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部屋を探し始めたのは四月に入ってからで、水元の実家の意向なんかも聞きながら、不動産屋をウロウロする。
二度目だから派手な結婚式はしたくないって水元の言葉は、俺の実家に俺が伝えた。
不満げな俺の両親を納得させるために、ゴールデンウィークには地元で親戚にお披露目をしなくてはならない。
料亭を一部屋借りて親戚を呼ぶと言ったら、水元は緊張した顔をした。
「だって、そんな大勢で品定めされるみたいな」
「奥手のカッちゃんが、じっくり選んだってみんな納得するさ」
「克之がいるよ」
水元が家具屋で指を差した先に、行灯があった。
「どういう意味だ」
「お義母さんが昼行灯って言ってたじゃない」
水元までそう思ってるのか……情けない。
「行灯の灯りって、昼じゃ確かに目立たないけどね」
水元はにっこり笑って言う。
「蛍光灯の冷たい光よりやわらかくて、安心する。私はこっちの方が好き」
いや、昼は両方とも要らないだろう。
「真っ暗な部屋で、いつでもぽうっと灯ってる行灯がいいなあ」
隣を歩く水元の声は、これからもずっと隣で続く。
そうだな、そんな行灯になれるといいな。
「新しい部屋も佑子の部屋みたいに、花柄とピンクにするつもり?」
「あはは。暖色で揃えて、無理に落ち着く必要はなくなったな。克之が一緒だもん」
微妙に照れくさいことを言われて、どっち向いていいやら。
「熊は持ってくるんだろ?」
「シュタイフだもん!ベッドに置くわよ」
「……熊と同衾してたまるか」
「子供に使わせたいしね」
水元は、今月からピルを飲むのを止めたらしい。
お互い年だしねって言葉に、水元が何か吹っ切ったみたいで嬉しい。
「野口みたいに頑張らないわよ。無理だって思ったら仕事セーブするからね」
本当にそうするとは思えないけど、そんなに先のことを考えてくれているのかと、実感が強くなっていく。
仲の良い同期は、家庭を共に作る同志になる。
「佑子」
呼びかけると、安心しきった穏やかな顔の水元が振り向く。
冷え性で肩が凝りっぱなしで、せっかちで、頭の回転が早い。
新しい部屋は、もうじき決まる。
ぽうっと灯る行灯の灯みたいに、暖かくてやわらかい場所は、すぐそこにある。
fin.