新しいスキルは
「ということがあってだな。」
「へー、そりゃ凄い。」
「な?そう思うだろ!?その後は俺の独壇場!こう…ばったばったと千切っては投げ千切っては投げ――。」
「それだけ口が回れば詩人にでもなれるぜ、格闘家の旦那。」
豪快に笑う自警団の男。
これは駄目だ。信じてもらえそうにない。お布団よ…君の元へと帰れない俺を許しておくれ。
「…冗談だ。全部知ってるよ。」
「へ?」
突然のカミングアウトに目を見開く。
「俺の顔。どっかで見たことないか?」
そう言われ男の顔をじっと見つめる。
勘違いされるといけないので先に言うが、俺にそういった趣味はない。
ノーマル。いたってノーマルなのだ。
にしても顔…顔ね…うーん…。
「これでどうよ?」
ニカッと歯を見せて笑う男。少し歯が黄ばんでいる。俺も歯磨きには気をつけないと。
「あっ…。」
そこで気がつく。
酒場のオヤジと雰囲気が似ている…というかそっくりじゃねーか!
「あんた酒場の!」
「ご名答。ま、あっちは兄貴で俺は弟なんだけどな。」
そういうと檻の隙間から1本の酒瓶を手渡す。
匂いから察するに、先程まで飲んでいたものと同じだ。
「兄貴からの伝言だ。『久しぶりに胸がスカッっとしたぜ!ありがとよ!』だとさ。」
檻越しに二人で瓶を鳴らし乾杯。
「ああいうことはよくあるのか?」
「頻繁ってわけじゃないさ。ここは王都からも離れてる。魔術師なんて滅多に見掛けないが、それでもたまに…な。」
「ふーん…。」
それから暫くの間、俺は酒場の弟から話を聞いていた。
この世界では魔法が使える人口が少ないこと。
魔術師の階級は中流貴族並であること。
現在、【王都ルミナス】では王位継承権を争って3つの派閥がいがみ合っていること。
そして…ここ最近になって魔物の数が急に増えてきたこと。
なるほどと頷いていると「やっぱり格闘家だな!」とからかわれる。
職業変えようかな…。
「ところで、そろそろ牢屋から出してくれないか?」
俺の言葉を聞くと、つい今しがたまで笑っていた酒場の弟の表情は曇る。
そして、ゆっくりと首を横に振った。
「それは駄目だ。」
「なんでだよ。」
「確かに旦那のやったことは正しい。俺もそう思うし、あの場にいた全員同じ気持ちだ。」
「なら――。」
「分かってくれ、旦那。」
俺を真っ正面から見据え、頭を下げる。
「俺達は平民で相手は魔術師だ。逆らうわけにはいかねぇ。どんなに性根が腐っていても、この街を魔物から守っていることに変わりはねぇんだ。頼む。この通りだ。」
「わかった!わかったから頭をあげてくれ!」
歳上にこれ以上の恥をかかせるわけにはいかない。
俺がそう言うと、黄色い歯を見せ再度笑う。
「ならせめて、朝まで飲むのに付き合え!」
「おうよ!」
男二人のむさ苦しい宴会が始まった。
◆◆◆◆◆◆◆
「――きさん。」
誰かの声が聞こえる。
だがそんなことはどうだっていい。頼むからもう少し眠らせてくれ…なんか頭重いし…。
「起き―くださ――ゆ―きさん。」
嫌だ。起きたくない。俺はまだ寝ていたいんだ!
……うちに喋る目覚まし時計なんてあったっけか?
細かいことはいいか。早いとこ時計を止めて幸せな睡眠を――。
ふにゅん。
?
なんだこれは。やけに柔らかい時計だな…。
ふにゅん。
ふむ。どうやら停止スイッチは押せたらしい。静かにな――― 。
「ど……どどどどどこ触ってるんですかぁぁぁ!!」
「ふべ!?」
直接手段を取るとは…最近の時計は積極的だ。
◆◆◆◆◆◆◆
「俺は格闘家だ。」
「…。」
「全ての雑念を捨て、己が拳を極めると誓った者だ。」
「…。」
「故に女性の胸をいやらしい目付きで見ることもなければ、仮に触れたとしてもやましい感情を抱くこともない。」
「なら、さっきから動かしている右手はなんなんですか!」
おっといかん。
嘘をつけない性格が表に出たか。
紳士だ。紳士的に振る舞うのだ。
「何か言うことがあるんじゃないですか?」
「ありがとう。」
「もう一回殴りますよ。」
「ごめんなさい。」
俺の頬には漫画さながらのもみじマーク。
これ以上顔を高揚させたくはない。紅葉だけに。
「まったくもう…。昨日はあんなに格好よかったのに…。」
「照れるぜ。」
「もう!そこは『ん?何か言ったか?』です!」
宿屋の娘、アリアンナは両手をブンブンと振りながら怒る。
残念ながら俺はどこかの主人公と違って難聴スキルを持ち合わせていない。
「それより、どうして俺はここにいるんだ?確か牢屋にいたはずなんだが…。」
「私がお願いして出してもらったんです。恩人を牢屋に入れたままなんて…おばあちゃんに叱られます。」
そう言うとアリアンナは湯気のたつスープにクロワッサン型のパン2つ、そして目玉焼きをテーブルに並べる。
「どうぞ。」
「スープはおじさんの手料理か?」
「なんでですか!お母さんの手作りです!」
「いや、なんとなく。でもいいのか?昨日の魔術師に知られたらまずいんじゃ…。」
スープの味はすこぶる旨いが。
「それは大丈夫です。王都の騎士様が一部始終を見ていたそうで、昨日の深夜には街の外へ摘まみ出したと聞きました。」
流石は騎士。ちゃんと市民の為に仕事をしている。
「騎士か…。」
そういえば、ヴィクトリアさんは元気だろうか?
もう五日もログインしてないし…いや、今の状態はログインしてるのか。まぁいいや。
あの人のことだ。きっと心配をしてるに違いない。
戻ったら謝らないとな…。
「どうしたんですか?」
「いや、1つ気掛かりなことがあってね。」
「わ、私でよければ相談にのります…よ?」
2つに結ったツインテールをなびかせ、頬を染めるアリアンナ。
「聞いてくれるのか?」
何度も頷く動作は、まるで小動物のようで愛らしい。
「実はな――。」
神妙な面持ちで俺は今一番の気掛かりをアリアンナに伝える。
「どうして、この目玉焼き焦げてるんだ?」
「…。」
「スープはこんなに旨いのに、なぜこれは焦げる。謎だ…。」
「私が焼いたんですっ!!」
顔を真っ赤にして怒るアリアンナ。
少しからかい過ぎたか。
「冗談だ。十分に美味しい。」
「ユウキさんは絶対に神様から罰を与えられます!」
「信じてないから罰もなにもなさそうだけどな。」
なんとなく答えるとアリアンナは更に不機嫌そうな顔になる。なにかまずいこといったか?
「またそうやって冗談ばかり。ユウキさんは格闘家なんですから戦の神アーレスを信仰してることぐらい私、知ってるんですよ!」
「へぇ…。格闘家て戦の神を信仰するのか。」
「え?まさか……本当に…?」
「初耳だな。」
パンを千切って口に放り込む。
焼きたてパンまではいかないが、しっとりとした食感がたまらない。
「そうよね……。字が書けないんだから知らなくても不思議じゃないわよね…。」
「え?何だって?」
椎名優樹は難聴スキルを手に入れた!
サブタイトルが思い付きませんでした、反省しております。
もう少しすればバトルパートです。
もう、少し、です。




