贈り物
普段の会話です。
コン、コン、コン。
ノックの後、入って来たのはべべだった。
「今、いい?」
「お疲れ。どした?」
デスクに向かっていたバブが振り返りもせずに言った。
今日、やっと期末テストが終了。
べべはテスト期間も毎日学校が終わると即、事務所のリハーサル室に駆け込んでいた。
いよいよ来週。12/23に『PUREGIRL X'mas Girls Festa 』
来年の『PUREGIRL誌』の顔になるのは藤城亜美だという事を"公に匂わせる"イベントでもある。
"公に匂わせる"って変?
でも、みんなそれで気づくでしょ?
毎年恒例。最初に登場するのが高2グループで、その中でもトップバッターが来期の雑誌の顔になる。
ファンはみんなそれを知っていて、出る方も観る方も、現場に入れない人達はSNSで。
ドキドキしながら、その瞬間を待っている。
そして。
まだ絶対に秘密事項である"今年のトップバッター"は、藤城亜美ことべべだ。
今、そのイベントに向けて、全勢力を上げて準備中。
べべも、打ち合わせ、衣装合わせ、ウォーキングと練習を欠かせない。
もちろん、それに加えてマーダーとしてのロードワークや本番さながらの組み手練習も行っている。
先日、久々に帰宅したガンが、オーバーワークにならないよう声を掛けたほどだった。
シノブさんは、深夜にテスト勉強をしているべべの為に、消化の良い鮑粥や湯豆腐を毎晩用意していた。
やっとテストが終わり、イベントに本腰を入れるのだろうが、そろそろ疲れも出てくる頃かと思ったが、振り返って見たべべは充実した顔を見せていた。
「ねね、」弾んだ声で言う。
これ、どうかなぁと出して来たカタログは某ブランドのアンティークリングが並んでいる。
べべはその中からシンプルだが少し珍しい細工のペアリングを指差した。
イベントのある12/23は、実はべべの17歳の誕生日である。
いやいや、もちろんべべがプレゼントをおねだりしている訳ではない。
これは、その翌日に迎えるクリスマスプレゼントで、シノブさんとガンヘのサプライズの贈り物だった。
「だって、お父さんってほんっとうにセンスないし、鈍いんだもん。」
今、夫婦として嵌めているリングは協会からの支給品のまま。
20年以上も連れ添った夫婦として暮らしている2人に、子供達からプレゼントをしたいとべべが言い出したのは、バブが帰国して暫くの事だった。
「だって、ちゃんとした息子が帰って来たのよ?今年がチャンスだよ。」
べべがあんまりニコニコしているので、いつもは呆れ顔のバブも反対はしなかった。
「それでね、23日にイベントが終わったら、ケーキを用意しといてくれるってお母さんが、あっ。」
慌てて手で口を塞ぐ。
「なんだよ、お前。それ、ちゃんとシノブさんに言ってやれよ。」
うっかりべべが口にした"お母さん"という言葉を聞き逃しはしない。
真っ赤になったべべは「わかってるもん。」と目を逸らす。
もう心の中では、お母さんと呼んでいた。
「バースデーにさ、お母さん、ありがとうって言おうと思って。」
小さな声でこっそり言う。
「絶対誰にも言っちゃダメだからね!」
慌てて部屋を出て行ったべべを見送り、カタログに目を落としたバブの目が優しかったのを見た人間は残念ながらいなかった。




