悪意
短いです。でも更新が早い。
「タナトス。」
「…なんだ。」
「いくらなんでも"これ"は酷くないか?」
先程までのテンションはどこへやら。
呆れた顔で画面に映る"これ"を指差す。
大きく2分割された画面には黒い騎士と黒い忍者が映っており、両方共が群がる魔物を次々と倒していた。
「これが君の用意した児戯だと言うなら僕は君の評価を2段階は下げるよ?」
「お前の評価など興味はない。勝手にしろ。」
「そうかい。ではこんな下らない見せ物に時間を使うのは無駄だ。帰らせてもらうよ。」
そう言ってイシュトが席を立とうとした時だ。
タナトスは画面に向けて手を掲げ魔方陣を展開させた。
「お前は何も分かっていない。」
「なに?」
「人間という生物が最も絶望する瞬間というものを。」
「…。」
「期待、希望、それに手が届きそうな時。圧倒的な理不尽が迫ってきたと…勝利することは出来ないのだと知った時の表情。お前は見たくはないのか?」
「つまり、ここからが本番だと?」
「帰りたければ勝手にしろ。私は一人で楽しませてもらう。」
そう言うとタナトスは魔方陣を指で軽く叩く。画面へと押し出されたそれは吸い込まれるように消えていった。
(もうしばらく付き合うか。)
イシュトは再び椅子へ腰掛け画面を見る。
◆◆◆◆◆◆◆
「せぇいやぁぁぁ!!」
もう何度目か分からない斬撃を放ち魔物を倒す。
最初は無限に思えた死霊の群も今ではこちらと同数まで減らすことが出来た。
といっても、こちらに損害がないわけじゃない。
いくら俺のレベルが高くても敵を全て引き付けることは不可能だ。
あぶれた魔物は俺以外の騎士へと襲いかかっている。
騎士達はツーマンセルで行動しているので、相手が複数でない限りは負けはしないだろう。
それでも怪我を負って後方に下がる数は絶えることがない。
俺は自分のHPMPバーの下にあるアリアンナのバーを確認。
事前にアリアンナをパーティーに加入させているので、どれだけ離れて戦闘をしていてもステータスの確認は出来る。
HPバーは満タンのまま変わりはないが、MPバーは物凄い勢いで減り続けていた。と、残り1割になったかと思うと今度は一気に最大値まで回復する。
おそらく俺が渡したMPを回復するマナ水を使用したか、レベルアップしたかのどちらかだろう。
彼女の熱意に負け、俺はアリアンナに天職を与えた。
ヒーラー基本職1つ【クレリック】
攻撃スキルはほぼ覚えることがなく、HP回復・状態異常回復スキルを中心に覚えるシンプルだが最もヒーラーらしい職業だ。
細かい説明をしている暇がなかったので怪我人が来たらヒールを唱えて、疲れてきたらマナ水を飲むといった簡単な指示しかしていない。
チュートリアルも済ませない状況で回復作業を押し付けた形になってしまったが、アリアンナは嫌な顔1つせず頷いてくれた。後で謝っておかないと。
【ユキ氏ー。そっちの調子はどうでござるか?】
ポーチから生命の水を取りだし飲んでいると、突然サスケの声が聞こえる。
あいつの担当は北門だ。まさか…もう終わったのか!?
【ややっ?ユキ氏個人チャット使えないのでござるか?】
個人チャット?
………あぁ!そうだった!
ここはゲームと同じ世界。だったら個人チャットだって出来て当然じゃないか!
慌ててチャットメニューを開きサスケとの回線を繋げる。
残念だがチャットログは残っていない。
【えっと…これでいいのか?】
【やっと使えたでござるか。鈍いでござるなー……よっと!】
【仕方ないだろ。ここに来て2週間も経ってないんだから。】
【え?】
【え?】
【あー…なるなる……。そういうこともあるでござるな。うむ、実にラノベっぽいでござる。】
【どういうことだよ。】
【それは後でござろう?今は雑魚狩り…といっても、ほぼ終わりそうでござるが。】
【こっちもだ。思った以上に増援が湧いてこなくて助かったよ。】
【ユキ氏の方もでござるか?なんだか拍子抜け……いや、待つでござる。】
【どうした?】
【ユキ氏!地図!地図!!】
【地図?】
言われるがままに地図を開く。
そこには南門に押し寄せる赤い壁。いや、大勢の魔物の声が群が!
しかもその中には大きめの紫色をした丸が1つ。
通常の雑魚敵は赤で表示される。パーティーメンバーは青。NPCは黄。そして紫は―――。
【ボスモンスター!?】
【まずいでござるよユキ氏!南門は兵の数は多くても、ボスに勝てるような人材はいないでござる!】
【聖騎士長てのはどうしたんだよ!】
【西門担当でござる!しかもまだ気が付いていないでござる!】
【あぁ!くそっ!!サスケ!俺は今から南門に行くから、お前もさっさと来てくれ!ボスの種類によっちゃ、俺一人でも勝てないぞ!?】
【そうしたいのは山々でござるが……どうにも簡単には行けそうにないでござる。】
【!!】
再度地図を見ると、まるで狙ったかのように多くの赤い点が北門近くに現れる。
【ユキ氏!拙者も出来るだけ早く向かうでござる。ヴィクトリア氏にも直ぐ行くように連絡するでござるから、それまで任せたでござるよ!】
【分かった!さっさと来いよサスケ!!】
そう言ってサスケとの個人チャットを切ると、俺は大声で叫ぶ。
「緊急事態だ!南門に魔物の増援!大型も混ざっている!!」
「なんだと!?」
一番に返事が返ってきたのは部隊長さん。長だけあってよく全体を見てると感心するが、今は後回しだ。
「俺は今から南門に向かう。ここの増援はおそらく少ない。後お願いしますよ!!」
「………分かった!頼みますぞ!黒騎士殿!!」
返事を聞き終える前に俺は剣を鞘に納め、愛馬ブリュッツェンを呼ぶ。
砂嵐と共にブリュッツェンは姿を見せ鼻息を荒立てていたが、俺の姿を見るや否や静かに……というかあからさまにしょんぼりしている。なぜだ?
「まぁいいや。ブリュッツェン!時間がないから全速力で南門に移動だ!頼んだぞ!」
鞍に跨がり首を軽く叩いてやる。
『やれやれだぜ。』と言わんばかりに首を振ると、ブリュッツェンは風の如く駆け出した。
…
……
………そういえば、サスケがさっき気になることを言っていた気もするが…気のせいかな?
多少の疑問を感じながらも俺は南門へと向かう。
ブリュッツェンの脚のおかげもあって、到着に時間はかからなかった。
だが―――。
「何だよ……これ……。」
そこで俺を待っていたのは、言葉で表現出来ないほどの"絶望"だった。
更新が長い間途切れていましたが、なんとか再開しました。ブクマも増え本当にありがとうございます。




