女心
ブックマークも200になろうとしています。感想もいただき、本当にありがとうございます。
「全く…良いところだっていうのに。」
「どういうつもりだ?」
珍しく意見が合うイシュトとタナトス。
無限に生み出すことの出来る死霊、追加させた魔獣ケルベロス。児戯はこれから…というタイミングで邪魔が入ったのだ。
文字通り、タナトスの部屋に。
「「アーレス。」」
視線の先には黄金の鎧を身に纏った筋肉質の大男。その背中には身の丈以上もある巨大な斧。
戦神アーレス。
彼もまた偽りの塔に住む神々の一人である。
「当然であぁぁぁる!!戦神であるアーレス!このような戦を見過ごすわけにはいかないのであぁぁぁぁる!!」
その声はまるで大音量のスピーカー。
部屋中がグラグラと揺れ、家具や装飾品もいくつか落下している。
「ならどうすれば問題ないんだい?アーレス?」
「うむ!戦は既に始まっておる。始まってしまったものは仕方がない。だが!絶対強者である我々が"人ごとき"に無限の兵を送るなど、恥以外のなにものでもないのであぁぁぁる!!」
「つまり…現状維持なら文句はないのだな?」
「うむ!流石はタナトス"嬢"!理解が早くて助かるのである!」
「その呼び方はやめろ、アーレス。いくら貴殿でも―――。」
「わっはっは!!そうだったであるな!いやいや、申し訳ない!」
「ふんっ…。」
微妙な空気が流れる中、イシュトはニヤニヤと笑いながら二人を見る。
それに気付いたタナトスはイシュトを睨むように殺気をぶちまけていた。
「おぉ…怖い怖い。なら僕はここで退散させてもらうよ。後はお二人でごゆっくり。」
両手を後ろに組ながらクルクルとターンをしイシュトは部屋を出ていく。
その頬は斜めにつり上がっている。
「ま、そこそこの見世物だったかな?」
軽くステップを踏むイシュト。
一方、タナトスの部屋からは乾いた音が鳴った。
◆◆◆◆◆◆◆
「先の戦闘による怪我人は多数、死者は37名。ですが奇跡的にも住民への被害はほぼありません。」
「はぁ…。」
「聖騎士長?どうかされましたか?」
「いや…何でもない。すまないが少し休ませてもらう…何か用があれば部屋まで連絡を。」
そう言ってヴィクトリアは席を立ち、おぼつかない足取りで部屋を出ていった。
「聖騎士長、様子おかしくないか?」
「そりゃそうだろ、あれだけの戦闘だったんだ。疲れてないほうがおかしい。」
確かに戦闘は凄まじいものではあったが、ヴィクトリア自身は疲れてなどいない。
全く別のことで病んでいるということは、この場にいる誰も知らない。
「しかし、あの光は何だったんだ?」
「俺達の傷を治した光か?それとも大型種を一発で吹き飛ばした方か?」
「両方だよ。一体誰がやったんだ?」
「新しく見つかった癒し手がやったんじゃないかって噂だぜ。」
「それって…アリアンナちゃんか!?」
「知ってるのか?」
「逆に知らねぇのかよ!癒し手なのに腰が低くて気が利いて…何より胸がデカいんだぜ!」
「マジかよ!?ちょっと探しに行こうぜ!」
そう言ってゾロゾロと兵士達は移動を始める。
その後、彼等にヴィクトリアの鉄拳制裁があったのは言うまでもないだろう。
◆◆◆◆◆◆◆
「はぁ…。」
自室のベッドに倒れこむように身を投げる。
未だ頭の整理はついていない。
「ユキが……男…。」
驚愕の事実はいきなり突き立てられた。
ケルベロスを討伐し残った魔物の殲滅が終わった後、サスケはあの冴えない男を連れてきて言ったのだ。
彼がユキであると。
何かの冗談だ。
確かに彼は優れた力を持っている。
しかし男…男なのだ!ヒーラーであるはずがない!
3年前。
仲間達が消える前までは、男のヒーラーも少なからず存在した。
だが今では違う。
男のヒーラーはあの日…偽りの塔への入口が固く閉ざされ仲間達が消えたあの日、種族問わず全ての者が癒しの力を失った。
理由は未だ分からない。神の気まぐれとしか言いようがないのだ。
だからヒーラーであるはずがない。
そもそも!ユキは女だ!3年間共に過ごしてきた私が間違えるわけがない!
食事を共にし、マーケットで装備や服を一緒に買い、金が無い時は1つのベッドで一緒に眠り、小さな風呂場で一緒に―――。
「……おい…まて…。」
ちょっと待て。
もしも…もしもだ!
あの男が本当にユキだったとしたら…私は……男と一緒に……―――!?
急いでベッドから飛び起き部屋から出る。
…ありえない。
ありえないありえないありえない!!
ありえるわけがない!!
だが…あの男は申し訳ないといった表情で自己紹介をし、自分がユキだとも名乗った。
「おい、貴様!」
「は、はいっ!なんでありましょうか!聖騎士長!」
「白いローブ姿の男はどこだ!サスケ…黒装束の男と一緒だったはずだ!」
「た、確か…南の食堂だったかと――。」
加えてサスケのこともジョーのことも知っていた。
そういえば…昔、ミラージュパウダーとかいう他人になりすませるアイテムがなかったか?
つまり…つまりだ!
ユキが私を騙していたのなら……。
バンッ!と乱暴に食堂のドアを開く。
そこは何故か煙だらけだったが、目的の人物はちゃんといた。
「ヴィクトリアさんも食事ですか?」
目を閉じて意識の全てを耳に傾ける。
声色は全く違う。だが、口調であったり細かなアクセントなどは中々変えれるものではない。
ユキはそんな器用な性格ではなかった!
「えーっと…ヴィクトリアさん?」
よく聞けヴィクトリア。そして思い出せ。
こんな…こんな男がユキであるはずがない!私が尊敬し、憧れた女性であるわけが――。
「もしかして…怒っていらっしゃいます?」
「―――っ!!」
その瞬間、私は男の頬を叩いていた。
確信してしまったのだ。
この言葉は以前にも聞いたことがある。
ユキと初めてケンカをした時。
『働いているのか?』と聞かれ、黙りこんだ私にあいつは……同じように――言ったんだ。
「あっ…。」
涙目になっている私を見てなのか、叩かれたことに対してなのか。どちらなのかは分からないが、呆然とした様子で私を見上げる。
違うと言え。
違うと言ってくれ!お願いだから…――っ!
だが、男から出た言葉は私の望んでいたものではなく…。
「ありがとうございます?」
再度私は力一杯、手を降り下ろした。




