もう一人の転生者 ②
「それにしても驚きましたにゃ。ユキ様がまさか男性だったとは…。先代からは、それはそれは美しい女性と伺っておりましたので。」
ジルマの言葉に苦笑いを浮かべながら、俺は差し出された紅茶を口にする。
「先代ということは…。」
「はいですにゃ。手前は2代目。店主となって、まだ2年目の若輩者ですにゃ。」
「そうか。それは大変―――。」
…
………ちょっと待て。
「ジルマさん。つかぬことを聞きたいのだが…。」
「なんですかにゃ?」
軽く首をかしげ、ウサ耳を動かすジルマ。
なんと愛らしいことか。
「俺が最後に利用したのはいつか分かりますか?」
「お待ちくださいにゃ……。えーっと……あ、ありましたにゃ。約3年前ですにゃ。」
「3年前!?」
帳面を見ながら不思議そうな顔をするジルマ。
いやいや、おかしいだろ!
俺はこの世界に来て、まだ2週間も経っていないんだぞ?
サウザンドメモリーの保管所を最後に利用したのは、偽りの塔に挑む前だ。
なのに最後に利用したのが3年前ってことは…つまり……俺は……!!
「27になっちまったのかぁぁぁ!?」
ウサ耳少女を目の前に、発狂している30前の男がいた。
信じたくはないが俺である。
◆◆◆◆◆◆◆
コンコン
「誰だ。」
遠征に出て1週間ほどしか経っていないのに、扉の向こうのその声はとても懐かしく感じる。
「マルコ=ライエル。遠征より帰還し、報告に参りました。」
「はいれ。」
「はっ!失礼しま―――!?」
僕は硬直する。
部屋の中には姉上がいた。
姉上の部屋なのだから当然だ。だが問題なのは、その格好である。
「遠征ご苦労、マルコ。さっそく報告を―――。」
「なななな、なんて格好をしてるんですか!姉上!」
赤面する僕を、『どうかしたのか?』とでも言いたそうな表情で見つめる姉上。
上半身は騎士団長の制服に銀の胸当て。これはいい、普通の格好だ。問題はそこより下の部分!
姉上は片足を椅子に乗せ、黒のタイツを履く途中らしい。
勿論ズボンやスカートは今履いていないので、先程からチラチラと小さな逆三角形状の物体が視界に入るわけで…。
「入ってくるのが僕だけではなかったらどうするつもりだったのですか!」
「お前一人と"分かっていた"のだから問題ないだろう?」
「そうだったとしても、もう少し謹みを持ってください!」
「謹みか…。ふふっ、そうだな。善処しておこう。」
まただ。
姉上はたまに何かを思い出すような瞳で遠くを眺めては、こんな表情をする。
何を考えているか尋ねても答えてはくれない。
ただ――。
「姉上?」
「いや、なんでもない。」
こう言って、寂しそうに笑うのだ。
「それよりも姉上。なぜ軽装を?まさか…魔物が!?」
「そうではない。先程、シャール殿下に『模擬戦』が出来る格好で修練場に来るよう言われてな。その準備だ。」
「模擬戦…ですか。」
「あぁ…。全く、こちらも忙しいというのに…っといかん。もうこんな時間か。マルコ、報告は後程聞く。それまでは身体を休めろ。いいな?」
「はっ!」
「よろしい。では、行ってくる。」
そう言うと、姉上は愛剣を片手に部屋を出ていった。
「せっかく久しぶりだったのに…はぁ。」
肩を落とし、僕はウォードさん達がいるであろう詰所に足を向ける。
姉上とはまた時間をつくってゆっくり話そう。うん、そうしよう。
「はぁ…。」
だけどため息はしばらく止まりそうにもない。
◆◆◆◆◆◆◆
「謹みを……か。」
3年前は私がお前に言っていた言葉だったのに、今では私が弟に言われる立場になってしまったよ。
これでは今度お前に会った時に『女らしくしろ』なんて言えないな。
3年前、あいつは忽然と姿を消した。
しかも…私の目の前で……。
あいつだけではない。他の知り合いも全員が消えてしまい、私だけが残された。
その日以来、偽りの塔の門は固く閉ざされ開くことはない。
何が王国最強の聖騎士だ。
何が神に挑みし者だ。
仲間の一人も…大切な人一人も守れなかった。
私は未熟で弱い。だからもっと強くならなくてはならない。
いつかあいつに――ユキに、胸を張って逢えるように―――。
そんなことを考えていると、私は城内にある修練場へと辿り着いていた。
いかんな、こうもボンヤリしてては。
……にしてもおかしい。
修練場一帯は人払いをされており、蟻一匹通らない状態だ。
疑問を覚えながらも中に入ると、そこにはシャール殿下とソフィア王女の姿が。
「やぁ、ヴィクトリア。急に呼んですまなかったね。」
「いえ…。それで殿下、どういったご用件でしょうか?」
「うーん。それが僕にもよく分からないんだよ。妹が、どうしても君と戦いたいって聞かなくて…ね。」
「ソフィア様が……ですか?」
「あら、私では不満でしたでしょうか?ヴィクトリア様。」
そう口にするソフィア様は実に楽しそうな表情。
正直、私は彼女のこんな表情を見るのは初めてだ。
普段は大人しく、笑顔の少ない方というのが私のイメージである。
「いえ、決してそのようなことは…。」
「ふふっ、良いのです。それにヴィクトリア様と戦うのは私ではありませんわ。」
「どういうことだい?ソフィア。」
ほんの少しだけシャール殿下の瞳が冷たくなる。
これはなんだが嫌な予感がするな…。
「実はお兄様に紹介したい方がおりますの。」
「ほう。ソフィアの好い人かな?」
「ご冗談を。ただの護衛ですわ。」
「なんだ…。それぐらい、お前の好きに――。」
「ヴィクトリア様よりも強い…と言ったら?」
兄妹の間に漂う空気が変わる。
それよりもどういうことだ?
私よりも強い護衛??
「ねぇお兄様。私、はっきりさせたいだけなのです。お兄様の騎士と私の護衛。どちらが強いのか。」
「なるほどね。僕も興味があるよ。ヴィクトリアよりも強いという人物に。で?その人は何処にいるんだい?」
「ふふっ…もういますわ!」
パチンっとソフィア様が指を鳴らす。
すると突然、部屋を白く染め上げる程の大量の煙が!
「殿下!お下がりを!」
急いでシャール様の前に立ち、剣柄を握る。
目を凝らしてみると、ソフィア様が立っているであろう場所には2つの影。
1つはソフィア様だが、もう1つの影は……なんというか…丸いな…。
「紹介いたしますわ。私の最強の護衛…名を……。」
轟音と共に吹き上げる突風。
煙は一気に散らされ、影の姿がはっきりと目に映る。
そこにいたのは―――。
「サスケと言いますわ!」
黒装束を全身に纏い、眼鏡をかけた小太りの男。
こいつが私よりも強いと……いうの…か?
というか、サスケってもしかして……!!
「お前…。」
「やっほ、ヴィクトリア氏~。お久でござるよー♪」
軽い口調で手を振る小太りの男。
間違いない。姿こそ違えど、私をこんな風に呼ぶ男は今まで一人しか会ったことがない!
「サスケ…なのか?」
「そうでござるよ。ニンニン♪」
こいつは私の知っている"あの"サスケだ!!




