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行灯の昼  作者: 蒲公英
行灯はやわらかに灯る
77/77

6

部屋を探し始めたのは四月に入ってからで、水元の実家の意向なんかも聞きながら、不動産屋をウロウロする。

二度目だから派手な結婚式はしたくないって水元の言葉は、俺の実家に俺が伝えた。

不満げな俺の両親を納得させるために、ゴールデンウィークには地元で親戚にお披露目をしなくてはならない。

料亭を一部屋借りて親戚を呼ぶと言ったら、水元は緊張した顔をした。

「だって、そんな大勢で品定めされるみたいな」

「奥手のカッちゃんが、じっくり選んだってみんな納得するさ」


「克之がいるよ」

水元が家具屋で指を差した先に、行灯があった。

「どういう意味だ」

「お義母さんが昼行灯って言ってたじゃない」

水元までそう思ってるのか……情けない。


「行灯の灯りって、昼じゃ確かに目立たないけどね」

水元はにっこり笑って言う。

「蛍光灯の冷たい光よりやわらかくて、安心する。私はこっちの方が好き」

いや、昼は両方とも要らないだろう。

「真っ暗な部屋で、いつでもぽうっと灯ってる行灯がいいなあ」

隣を歩く水元の声は、これからもずっと隣で続く。

そうだな、そんな行灯になれるといいな。


「新しい部屋も佑子の部屋みたいに、花柄とピンクにするつもり?」

「あはは。暖色で揃えて、無理に落ち着く必要はなくなったな。克之が一緒だもん」

微妙に照れくさいことを言われて、どっち向いていいやら。

「熊は持ってくるんだろ?」

「シュタイフだもん!ベッドに置くわよ」

「……熊と同衾してたまるか」

「子供に使わせたいしね」


水元は、今月からピルを飲むのを止めたらしい。

お互い年だしねって言葉に、水元が何か吹っ切ったみたいで嬉しい。

「野口みたいに頑張らないわよ。無理だって思ったら仕事セーブするからね」

本当にそうするとは思えないけど、そんなに先のことを考えてくれているのかと、実感が強くなっていく。

仲の良い同期は、家庭を共に作る同志になる。


「佑子」

呼びかけると、安心しきった穏やかな顔の水元が振り向く。

冷え性で肩が凝りっぱなしで、せっかちで、頭の回転が早い。

新しい部屋は、もうじき決まる。

ぽうっと灯る行灯の灯みたいに、暖かくてやわらかい場所は、すぐそこにある。


fin.

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― 新着の感想 ―
[良い点] おめでとう! [一言] 最終話でタイトル回収されましたねー。 読み終えるのに時間がかかるかなぁと思っていたのですが、途中から一気に読み進めました!
2024/05/11 20:13 退会済み
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