誰が為にケンを取る ③
長くしようと思いましたが区切りが悪いので、もう少しだけ一章が続きます。
誤字脱字チェッカーとかないかな…。
大きな地鳴りと同時に地面が盛り上がる。
土砂崩れのような音。大量の土煙。そこから姿を現したのは―――。
「おいおい…。"オマエ"が出てくる場所…ここじゃないだろ…。」
ラフレシア。
俺はこいつに見覚えがある。
というか、嫌になるくらいよく知っている。
双龍の指輪を取る際に何度も何度も…な・ん・ど・も・!戦って倒したボスモンスター。
その回数は実に28回。時間にして約10時間ひたすらにダンジョンへ通ったのは嫌な思い出だ。
なるほど…敵の数がやたら多いのはこいつのせいか。
「格闘家殿!」
そう言って一人の騎士がこちらへとやってく……って!昨日酒場で飲んでた青年じゃないか!?
騎士だったとは意外だ…。
「よぉ、兄ちゃん。昨日は大丈夫だったか?」
「それはお互い様でしょう。再会を祝いたいのは山々ですが…。」
「あぁ…"アイツ"をどうにかしないとな。」
全長4mはある花の化物はいくつもの触手を動かし暴れている。
「ただでさえ数が多いのに…大型種まで出てくるとは…。」
「諦めるのは早い。ヤツさえ倒せば雑魚はもう湧いてこないはずだ。」
「というと?」
ラフレシアは戦闘中に種を蒔き、分身である小型のモンスターを増やす。芽が出る前に種を倒せば雑魚は増えないのだが、今回はどうも地中に蒔いているらしく対処が出来ない。
なんて説明しても通じないよな。
俺は青年騎士に簡単な説明する。
『大きいの、倒す、小さいの、増えない。』
みたいな感じで。
「なるほど…。つまりコイツを倒せば――!」
「completeってわけだ。くるぞ!」
うねうねと触手をうならせながらこちらに攻撃を仕掛けてくる。
俺と青年騎士は左右に跳んで初撃を回避。
熊と戦った時よりも動きがはっきり見えるのは攻撃職のおかげだろう。
「破拳!」
スキルを口にしラフレシアへと殴りかかる。手甲越しに伝わる感触。手応え…あり!
「連げ……!?」
続けて連続技を繋げようとした時、4本の触手が四方から迫ってきた。
こちらは突撃をかけスキルまで口にしている。回避は出来ない!
「きぃぃぃ!!」
連撃の3連打を叩き込むが直後4本の触手は俺の体を見事に捉え、激しい痛みと共に地面へと叩きつけた。
「格闘家殿!」
「いってぇぇな!この野郎!」
最大まで上げたレベルと装備のおかげでダメージはそれほどない。
3年間の努力は無駄ではなかった。
だが…。
「このままじゃらちが明かないな。」
ボスモンスターには共通して1つの特徴がある。
自然回復するということだ。
普段なら気にする必要はない。壁役が仕事をし、攻撃役がきちんとダメージを与えていれば軽く自然回復量を上回る。
そう…"全員が自分の役割をこなしていれば"だ。
青年騎士はおそらく壁役(というか騎士はほぼ全部壁役なんだが)。
なのに、敵の攻撃対象は攻撃役の俺。
彼はサボって敵視をキープしていなかったわけじゃない。ちゃんとラフレシアを攻撃していた。
ならなぜ、敵視がこちらに向いたのか?
答えは簡単。
俺の攻撃による敵視上昇が 彼の敵視を上回ってしまったのだ。
壁役の攻撃スキルは、攻撃役のスキルよりも敵視を稼ぐことの出来るものばかり。
だが攻撃役と壁役のレベルや装備差が大きく離れている場合、【攻撃役のスキルによる敵視上昇>壁役のスキルによる敵視上昇】という具合になってしまう。
これを戻そうと思うと"攻撃役が攻撃回数を抑える"という手段しかない。
そうすれば、時間はかかるものの安定して戦うことが出来るのだ。
勿論、それを実行するには"回復役がいる"という絶対条件がクリア出来ての話。
そしてここには…回復役がいない。
どうする?
回復役が出来るのは俺だけ。
だがニーナの村での一件がある。加えて、周りにいるのは王都の騎士達。
目的はおそらく癒し手の回収。つまり俺だ。
さっさと元の世界に戻りたい以上、捕まってるわけにはいかない。
…
……まてよ。
つまり、癒し手が俺じゃなければいい話だ。
俺の"外見"をしていない癒し手ならば…問題ない!
「おい!兄ちゃん!」
「な、なんですか!?」
ラフレシアの触手を避けながら俺は青年騎士に作戦を伝える。
「今から凄い助っ人を呼んでくる。だからそれまでの間コイツの相手を頼む!」
「は?どういう意味――。」
「いいから待ってろ!それじゃな!」
それだけ伝えると、俺は一目散に街へと向かった。
◆◆◆◆◆◆◆
「ぐぅぅ…」
格闘家がいなくなった途端に、化物の標的は僕へと代わる。
助っ人を呼んでくる?この状況で?
「一体…何を考えてるん……だっ!!」
一本目の触手を盾で受け、逆から迫るもう一本を剣で薙ぎ払う。
辛うじて直撃こそ避けてはいるが、全身の筋肉が悲鳴をあげている。呼吸も段々と荒くなってきた。
これは本格的に…まずいな…。
「!?」
集中の糸が一瞬切れた。
相手はそれを見逃さなかったようで、目の前には触手が迫っている。
盾で守ろうにも左腕が痙攣して上がらない。
駄目だ!直撃を―――。
「せぇぇいやぁぁぁ!!」
鼓膜に響く大声。煌めく斬撃。
直撃するはずだった触手は綺麗に切断され、ビクビクと脈を打つ。
「ウォードさん…。」
「大丈夫か!マルコ?」
大斧を肩に担ぎ親指を立てポーズを取る。
だがその姿はボロボロで、やせ我慢をしているのがバレバレだ。
「隊長!なぜお一人なのです?先程の格闘家は…まさか!?」
ウォードさんに続いて現れたサラは小さく舌打ちをしながら素早く弓を引く。
狙いは完璧だが、大型の魔物には大した傷を負わせてはいない。
「助っ人を連れてくると言って街へ向かった…。それよりも状況は!?」
「小型の魔物は数をかなり減らしましたので、ザックさんとリーリンさんに後を任せてきました!」
「あのバカップルなら上手にやってくれる。安心して任せよう、隊長殿。」
「そうだな…。では僕達でこの大型を―――」
なんだ?
急に魔物の体が大きく膨らんでいる。こんな動きは今までなかった―――。
「3人共!そこから下がれ!!」
「「「!?」」」
突然の声に僕達は驚きながらも脳はきちんと信号を送り、急いで後方へと距離をとる。
反射的に動けるのは日々の鍛練あってこそ。それが戦場で生きるか死ぬかを分けるのだ。
今回の様に。
僕達が離れた次の瞬間、ブワッと何かが吐き出される音がする。
すると魔物の周囲を密度の濃い黄色の花粉らしきものが漂っていた。
「間一髪だったな。あれは麻痺性の高い花粉。吸えば数秒体が動かなくなる代物だ。」
声の方向に視線を向ける。
そこに立っていたのは、白いローブに身を包み、背の丈よりも大きな杖を片手に持った――。
「あなたは……一体…。」
「お…わ、私か?私は――。」
栗色の長い髪を2つに結った…そう。戦場という単語に全く縁の無さそうな素朴な少女が――。
「通りすがりの癒し手だ!」
そこにいた。




