お前はそんなに偉いのか?
新たに感想をいただきました。いただいたので1日2本という頑張りをしましたが、まだ誤字脱字のチェックが終わっておりません。はい。
【始まりの街アスタルク】
千年の記憶を始めてプレイヤーが最初に訪れる街。
別名【チュートリアルの街】とも呼ばれている。
街としての規模はそこそこに大きく、様々な店がならび多くのNPCが配置されているというのが俺の印象だ。
そんな街、アスタルクに俺はやっとの思いで辿り着いた。
所要時間は3時間。その3分の1はブリュッツェンに引きずられていたが、その後はなんとか立て直し今では…ほら!この通り!
………首にしがみついている。
「し、死ぬかと思った…。」
流石は愛馬ブリュッツェン。残り3日の距離を3時間に縮めてしまうとは…。天馬の称号は伊達ではない。
「おっと…いかんいかん。」
街の門を往来する人達が怪しいものでも見るかのように、こちらへ視線を送ってくる。
平常心。平常心を装うのだ。
何事もなかったかのようにブリュッツェンから降りる。
役目を終えたブリュッツェンは『やれやれ』と言わんばかりの鼻息をたてると、颯爽と何処かへ走り去ってしまった。
俺に似てシャイな馬だ。
「とにかくまずは宿の確保か。」
俺は意気揚々と街へと向かう。
フカフカのお布団が俺を待っている!!
◆◆◆◆◆◆◆
―――はずだった。
「何度も言うけど、俺は旅の途中でアスタルクに立ち寄った善良な格闘家なんだ。」
「善良な格闘家なら酒場で暴れていいと?」
街の自警団よって確保された俺は、現在牢の中に閉じ込められている。
無論、お布団はない。
「いや、だから!あの野郎が女の子に乱暴をだな!」
「魔術師様と格闘家。どっちの言い分が正しいと思うね?」
「格闘家は脳筋だからあてにならないってか!?」
「お、わかってるじゃないか。」
檻の隙間から手を差しのべられる。
『いぇーい』という掛け声と同時に仲良くハイタッチ。
「じゃねぇよ!」
「ふむ。少しは賢い格闘家なのか。」
格闘家=脳筋って…。
この世界の職業に対する偏見酷くないか?
…
……いや、俺もそう思ってたけどさ。
なぜこんなことになったのか?
ことの発端は数時間前に遡る。
◆◆◆◆◆◆◆
宿屋を探すことなど、アスタルクの街を知り尽くしている俺にとっては造作もない。
迷うことなく到着すると部屋を1つ借りる為、帳面に名前を―――。
「お客様?」
名前を書かないといけないのだが――。
「もしかして…お客様…。」
「…。」
宿屋の娘が気まずい表情で俺に問いかける。
「字が……書けないのですか?」
「はい…。」
手渡された帳面には宿泊者の名前であろう文字が書かれている。
だがその文字は日本語ではない。
それどころか、今までに見たこともない奇妙な文字。
なんだこれは…何語なんだ…。
「き、気になさらないで下さい!大丈夫です!極稀にそういうお客様もいらっしゃいますから!」
椎名優樹、24歳。
文字が書けない大人になりました。
◆◆◆◆◆◆◆
「ひっく…違うんだよ…。俺は大人だ。社会人なんだ。確かに漢字は弱いけど、それでも名前は書ける大人なんだよ!」
「そうだね、お客さん。それでもちょっと飲み過ぎじゃないですかい?」
無事に名前を"書いてもらった"俺は、傷ついた心を癒すべく街の酒場へと来ている。
今でも目に浮かぶ…。あの素朴な宿屋の娘が必死に笑いを堪えている表情が…。
「そうだ!俺は悪くない!悪いのは全部世界のせいだ!そう思うだろ?兄ちゃん!?」
ほろ酔いの俺はカウンター隣に座っている若者の背中を軽く叩く。
いや、俺も若いんだよ?24はおじさんじゃないんだからな!?
「そうらぁー!そのとぉーり!」
触発されてなのだろうか。
今まで暗い顔をしていた赤毛の若者は手に持ったジョッキを掲げて叫ぶ。
「らんもかんも世の中がわりゅい!どーしてぼくがえんれいになって行かなくにゃならにゃいのら!」
「おう!そーだ!そーだ!もっと言ってやれ!」
「お、お客さん!?あんまり若い子に絡んじゃ駄目ですよ!」
「うるせーオヤジ!いいから酒持ってこい!この兄ちゃんにもだ!勘定は俺が持つ!ついでにオヤジも飲め!俺はおっさんじゃねぇ!」
「お、いいんですかい?」
俺の言葉に態度を180°回転させる酒場のオヤジ。
上機嫌な態度で追加のジョッキを3つ持ってくる。
世の中金だ。何て世界だこの野郎!
「それにしても君。見かけによらずいい飲みっぷりだな、センスを感じる。」
「あざぁっす!」
手渡された新たなジョッキを一気に飲み干す若者。
ガンッとテーブルにジョッキを叩きつけると俺に一礼をする。
うん。最近の若者にしては礼儀がなっているじゃないか。
俺の知っているどっかの精霊術師とは大違いだ。直接会ったことないけど。
「おにーはんはおいくつらんれふか?」
「俺か?俺は今年で24だ。」
「らんと!ぼくのあねうれより、よっつもとしうれでありまふか!」
「そうか。姉貴がいるのか!そうかそうか!」
…
……
………ちょっと待て。
「おい、君。お姉さんが20と言ったな?」
「いいまひたっけ?」
「となると…君の年齢は…。」
とてつもなく嫌な予感がする。
いや、落ち着け。落ち着くんだ椎名優樹。
前向き。前向きに考えるんだ。
きっとこの若者は双子の弟なんだ。そうだ!そうに違いない!
俺は断じて未成年者の若者に酒を飲ませたわけじゃ―――。
「ぼくはことひでじゅうはひれす!」
一気に酔いが醒める。いかん…頭が痛くなってきた…。
「ろーひたんれすか?もっろのみまおう!おやひさーん!」
「バカ野郎!未成年者が酒なんて飲むんじゃねぇ!オヤジ!笑ってないでお前も止めろ!」
「なーに言ってんだ?18っていやぁ、立派な大人の男じゃねぇか!大分酔いが回ってきたんじゃねぇか?がははは!」
そこで俺は思い出す。
そうだ。ここは日本じゃない。異世界ユグドラシル…俺がいた世界とは別の世界。
常識だって違って当然だ。
そう分かると少しだけ。ほんの少しだけ寂しい気持ちなる。
…えぇい!しっかりしろ!椎名優樹!
ポジティブだ。ポジティブに考えろ。
大丈夫。きっといつかは帰れるはずだ!
よし。今日は飲むぞ!とことん飲むぞ!どうせ仕事は当分ないんだからな!
何杯目か覚えのないジョッキに手を伸ばした、その時。後ろの席から悲鳴が聞こえる。
どこかで聞いたことがある声だ。
あの声は確か……宿屋の…。
「は、放して下さい!」
「いいだろ、別に。こんなシケた店…女の一人でもいなけりゃ飲んでられるか。」
「まったくだ。俺達魔術師の晩酌に付き合えるんだ。光栄に思って貰わないと…なぁ?」
ひょろ長の男は立ち上がると両手を広げ、店中の客に同意を求める。
肯定する者は誰もいない。だが、否定する者も誰もいない。
ただ静寂だけが響きわたる。
「カカッ。本当に平民はつまらねぇな!ほら、さっさと膝に座って酒注ぐんだよ!」
強引に宿屋の娘の手を引く小柄な男。
娘は周りを見渡し助けを求めるが、誰一人顔を合わせようとしない。
……俺を除いて誰一人。
一瞬だけ目が合う。声は小さく聞こえない。
ただはっきりと口は動いていた。
た
す
け
て
と―――。
「オヤジ。ちょっと騒がしくなるが多目に見てくれ。」
「ちょ!やめなよ!お客――。」
止めようとする酒場のオヤジを振り切って歩いていく。
俺は正義の味方じゃない。
人並みに欲求もあれば、悪いことだって考える。酒は飲むし煙草も吸う。彼女もいなけりゃ金もない。
ゲームが好きなただの一般人。
だが男だ。
考え方が古いかもしれないが、困っている女の子を助けないのは男じゃない。
たとえ結果がどうであれ、根性なしよか100倍マシだ!
「おい。」
「んだ?てめぇ…。」
娘を掴む男の腕に手をかける。
「お前はそんなに偉いのか?」
「はぁ?何言ってだお前。当たり前だろうが。」
「俺達は王国お抱えの魔術師だぞ?平民とは階級が違うんだよ。」
「俺は格闘家だ。」
「んだよ、脳筋か。さっさと帰れ、燃やすぞ?」
ひょろ長の右手が赤く灯る。
唇の動きを見る限り、どうやら魔法の詠唱を開始したようだ。
そうか、やる気か。だったら…。
「鉄砕拳。」
スキルを口にした瞬間、俺の体はひょろ長の目の前に。
何が起こったのか分からないって顔だな、まぬけめ。
軽く突き出していた右の拳は男の腹部で止まっている。だが、俺のスキルはまだ"発動中"だ。
「なっ―――!?」
パンッと空気が弾ける音がしたかと思うと、男は店の壁まで真っ直ぐ吹き飛ぶ。
「て、てめぇ!!」
「3秒。」
「はぁ?」
「お前らのレベルと装備じゃ、それが詠唱時間短縮の限界だ。」
「何わけわかんねぇことを…。」
「もう一度だけ聞く。」
ポキポキと右手を鳴らし、強く握る。
「お前はそんなに偉いのか?」




