい台詞だと褒めてやりたい!
「……そう言ってるわりに、先ほどから視線が胸のほうばかり向いている気がするんだが?」
「それは今後の課題として努力します。」
「まったく…お前もサスケも変わっていないのだな。」
頬を緩めるヴィクトリアさん。ほんと綺麗だな……あ、赤くなった。
「ごほんっ!!と、とにかくだ!先の戦、協力してくれてありがとう。殿下にも報告をするので、何らかの形で報酬が出来るはずだ。それまでは城でゆっくり休んでくれ、部屋を用意する。」
「報酬なんて別にいいですよ。俺達の仲じゃないですか。というか、出来れば俺のことは内密にしてもらえると助かります…。」
「何か事情があるのか?まぁいい、出来る限り努力はしよう。では私は失礼するよ。その…ひっぱたいて悪かった…。」
「いいんですよ。我々の業界では――。」
「ご褒美、なんだろ?サスケから教わったよ。」
ま、俺はMじゃないから違うけど。
…
……
………ほ、ほんとだよ!!
「ではな、ユ……ウキ。お前が無事で本当に良かったよ。」
そう言ってヴィクトリアさんは食堂を出ていった。
◆◆◆◆◆◆◆
「俺にとってヴィクトリアさんはヴィクトリアさんでしかないんです!キリッ!」
「!?サ、サスケ!!お前死んだはずじゃ!!」
こいつ、いつの間にいやがったんだ!?
「勝手に殺さないでほしいでござるな。しかし、ユキ氏があんな背中にジンマシンが出るような台詞を言うとは予想外でござるよ。あ、ちなみに録音してあるのでいつでも聴くことが出来るでござる。ドゥフフ。」
「おい!」
「冗談でござるよ。お互い、これから長い付き合いになるのでござるからユキ氏もネタをネタと見抜けないと――。」
「長い付き合いって…お前、元の世界に戻らないのか?」
「はい?」
"なに言ってんだコイツ?"みたいな表情でサスケは俺を見る。どうしたってんだ?
「ユキ氏。それマジで言ってる?」
「そりゃ……そう…だろ?」
「いやないわー、それはないない。何が悲しくて、あんな糞みたいな世界に戻るわけ?ユキ氏結婚してたっけ?確か彼女もいなかったよね??」
「そうだけど…。でも親とか心配してるだろ?」
「そうかもしれないけどさ。そんな理由で帰るとかありえんでしょ?」
「そんなこと…。」
サスケは何を思ったのか急に腰の刀を1本抜き、その刀身を指で滑らせながら言葉を紡ぐ。
「だってここでは俺達が最強なんだぜ?資金は腐るほどあるし、アイテムだって大概揃ってる。確かにネットはないしゲームやアニメ、漫画だってない。それでも、それ以上に価値があるのは確定的に明らかでしょ!?」
「それは…そうだけど。」
「考え直した方がいいでござるよユキ氏。こんなチャンス滅多にないどころか、2度とないでござるよ?」
確かにサスケの言う通りだ。
現実世界ではブラックとまでは言わないがグレーな企業に勤めていた。
休みはそこそこあるが給料は安いし、残業も長い。
上司へのごますりが苦手な俺は出世も難しいかもしれない。
貯金が沢山あるわけでもないし、親が金持ちなわけでもない。
他にもまだあるが、正直言って未練はない。
だけど…1つだけ引っ掛かってることがある。
『あぁそうだ。ムカつく話だが、お前はこの世界…【ユグドラシル】の神々と同じ席に座ることになったんだよ。』
イシュトが言ったこの言葉。
加えて、俺が他人の天職を勝手に決めることが出来る事実。
どう考えても嫌なことが起こるフラグだ。絶対に巻き込まれたくない!
俺は戦闘教育を受けて育った超人でもなければ、剣術や体術の技術も持っていないし、現代科学や兵器に詳しいわけでもない。
ごくごく普通の24歳サラリーマンだ。
いくらゲームキャラのステータスそのままとはいえ、死ぬ可能性はこっち世界の方が断然大きい。
それだけはごめんだ。
そうなるぐらいなら元の世界に戻ったほうがいい。
「サスケ、1つ聞きたいんだが。」
「なんでござるか?」
「お前、神様に会ってないか?見た目がホストみたいなやつなんだが。」
「うーん…知らんでござるな。」
「そっか…。」
「でも、全身包帯グルグル巻きの神様なら会ったでござるよ。」
「なんだそりゃ…。」
◆◆◆◆◆◆◆
サスケの話を要約するとこんな感じだ。
ユグドラシルに来たのは一ヶ月前。
自分を担当する神様は黒い全身包帯美少女(顔は見ていないが、サスケ曰く間違いないらしい)。
だがどうにも嫌われているらしく名前も知らなければ、最初の1回以降会っていない。
お姫様の用心棒になったのは森で偶然助けたから。
今のところ、俺とヴィクトリアさん以外のフレンドもしくはプレイヤーとは出会っていない。
元の世界に戻る気はないので情報収集は勿論していない。
参ったな。予想以上に何の情報もない。サスケだから仕方ないちゃ仕方ないが。絶対説明書読まないタイプだし。
ただ…1つだけ分かったこともある。
なぜ"俺達なのか"だ。
理由は分からん。だが共通点はある。
俺とサスケはヴィクトリアさんのフレンドであり、偽りの塔を攻略した固定パーティーメンバーだ。
つまり、残りの固定メンバーも異世界に来ている可能性が高い。
(確率でいえばジョージが一番高いんだよな…俺達と同じでヴィクトリアさんのフレンドだし。他の四人はフレンド登録してなかった…よな?)
一度部屋に戻り、頭の中を整理させる。
アリアンナの姿も見えたが今はまとも会話が出来そうにない。許せ。
「あのー…ユウキさん。お願いがあるんですが…。」
「おっけおっけ。(あいつ、人助け第一マンだからな…。酒場とかで情報集めればすぐに…。)」
「えっ?用件言ってませんが…いいんですか?」
「大丈夫大丈夫。(全く、フレンド一覧機能だけ使えないってどういうことだよ。)」
「よかったぁ…。いつまでもこの服じゃ目立つかなと思ってたんですよ。あ、いえ!これがいけないって訳じゃないんですよ!私には派手かなって…。」
「わかるわかる。(ジョージの情報と帰る方法、今はこの2つに絞るか。)」
「そこまではっきり言わなくても…。はぁ…もういいです!早速行きましょう!」
「ん?あぁ…そうだな――って!アリアンナも来るの!?」
「当たり前です!ユウキさん一人に任せたら絶っっっっ対!ろくなことにならないじゃないですか!!」
……あ、そっか。俺、文字読めないんだった。
それはまずい。
「それもそうだな。よし、行くか。」
俺とアリアンナは城下町へと向かう。
…
……ん?情報収集することアリアンナに言ったっけ??
…………まぁ、いっか。




