VSケルベロス ③
なんだかんだで40話です。
最初にユキと出会ったのは6年前。私が14歳…まだ騎士見習いだった時だ。
ライエル家は代々王家に仕える騎士の家系。それゆえにたとえ女だったとしても、私に対する周囲の期待は大きいものだった。
だが…当時14歳の私にとって、それは大きな重荷だったのだ。
確かに剣術は同い年の中で一番ではあった。だがそれはあくまでも"女"の中での話である。
力では男に勝つことなど出来ない。それが当たり前。そう思っていた。
ユキに会うまでは。
あの時のことは今でも覚えている。
その日は一人になりたくて、剣も持たずに城壁の外へ出た。
木陰でウトウトとしている間に、目の前には一頭のバッファローが居たのだ。
武器も防具もない私はただ恐怖に震えるだけ。
そして、バッファローは大きな唸り声と共にこちらへと向かってきた。
もう駄目だ、と目を瞑った時―――彼女…ユキが現れたのだ。
年齢は私と変わらないくらい。
長く綺麗な金髪に整った顔立ち。最初は貴族の令嬢かとも思った。
だが彼女は綺麗なドレスではなく、皮の胸当てに古びた鉄の具足という貴族と呼ぶには程遠い格好。例えるなら、街でよくみかける冒険者と呼ばれる者達と似ていた。
そして彼女は、自身よりも大きなバッファローにボロボロの長剣1本で挑んだのだ。
勝てるわけがない。
私はそう思った。
だが彼女は諦めなかったのだ。
バッファローの突進を喰らっても逃げることなく、何度も何度も剣を振るい続けていた。
そして最後には見事一人でバッファローを倒したのだ。
呆然と見ている私の元に近寄った彼女が最初に言った言葉。それは今でも耳から離れない。
だってそうだろ?足に力も入らず座り込んでいる私に『もしかして、貴方の獲物でしたか?』なんて聞くのだから。
笑った。久しぶりに…本当に久しぶりに笑った。
嬉しくて、悔しくて、悲しくて――でもそれ以上に可笑しくて。
それがユキとの最初の出会い。
私の人生が変わった瞬間だったのだ。
◆◆◆◆◆◆◆
シールドバッシュを入れたというのにケルベロスのターゲットは私ではなく癒し手と名乗る男の方に向いたまま。
理由は分かっている。ならば、私がやることは1つしかない。
「こっちを向けぇぇぇぇ!!」
腹の底から大声を出すとケルベロスは一瞬だがこちらを向く。私は見逃さず、距離を一気に詰め剣を振るう。
横に一閃させ間髪入れずに縦へ斬り十字架の残像を残すクロススラッシュ。そこから体をグルリと捻り、勢いを殺さず相手を突くインパルスエッジ。
相手は多少ぐらつくものの流石はケルベロス。すぐさま反撃の前足を振り下ろす。
「フロントガード!」
大盾が鋭い爪と交錯しキリキリと嫌な音が。
後方に跳躍し再び距離を取り息を整える。フロントガードで守ってはいるが、相手の攻撃を完全に塞ぐことは出来ておらず額からは鮮血が流れた。
「とりあえず、こっちに気が向いてくれたが…どうしたもの―――!?」
突然のことだ。
薄い緑色の膜が身体中を被ったかと思うとすぐに消え、その後に私の周りをクルクルと光りの剣が回ったかと思えば一斉に剣先をこちらに向け体を貫く。
私はこれが何かよく知っている。
プロテクトと光剣の輝きという魔法だ。
戦闘前にユキが毎回使ってくれた癒しの魔法。
「まさかっ!?」
そう思い後ろを振り返るが、勿論そこにユキの姿はない。
だが、誰がこの魔法を使ったかはすぐに分かった。
癒し手と名乗るサスケと同じ黒髪に黒い瞳をした男。不本意だが一時的にパーティーを組んでいる"奴"が使ったのだ。
白薔薇騎士団の癒し手でも、この2つの魔法を使える者は少ない。
それを…あんな冴えない顔をした男が……。
ふと目が合う。
男は何も言わず軽く頷いた。
「サポートは任せろ、か……フッ。」
返すように私も頷く。
奴が誰かは分からない。だが何故だろう?妙に心が踊る。
「行くぞ!ケルベロス!!我が剣、受けてみよ!!」
まぁいいさ。
今は私が出来る最大限やるだけだ!
◆◆◆◆◆◆◆
その後も、奴の行動は常軌を逸していた。
私が傷を負えばすぐに回復魔法を使い、火傷を負えばクリアを使って回復させる。
更にはケルベロスの放つ炎と雷をエレメンタルウォールで軽減させ、突進攻撃の直前にストーンウォールを絶妙なタイミングで唱える。
しかもこの間にケルベロスを毒状態にさせダメージまで与える始末。
完璧なのだ。文句のつけようがないほどに。
私が知る限り、ここまで出来る癒し手はユキをおいて他にいない。
奴は一体…――。
「血懐刃!」
声と共に黒い閃光がケルベロスの前足を駆け抜ける。
ザシュッという斬撃音と同時に大量の血が噴出し、ケルベロスが悲鳴をあげた。
「やぁやぁヴィクトリア氏。遅れてすまんでござるよ。」
あれだけの一撃を加えたというのにサスケは自慢をするわけでもなく普段通りの口調。本当に出来た男だ。
「他の魔物は?」
「大体は片付けたでござるよ。まぁ多少は残っているでござるが、あれぐらいなら拙者がいなくても問題ないでござろう。増援も出てこないようでござるし。」
「なるほどな。ところでサスケ、1つ聞きたいのだが…。」
「なんでござる?」
「奴は一体誰だ?」
「え?」
「あのような癒し手…ヒーラーがいるなど聞いたことがない。しかも"男"だ。あれがお前の言っていた助っ人なのか?」
「ヴィクトリア氏…それ本気で言っているでござるか?」
「無論だ。」
「な、なるほど。ここまで鈍感キャラだったとは予想外でござった…。」
「どういう意味だ?」
「いや、なんでも…。とにかく、この犬をさっさと倒すでござる。話はその後で。」
「そうだな。奴の注意は私が引く。攻撃は任せたぞ、サスケ!」
「どんとこいでござるよ!」
先導を切って私は駆けた。
ケルベロスの後ろにピタリと付くと、奴もこちらを向き直る。これでサスケは後方からの攻撃に専念出来るだろう。
決着は……すぐそこまで迫っていた。




