誰が為に拳をとる ②
結構力技っぽい流れですが気にしてはいけません。
「ユウキさんはどうしてアスタルクの街に?」
食後のコーヒーをテーブルに置くと、アリアンナはそう尋ねてきた。
持ってきたカップの数から考えるに今は休憩時間なのだろう。
「実はな――俺はこの世界の人間じゃないんだ。」
「そういうのはいいですから。」
「面白いと思ったんだが…。」
当然といえば当然の反応だ。
俺だって普通は信じない。
「少し調べものがあってね。」
「文字も読めないのにですか?」
「今日は天気がいいな。」
「ふふっ…ほんと、おかしな人。」
コーヒーを口にする。勿論、砂糖やミルクは入れない。
そんな俺の様子を見てなのだろう。アリアンナも同じように何も入れず口にする。
…なるほど、彼女は甘党か。
「それにしても、この街は普段からこうなのか?」
「なにがです?」
不思議そうな表情をする彼女に窓を指さす。
そこから見える外の様子はやけに騒がしいものだ。
お祭りがある…って雰囲気ではないな。
「そう言われれば…なにかあったんで――。」
「た、大変よ!アリアちゃん!」
勢いよくドアが開くと、鬼気迫る顔で大袋を担いだ女性が立っていた。
「ど、どうかしたんですか!?」
「どうもこうもないわ!魔物の群が街に向かってきてるらしいの!早く女将さん達にも中央広場の高台に避難するよう伝えて頂戴!」
「避難って…魔物はどうすんだ!?」
「王都の騎士様が向かってるわよ!それじゃいいね?早く逃げるんだよ!」
早口で伝えると駆け足で店を出ていく。
魔物の群がどれぐらいなのかは分からないが…様子から見るに結構まずい感じだな…。
「どどどどうしましょう!?」
「アリアンナ、君は早く避難したほうがいい。」
「そ、そうですね。分かりました!ではユウキさんも一緒に――。」
「いや、俺は魔物退治を手伝ってくる。人手は多いに越したことはないだろうからな。」
「で、でも!」
心配をしてくれるアリアンナ。
まだ知り合って間もないが、きっと彼女は優しい子なのだろう。
だからこそ――。
「アリアンナ。俺は格闘家だ。」
今の俺には力がある。
「この拳1つで道を切り開こうと思った者だ。」
それに酔っているわけじゃない。危険なことはしたくないし、命だって惜しい。
だが―――。
「そんな拳を、今使わないでいつ使う。」
「なにわけわかんないこと言ってるんですか!?」
自分に出来ることがあるならやるべきだ。
だって、そうだろ?
ここは俺に大切なことを教えてくれた世界で、アリアンナや酒場の親父達が住んでいる街なのだから!
「心配するな。こう見えてもちょっとは強い。」
「………知ってます。」
「危なくなったらすぐ逃げるさ。」
「…はい。」
「それじゃ、行ってくる。」
力こぶをつくり笑ってみせると、俺は宿屋を飛び出した。
◆◆◆◆◆◆◆
「こりゃ多いな…。」
予想していた数よりも魔物は多い。ざっと見ただけでも50はいる。
それに対して戦っている騎士の数はたったの8人。戦況は間違いなく不利だ。
「やれる…大丈夫。これは武者震いだ…。」
大きく息を吸い込み、両手を強く握ると白虎の型をとる。
最初の目標は―――、一番近くにいる小型の植物タイプ!
「鉄破拳!」
スキルを口にすると、一瞬で魔物との間合いを詰める。
間近で見るとかなり気持ち悪い敵だな…。口は付いてるし、ツタはぬるぬるしてるし…。
「文句は言って…られないよ、なっ!!」
寸止めしている右拳から空気の塊が放たれ、ドン!という音と同時に敵を吹き飛ばす。
攻撃スキル【鉄破拳】
格闘家が覚えるスキルの1つ。
目標との距離を一気に詰め、衝撃波で敵を後退させる。
使用範囲も広く、近接スキルしか持っていない格闘家にとって非常に便利なもの。
問題はリキャストタイムが長い為、連発して使えないことだ。
「まだまだぁぁ!!」
バッファローやハイベアーよりはレベルが高い魔物だったようで、一撃必殺とはいかなかったが強制的に後退させたおかげで動きが鈍い。
畳み掛けるように俺は攻撃を加えていく!
「破拳!」
敵の中心を横から抉るに右拳が突き刺さる。
「連撃!」
左側に倒れそうな体を強引に引き起こすように左拳が下から上えと繰り出され、ワン・ツーとリズミカルに左右の拳を打つ。
「震動脚!!」
左足を軸にし180°体を捻り、高く掲げた右足を勢いよく振り落とす。
衝撃と同時に魔物は形を歪め消えていった。
「うっし!まず一匹!」
練習したおかげでスキルがスムーズに発動したな。ほんとに初歩だけど。
それにしても不思議だ。
俺は武道の経験なんてまったくない。殴り合いの喧嘩なんて数えるほど。
なのにスキルを口にするだけで嘘の様に体が動く。
反則なんてもんじゃないな…。
「ま、使えるものは使うだけだ!」
次の目標を定め、俺は戦場を駆けた。
◆◆◆◆◆◆◆
「らぁぁぁぁ!!」
左手の盾を叩き付け、間髪入れずに剣を突き刺す。
くそっ…一体これで何匹目だ!?
「マルコ隊長!ご無事で!」
サラが駆け寄り、互いの背中を合わせる。
「あぁ…だが何なんだこの数は。倒してもきりがない。」
「分かりません。一匹一匹は大したことはないのですが、このまま消耗戦では…。」
サラは最後まで口にしなかった。
騎士足るもの、決して弱音を吐いてはならないからだ。
しかし、状況は好転する兆しがない。
援軍が来るにはまだ時間がかかる。
今ある戦力だけで敵を殲滅するのは不可能に近い。
となると、街まで下がり門を閉め籠城戦に持ち込むのが最も有効的な手段。
だが…それでは街に被害が出る。
サラやウォード達の表情は険しい。隊長である僕が迷っている場合ではない。
………くそっ!!
「全団員に告ぐ!一旦――。」
後退命令を出そうとした瞬間。
「うおりゃぁぁぁぁぁ!!」
大声と共に街の門から一人の姿が。
あれは……昨日の格闘家!?
まるで猪のような突進で次々と魔物を蹴散らしている!その速さは電光石火と言ってもおかしくない。
「隊長!あれは……。」
唖然とするサラ。
気持ちは分かる。だが今は呆けている時じゃない!
この好機を逃しては駄目だ!
「全団員に告ぐ!あの格闘家に続け!野蛮な魔物に騎士の誇りを見せつけろ!!」
僕の声に叫びで答える団員達。サラと目が合うと軽く微笑んでいた。
勝てる。
僅かな希望が脳裏をよぎった。だが―――。
「…!?なんだ!この地鳴りは!?」
希望など与えるかと言わんばかりに、"ソイツ"は姿を現した。
後2つぐらいで一章が終わります。次は今までで一番長くなると思います。多分。




