再会の晩餐会 ②
「ではユウキさん、こちらの部屋で待っていて下さい。時間になったら迎えにきますので。」
そう言って足早に去っていくマルコ。
乗り気にはなれないが、一回だけのことと割りきるしかない。
大丈夫。俺は社会人だ。得意先に頭を下げることに比べればこれくらいのこと――。
「はぁ…。」
ため息混じりにドアノブへ手をかけ扉を開く。
「晩餐会ねぇ。やっぱ服装はスーツとかの方がいいのか――。」
「えっ?」
「へ?」
部屋には先客がいた。誰でもない、アリアンナだ。
ローブの裾を両手でつまみ、丁度腰の高さまで持ってきた状態で停止している。
着替えようとしていたのだろう。側には支給されたであろう深紅のドレスと装飾品が置いてあった。
「…。」
「…。」
互いに沈黙が続く。
ふむ。
この場合、先制攻撃を仕掛けたほうがいいか。
「ありがとうございます。」
「いっ―――…いやぁぁぁぁぁ!!」
避けようと思えば避けれたが、あえて避けずに俺は投げられた花瓶を顔面で受け止める。
多分これが正しい作法なのだ、うん。
◆◆◆◆◆◆◆
「俺は暗黒騎士だ。」
「…。」
「孤独になろうとも、深い闇の道を歩いていこうと決意した者だ。」
「…。」
「故にその瞳は漆黒しか捉えることしか叶わない。」
「………見たんですか。」
「清々しい青空だった。」
「やっぱり見たんじゃないですか!!」
半べそをかきながら部屋の隅にうずくまるドレス姿のアリアンナ。
「胸は触られるし…ぱ、ぱぱぱパンツは見られるし……お嫁に行けない…。」
「大丈夫だ!アリアンナはきっと素敵なお嫁さんになれる。俺が保証しよう。」
「なんの保証ですか!!本当に責任取って――。」
「お二人とも、そろそろ準備はよろしいですか?」
扉の向こうから聞こえたのはマルコの声。
本当にタイミングよく現れる主人公だ。
「あ、あぁ。入っても大丈夫だ。」
「では早速――…って、どうしたんですか?」
微妙な空気を漂わせる室内にマルコは首を傾げる。
「ちょっと幸……トラブルがあってね。そうだマルコ。確認したいんだが、俺はこの格好で問題ないか?」
「そうですね。兜さえ被らなければ問題ないと思いますよ。マントは派手かもしれませんが…。アリアンナさんも…その……よ、よく似合ってますよ。」
「あ、ありがとうございます…。」
若干頬を染める二人。
青春。青春の香りがする。実に妬ましい香りだ。
◆◆◆◆◆◆◆
「この向こうが会場です。ユウキさん、なるべく失礼のないようお願いします。」
マルコ君。なぜ私個人に言うのだね。
ふと隣にいるアリアンナへ視線を移す。
髪は普段のツインテールではなく下ろしている。
輝く装飾品とドレスを纏った姿は、まるで育ちの良いお嬢様といったところだ。
全身をガチガチにしている点を除けば、だが。
仕方ない。
「ほら。」
俺は右手を差し出す。
いっぱいいっぱいといった表情のアリアンナはキョトンとした顔で見上げてくる。
「女性をエスコートするのは騎士の務めだ。」
「ユウキさん…。」
決まった。決まったぞ椎名優樹。
よくこんな背中が痒くなる台詞を口にしたものだと自分でも誉めてやりたい,
「パンツを見られた騎士に言われると複雑な気持ちになります。」
「そこは妥協してもらえると助かる。」
「妥協したら駄目だと思うんですけど。」
おっしゃる通り。
「もう…仕方ないですね。少しは格好いいとこ見せてくださいね?騎士さん?」
小さな手がちょこんと重なる。
女の子の手を最後に握ったのはいつだっただろうか?
駄目だ、考えると悲しくなってきた。
「よ、よし!いくか!」
「はい。」
クスクスと笑うアリアンナ。
落ち着け、落ち着くんだ椎名優樹。
余裕だ。大人の余裕を見せるのだ。
◆◆◆◆◆◆◆
「予想通りで逆に緊張しないもんだな。」
晩餐会の大ホールは既に多くの人で賑わっていた。
メイドに執事は勿論、俺やマルコ同様に鎧を着た騎士。そして派手な服を着た品の良さそうな老若男女などなど。
おそらくあれが貴族というやつなのだろう。
「では僕は挨拶回りがありますので、お二人はゆっくりして下さい。」
「マルコも大変だな。」
「あはは…出来た姉を持つ身ですから。では。」
そう言い残してマルコは人の輪へと消えていく。
若いのに良くできた青年だ。いや、俺も若いんだけど。若いんだけどね!
「おぉ、ユウキ殿にアリアンナ殿!」
野太い声が背中か聞こえたかと思うと、バンッと肩を叩かれる。鎧越しじゃなかったら腫れ上がっていてもおかしくない威力。
「オッサン。もう少し加減てものをだな…。」
顔を確認するまでもない。ウォードのオッサンだ。
「んん?細かいことは気にするな!ユウキ殿!ガハハ!」
「だから痛いって!――っと、サラさんも一緒だったのか。」
「当たり前でしょ。あんたが呼ばれて私達が呼ばれないわけないでしょうが。」
相も変わらずツンツンした態度のサラ。
彼女もアリアンナ同様にドレスである。
違う点といえば、スカート丈が長いアリアンナに対して彼女の丈は短い。
ドレスの装飾も少なく体の形がはっきりと分かってしまうが、そこは流石騎士といったところか。
無駄のないスレンダーな体型からは洗練された美しさを感じるほどだ。
「サラ様。ドレス、よくお似合いです!」
「ふふん。当然よ。なんてったって私は隊長の優秀な―――。」
そこでサラの言葉は止まる。
視線の先にあるのはアリアンナの胸。小さく穴が開いていおり、しっかりと谷間が自己主張している。
眼福。
「サラ様?」
「い……。」
「い?」
「いい気にならないでよ!私にだってあるんだから!!」
「す、すみません!」
「落ち着けサラ。場所を考えろ。」
サラの声に周りからの視線が集まる。
しまった!と言わんばかりにみるみるサラの顔が赤くなり、今にも煙が上がりそうな状態だ。
「さて、我々はマルコ殿の元に行くとするか。ではな、ユウキ殿。アリアンナ殿。」
そう言ってウォードとサラは去っていく。
ウォードの体が大きいのもあるが、それ以上にサラの体が小さく見えて俺は少し笑ってしまった。
「ユウキさん。サラ様は――。」
「アリアンナ。人は平等ではないのだ。」
「はい?」
「平等ではないのだ。」
「はぁ…。」
首を傾げるアリアンナ。天然とは恐ろしいものだ。
「御来場の皆様。」
と、突然ホール内に女性の声が響く。
それは声だけで美人だと確信出来るもの。
「今宵は私が主催致しました晩餐会に出席して頂き有り難うございます。」
「おぉ…ソフィア様。」
「相変わらず御美しいですわ。」
「えぇ、本当に。羨ましい限りですわ。」
賛美の声がありとあらゆるところから聞こえる。
遠くてよく見えないのが残念で仕方ないな。
……ところで――。
「ソフィア様って誰だ?」
「何を馬鹿なこと言ってるんですかユウキさん!ソフィア王女ですよ!ソフィア=ラトゥーナ王女です!まさか知らないわけないですよね!?」
「あー……うん。シッテル、シッテルヨー。アタリマエジャナイカー。」
そりゃそうか。城があって、騎士がいて、貴族まで存在するのだ。
王様だってお姫様だって王子様だっているわな。
ここは異世界なのだから。
「今宵、私は皆様に紹介した人物がおります。」
ソフィア姫の一言に、ホール内が一層騒がしくなる。
「あぁ、すみません。誤解をされるといけませんので先に御伝えしますが、私の婚約者ではございませんよ?ふふふっ。」
冗談めいた言葉に笑いが起こる。
姫様というわりに随分とフランクな感じがするな。
さぞや国民に人気もあるのだろう。
「では紹介致します。私の騎士にして、ルミナス王国"最強"の戦士―――名を……。」
バッとホール中の灯りが消え、暗闇が一帯を支配する。
そんな中、ソフィア姫がいるであろう場所だけが異常なまでに輝いていた。
あれは――もしかして――……スキルか!?
「サスケといいますわ!」
その一声に、俺は自分の耳を疑った。
だが同時に小さな期待にも似た感情が胸を駆け抜ける。
そして次に、俺は異世界に来てから初めて……心の底から安心した。
だってそうだろ?
その声は相も変わらず、いつもの口調で喋るのだから。
「忍者サスケ、ここに見参でござるよ!」
――と。




