責任、とって下さいね??
目の前に広がる真っ白な部屋。ここには覚えがある。
アイツの部屋だ。
「どうだ。少しは自分という存在が理解できたかな?」
やっぱりか。
問いかけてきたのは、いつぞやのチャラそうな男。
相変わらず偉そうに両足を組み椅子に座っているな。
「偉そうじゃない。偉いんだ。なにせ僕は神なのだから。」
へいへい。そうですか。なら"様"をつけて呼んだほうがいいですかね?"イ・シュ・ト"様。
嫌味っぽく名前を呼ぶと、チャラ男ことイシュトは軽く舌打ちを打つ。ざまぁみろ。
「ふん。まぁいい。思ったよりも馬鹿ではないようだ。僕の部下なのだから当然ではあるが。」
ほんといちいち態度がデカイな。
それより、あれはなんだ?どうして俺が勝手に他人の職業を決められる?
「愚問だな。それぐらい自分で考えたらどうだ。」
この野郎…。
「まぁいい。今日の僕は機嫌が良い。クククッ…今思い出しても笑えるな。タナトスの"あの"表情…僕も大概ハズレを引いたが、ヤツに比べれば何十倍もマシだ!」
腹を抱えて笑うイシュト。相当面白かったのだろう。
それにしても…ハズレを引いたってことは、俺以外にもユグドラシルに来た人間がいるのか?
「ふん。機嫌が良いとは言ったが、教えてやるのは1つだけだ。神には様々な権限がある。その1つに、人間に天職を与えるというものがある。」
お前が俺を女神にしたようなものか。
「冗談を言え。なぜ、この僕が男を女神にするんだ?ありえない。」
そりゃそうだ。俺だってお断りだ。
「お前"達"は例外だ。我々の権限では解任させることも出来ない。……話が逸れたな。人間は最初から天職を持っているわけではない。僕等、神が選別し与えるのだよ。」
だから俺が二人の職を決めれたと?
「そうだ。そして天職を変える権限は"今"の貴様にはない。」
ちょっと待て!
てことは二人とも――。
「貴様が決めた職で一生を過ごすわけだ。どうだ、気持ちが良いだろ?他人の生を左右出来るというのは!ハハハハッ!」
嘘だろ…。俺はそんな大切なことを、あんな簡単に……。
「さて…ここまでだ。せいぜい今を楽しむんだな、女神。」
◆◆◆◆◆◆◆
目を開くと、そこは宿屋天井。
俺はベッドに大の字で寝ていたようだ。
寝起きとしては最悪。
チャラ男の顔を見たのもそうだが、それ以上に罪悪感が胸の奥から消えない。
今度二人に会ったら謝ろう。きっと理解はされないだろうが、そうしないと俺の気が済まない。
コンコン。
「ユウキさーん。」
部屋の外から俺を呼ぶ声。アリアンナだろう。
「起きてるよー。」
「朝食の準備ができま――。」
ドアを開けたアリアンナの表情が固まる。
一体どうしたんだ?
「な…な……。」
プルプルと体を震わせ指をさす。
その先を追っていくとそこには―――。
「なんですかこれはぁぁぁぁ!!」
半裸の男が俺以外に二人いる。
血の気が引くという言葉を身をもって味わった瞬間である。
◆◆◆◆◆◆◆
「今日の朝食は一段と美味しいな。」
「…。」
「目玉焼きも上手に焼けている。腕を上げたな、アリアンナ。」
「話かけないで下さい。知り合いに同性愛者を持った覚えはありません。」
ゴミでも見るかのような視線が突き刺さる。
どうやら俺にはマゾの素質がないらしい。また1つ自分を知ったな。
「いや、違うんだ!聞いてくれアリアンナ!」
「言い訳はみっともないぞ?ユウキ殿。」
「誰のせいだ!誰の!そもそも、どうしてあんたらが俺の部屋にいるんだよ!」
「仕方なかろう。酒場から一番近かったのがユウキ殿の部屋だったのだから。なぁ?マルコ殿。」
ワッハッハ、と笑いながらコーヒーを飲むウォード(さん、など付けてやるものか)。
対して、話を振られたマルコといえば先程の俺と同様に顔面蒼白。目には色が点っておらず、ブツブツと小声で何かを呟いている。
「俺は至ってノーマルだ!神に誓ってもいい!」
「神様を信じない人が言っても説得力ありませんね。」
「なら、この剣に誓おう!騎士に二言はない!」
そう言って、テーブルの隅に置いていた剣を高々と掲げる。
「ユウキさん、モンクじゃないですか!」
「そんな時もあった。若さ故の過ち…。だが、俺は生まれ変わったのだ!暗黒騎士として!!」
グッと剣柄を握りしめた。
決まったな。
「はぁ…もういいです…。それよりもユウキさん。昨日の"アレ"は本当に騎士様の誤解だったんですか?」
アリアンナは俺以外に聞こえないよう耳打ちをする。
俺は大人だ。
女の子の息が耳にかかったぐらいで動揺はしない。
どうよ!ってね。
「あぁ。どうやら人違いだったらしい。ただ、アリアンナには癒し手の素質があるかもしれないから一度王都に来てほしいんだと。嫌なら俺が断って――。」
「私が癒し手に……。」
駄目だ。聞こえてない。
口元を緩めながらポヤヤンとしてらっしゃる。
ちなみに、マルコ達には以下の様に説明をした。
・アリアンナの中にはもう一人の人格ユキが存在する。
・昨日、戦場にいたのはユキ。
・だから今の彼女には魔物と戦った記憶もなければ回復魔法も使えない。
・なぜ俺がそれを知っているかといえば、ユキの師匠に護衛を頼まれたからである。
といった感じだ。
勿論これはその場凌ぎのでっち上げ。
そんな話を『なるほど。』と頷いて納得するってことは、こっちの世界ではよくあることなのだろう。
「勿論、ユウキさんも一緒に来てくれますよね?」
「え?」
突然の発言に呆気を取られる。
「当たり前じゃないですか。騎士様とはお知り合いのようですし。私も…その……ユウキさんが居てくれるなら心強いかなって…。」
両手の人差し指をチョンチョンと合わせ恥じらうアリアンナ。
さてどうしたものか。
正直、アスタルクでの情報収集は期待が薄い。
それなら王都に向かったほうが妥当。
そしてなにより、今回彼女を巻き込んだ張本人は俺なわけで…。
「わかったよ。」
「本当ですか!?」
花が咲くような笑顔を見せる。
ここまで頼りにされて応えないわけにはいかんだろ。
「本当だ。」
「知ってますかユウキさん。今の私、ユウキさんのことあまり信用してないんですよ?」
「それは困ったな。」
「だから誓って下さい。ユウキさんの、その剣に。」
「あぁ、誓う。誓うともさ。」
半分投げやりで答えるが、なんだかアリアンナは上機嫌。
女心はよく分からんもんだ。
「フフフッ♪絶対ですよ?ちゃんと責任、とって下さいね?」




