決着の一撃
ケルベロスの攻撃パターンは決まっている。
溜めからの直線状の突撃・左右の頭から吐かれる前方範囲のブレス・後方に扇状の範囲攻撃・中央の頭が使用する回避不可の全体攻撃。
気を付けるべきはこれぐらいだ。なにせ奴は"二つ名"ではない。
「双牙!舞千鳥!忍法風魔手裏剣!」
気合いの入った声を発しながらサスケは舞う。光の太刀を握り締め何度も何度も斬りかかる。
ケルベロスのHPゲージはゴリゴリと減り50%を切ろうとしていた。
流石だな。固定でもダントツのDPS(1秒間に与えるダメージ量)を叩き出していただけのことはある。
「そろそろくるか…。」
ケルベロスのゲージを注意深く観察する。そしてついにHPゲージは50%を切った。
「二人とも!急いでこっちに!」
「「!?」」
俺はサスケの方へと走りだしスキルを口にする。
「聖域!」
「ウォォォォォン!!」
小規模の聖域を設置し急いで中へ入る。と同時にケルベロスが大地を震わすほどの雄叫びをあげると、中央の頭は大きく口を開き炎の渦を吐き出した。
辺り一体は炎の海。草木は一瞬で灰になり、地面は溶岩の様にドロドロと溶けていく。
聖域の効果や防具のおかげでダメージ自体は大したことないが目眩がするほど熱い。
「ぐっ…。そうか…フェーズ移行か…。」
「アチチッ!!そういやそんなものあったでござるな。」
「あのなぁ…二つ名じゃないからこれでなんとかなってるが、もうちょっと注意しろよ!ハイヒールオール!!」
急いで範囲回復を使う。
優しい光が身を包み、細かい怪我があっという間に治っていく。自分にハイヒールを使ったのは初めてだがこんな感じがするのか。あれだけ熱いと感じていた熱風がまるでそよ風だ。
回復スキルてすげぇのな…。
「驚くべき回復量だ…。」
「いやはや、流石はユキ氏でござるな。ハイヒールでここまで回復するとは。」
「ユ……おい、サスケ。それはどういう――。」
「二人共、話は後だ。ほれ、お客さんがお待ちかねだぞ?」
炎を吐き終えたケルベロスは一直線にヴィクトリアさん目掛けて突撃をかける。
俺とサスケは左右へ跳び回避。ヴィクトリアさんは正面から盾を構えて受け止めた。
すぐにヴィクトリアさんへヒールとリジェネレイトをかける。
サスケは印を切り雷を叩き落とす。しかし、ダメージ量は先程よりも少ない。
それもそのはず。
第二フェーズに移行するとケルベロスの攻撃力と防御力は上昇するのだ。
普通ならここで物理・魔法防御を下げるスキルを使うのがセオリーだが、それは魔法職のアタッカーしか使うことが出来ない。
(負けることはないだろうが…長引かせて他に被害が出れば…。)
二つ名でないケルベロスなら俺達3人に敗北はないだろう。
だがそれ以外の兵士達は別問題だ。
雑魚敵は次第に数を減らしていく。そうなれば彼等はケルベロス討伐に参加しようとするだろう。
そうなると俺は今のようにヴィクトリアさん中心の回復が出来なくなる。
それを避ける為には―――。
(俺が攻撃に参加するしかないが…ヒーラーの俺じゃ…。)
ヒーラーの攻撃力は微々たるものだ。ゴミと言っても過言ではない。
先程から使っているヴェノムは相手を毒状態にし継続ダメージを与えるものだが、それでも総ダメージ量は知れている。
(いや…まてよ。確か女神のスキルに攻撃スキルっぽいのが1つ……。)
どれぐらいの威力があるかは分からないが試す価値はある。
何せ【神のいたずら】であの効果だ。なら――!!
「エクスヒール!迅速術!ストーンウォール!」
ヴィクトリアさんのHPを全回復させ保険のストーンウォールを貼る。これなら俺が多少攻撃に回っても問題ないはずだ!
「神速術!て―――!?」
スキルを口にしようとしても言葉がすぐに出てこない。
なんだこりゃ!?詠唱に時間がかかるってのか?神速術を使ってるのに!?
「ユキ氏!?何を棒立ちしてサボって――。」
『今は詠唱中だ!少し黙っててくれ!』
「詠唱?なんのスキルでござるか!?こんな長い詠唱見たこともないでござるよ!」
『俺だって分からねぇ!でもきっとスゲェのに違いねぇ!』
「なんでござるかそれは…。でもなんだか面白そうでござるな!景気良くブッパするでござるよ!」
気楽に言ってくれるぜ。
でも……ここでやらなきゃ――!!
「男じゃねぇよなぁぁ!!」
詠唱は終わった!
見てろよケルベロス!ヒーラーだってなぁぁぁぁ!!
「攻撃出来るんだよぉぉ!!」
大げさに手を上げ、ターゲットに向かって振り下ろす。
そのスキルを叫びながら――!!
「天撃ぃぃぃぃ!!」
俺の頭上に何十もの魔方陣が展開され、天に向かって1本の光の矢が飛んでいく。
魔方陣を1つ潜る毎に速さは増し、あっという間に矢は雲を射抜いた。
辺りはシンッと静まり返り、風は急に動くのを止め、そして――――。
天からの一撃が大地を貫いた。
◆◆◆◆◆◆◆
「あのさ、ユキ氏。」
「…なんだよ。」
肩肘をテーブルに付きフォークでクルクルとパスタを巻くサスケ。お世辞にも行儀が良いとはいえない。
「ヒーラーってのは回復職でござるよな?」
「そうだな。」
「でも攻撃スキルもあるんでござろう?」
「多少はね。威力は大したことないけど。」
「大したことないねぇ…。」
「…。」
パスタを口に放り込み、フォークの先をチョンチョンと窓の方へと振る。
「地面に大穴開けて、ケルベロスのHPを一気に半分近くもっていくスキルが大したことないわけないでござろう!」
「オッシャルトオリ。」
窓の先には先程まで俺達がケルベロスと戦っていた場所が見える。
そしてそこにはクレーターの様な跡。
はい、そうです。私がやりました。
仕方ないだろ!
まさか、あんな威力あるとは思いもしなかったんだよ…。
「なーんか…自信無くすでござるよ、拙者。」
「いや、でもあれ1日1回しか使えないんだぜ?威力はあるかもしれないけど詠唱だって長いしさ!使い勝手悪いだろ?」
「それでもケルベロスのHP半分吹き飛ばす威力でござるよ?」
「うっ…。」
「加えてユキ氏、魔法攻撃力上がるバフ使っていないのでござろう?」
「ま、まぁね…。」
「はぁ…妬ましい。妬ましいわー。」
テーブルに伏してオーバーアクションを取るサスケ。口調が普通になっていることから相当ショックだったようだ。
気持ちは分かる。
俺だってアタッカーに自分よりも回復量の多いスキル使われたらこうなるだろうし。
「でもさ、サスケの分身だって凄いじゃないか!」
「あぁ…あれでござるか…。」
「最高何体出せるんだ?」
「んー?今は16体が限界でござるな。ユキ氏のアレに比べたらそれこそ大したことな――。」
「てことは、まだ増やせる可能性あるわけか。」
「!!」
「そのうち100体とか出せるようになったりしてな。なんて――。」
「それだ!!」
サスケはガタッと椅子から立ち上がるとウンウンと何度も頷き、パスタの皿を持ち上げ残りを一気に口へと掻き込む。
「ユキ氏。拙者秘密の特訓を始めるでござる。」
「お、おう。」
「異世界転生といえば特訓!なんでこんな簡単なテンプレを忘れていたのでござろう!!」
「そ、そうだな…。」
「というわけでユキ氏!サラダバー!」
そう言い残して、サスケは煙と共に消えていた。
まぁ…結果的に元気出たみたいだし、いっか。
「ん?」
煙が晴れていくと、そこにはサスケの代わりにヴィクトリアさんが立っていた。
「ヴィクトリアさんも食事ですか?」
「…。」
なんとなく軽い気持ちで声をかけたのが不味かったのだろうか。
ヴィクトリアさんは目を伏せ、無言でこちらへ歩み寄る。
「えーっと…ヴィクトリアさん?」
「……。」
「もしかして…怒っていらっしゃいます?」
「―――っ!!」
パンッと乾いた音が部屋中に響く。
俺の頬は熱を持ちジンジンと痺れている。
目の前には顔を真っ赤に染め涙目になっているヴィクトリアさん。
えっと……こういう時はどう言えばいいんだ?
確か…――。
…
……
………そうだ!!
「あっ…。」
「……。」
「ありがとうございます?」
もう一発殴られたのは言うまでもない。
第二章はこれで終わりです。三章も流れは決まってるので、なるべく早くあげたいと思ってます




