いざ行かん、王都へ ②
「手合わせ?」
日も陰り、辺りがオレンジ色に染まる頃。
馬を休ませ野営の準備をしていると、突然マルコがこう言った。『手合わせをして欲しい』と。
「先日の戦い…ユウキ殿は相当の手練れだと見受けました。しかも剣ではなく、拳1つで…。是非一度お手合わせ願えないでしょうか!」
「隊長殿は一度決めたら曲げない性格でな。頼む、ユウキ殿。」
同時に二人から頭を下げられては断るに断れないな…。
「少しだけなら…。」
「ありがとうございます!」
俺としても暗黒騎士のスキルを確認したいし、まぁいいか。
◆◆◆◆◆◆◆
「では…。」
お互いに即席の木刀を持つ。ただしマルコは盾も持っている。
より実戦に近い形でやらなければ、スキル回しの練習にならないからな。
ちなみに俺は盾を持っていない。
タンク系上位職業である暗黒騎士は武器を両手で持つ為、盾の装備は不可なのだ。
「行きます!」
声と同時にマルコが駆ける。
左手の盾を前方に傾けながらの突進。ナイトらしい守り重視の構えなのだろう。
「黒の波動。」
両手で木刀を持ち、真っ直ぐに構えて俺はスキルを口にする。
「!?」
盾の隙間から見えたマルコの表情は驚きを隠せない様子。
それもそうだろう。俺が着ている黒の鎧よりも更に深い黒が絡みつく枝のように全身を覆っているのだから。
「だぁぁぁぁ!!」
しかしマルコは臆することなく勢いの乗った突きを放つ。
木刀を下に傾け、マルコの切っ先を面で弾くように斬り上げる。そしてそのまま右にスライドさせて胴払い。
勿論マルコは対応し盾で防ぐ。
一瞬の攻防を終わらせ、再度俺達は距離を取る。
言うまでもないが俺に剣術の才能はない。
高校の頃に授業で剣道をやった程度。
にも関わらず、自然と体が動く。脳で思考するよりも先に、だ。
ほんと…どういう原理なんだろうか?
「流石ですね!次、行きます!」
威勢の良い声と同時に、今度は盾を前面に押し出した形でマルコは向かってきた。
よく見れば盾が僅かに光ってるな…もしかして…。
「不屈の心!」
咄嗟にスキルを口にし木刀を下段に構え、更に左腕を使って衝撃に備える。
「らぁぁぁぁ!!」
マルコは盾を下から上え持ち上げる様にぶつけてくる。
"予想通り"の攻撃。シールドバッシュだ。
事前に対策を講じたおかげでシールドバッシュでのダメージはなく、補助スキル【不屈の心】のおかげで厄介な追加効果である一時的行動不能の無効化に成功。
「なん…だって…!?」
シールドバッシュで俺が倒れるか後退すると思っていたらしくマルコは勢いそのままに前進。
勿論、盾は跳ね上がっているので防御に回すことは出来ない。
ここだ!
「ストレートブレェェド!」
上から下に木刀を降り下ろす。
慌ててマルコは右手の木刀で防御。だが永続スキル【黒の波動】によって俺の攻撃力は底上げされている為、力でねじ伏せ叩き落とす。
反応は流石だが、俺のコンボはまだ始まったばかりだ!
「クロススラァァァッシュ!」
流れるような動きで今度は横に斬り払う。
ストレートブレードの軌道と重なり空を十字に裂く。
「ぐぅぅ!!」
木刀はマルコの右脇腹を直撃。
鎧によって守られてはいるが、衝撃で体勢が崩れた。
「インパルスエッジ!」
クロススラッシュの勢いに任せ、ぐるんと体を360°回し腰の入った突きが風切り音をたてながらマルコの顔面を捉える。
だが、その切っ先は当たることなく鼻の手前寸でのところで止まった。
「ま、参りました…。」
両手を上げて答えるマルコ。
ちょっとやりすぎたかもしれない。
「これは…驚いた…。」
「嘘…でしょ…。」
一部始終を見ていたウォードとサラは小さく呟く。
アリアンナに至っては何が起こったのか理解出来ないようで、ただ茫然と立ち尽くしている。
「すまん、勢い余ってやっちまった。立てるか?」
「ありがとうございます、大丈夫です。頑丈には自信があるので。」
苦笑いをしながら俺の手を取り立ち上がるマルコ。
「それにしても…ここまで一方的に負けるとは思いませんでしたよ。」
そりゃ基本職と上級職だから仕方ないわな。
逆に負けたら俺が立ち直れなくなる。
「でも不思議です。あれは一体なんなんですか?」
「あれ?」
「ユウキ殿の体を覆った黒い影です。僕はあんな技見たことがありませんよ。」
あぁ…【黒の波動】か。
自身のHPを減少させる代わりに攻撃力を上げる永続スキル。
なんて言っても分からないよな。
「あれは暗黒騎士のみに許された禁術なのだ。」
「禁術!?そんな危険な術を使って大丈夫なのですか!?」
まずい。こいつ真に受けてるぞ。
なんだか小さい子供を騙しているようで心が痛む。
「それは……あれだ!暗黒騎士は闇の力でなんとかなるから大丈夫なんだよ!」
「なるほど…奥が深いのですね…。」
マルコの姉よ。
もう少し弟に人を疑うことを教えてやれ。
「いやぁ、凄まじい剣技。見事としか言いようがない。一体どの国に仕えているのですかな?」
ウォードの何気ない一言で視線が俺に集まる。
このオッサン…余計なことを……やはり"さん"は無しだ!
「仕えていた国はもうない。既に滅びてしまってね…。絶望と後悔の渦に叩き込まれた俺は鎧を黒く染め、暗黒騎士へとなってしまったのさ…。」
それっぽい言い訳をでっち上げる。
男二人はウンウンと頷いていた。男はこういう話が好きだから仕方ないね!
「なんか、凄く胡散臭いんだけど…。」
「サラ様もそう思われますか?」
「貴女と意見が合うのが癪だけどね。」
「うぅ…。」
ここまでアリアンナを毛嫌いしなくてもいいだろうに…。一体何が気にいらないん―――。
…あっ。
「サラさん。」
「なによ。隊長に偶然勝ったからって調子に――。」
「大きさが全てではない。」
「は?一体なんの―――。」
俺の視線を追うように自らの胸元を見るサラ。
「…。」
「全てではない。」
「……。」
「全てではないのだ。」
「三回も言う必要ないだろうがぁぁぁ!!」
こうして夜は更けていく。
◆◆◆◆◆◆◆
「いたたた…。全く、冗談が通じない娘だな…。」
数回ほど良いパンチをもらった俺は、トイレという名目でマルコ達から少し離れた場所へと移動する。
目的は勿論トイレ…ではなくスキルの確認だ。
「慣れた職業だからある程度は覚えてるが念には念を……っと。」
システムウィンドウからスキル一覧を開き目を通す。
モンクの時とは違い、暗黒騎士はある程度動きを理解している。
全てはヴィクトリアさんの熱心な指導のおかげだ。
『ユキはパラディンになるべきだ!』と何度も反対されたけど…。
仕方ないだろ?
だって暗黒騎士だぜ?職業名からして格好いい。メイン職業が光術師だったから余計にかっこよく見える。
『闇と光が合わさって最強に見える』ってネットでもよく言われてたしな!
暗黒騎士の特徴はやはり両手剣だろう。
基本職ナイトからの派生職業で唯一盾を装備しないのが暗黒騎士。
盾が無い為、防御力は落ちるが逆に攻撃力はタンク系上位職業でもトップクラス。
加えて、自身のHPを犠牲にすることにより更にダメージを増やすことが出来る。
まさにヒーラー泣かせの職業No.1。
「にしても…気になるのはアイツの言葉だよな…。」
イシュトは自分以外にもハズレを引いた神がいると言っていた。
つまり、俺以外にもこの世界ユグドラシルに来た人間がいるってことだ。
「出来ることなら知り合いだと助かるんだが……そんなうまくいかないわな…。」
空を見上げる。
ゲームの時と同じで月は二つ。
「元の世界に帰りたい…。」
本当に?
確かに両親や知人が心配ではある。だが俺も大人だ。
元の世界に未練があるのか?
「俺は元の世界に―――。」
自分自身に問いかける。
答えが出ないまま、俺は月を見上げていた。




