波紋
「え、この人なんでここにいるの?バブのストーカー?」
「所長の車は社用車だからな、GPSがついてる。」
尾行されていた事を知ってか知らずかバブは冷静だった。
ライトが、全員下がれ、と部下に命令する。
10人の黒服が姿を消した。
ライトは続ける。
「今回は協会の意向は絡んでないねん。」
じゃあ、なんだよ。なんだって試すような真似したんだ。
バブが怒ってる。
(もうやだ。このライトっていう人が絡んだら、バブずっと機嫌悪いじゃん。)
(試すって何?バブを守らなきゃ。)
べべが泣きそうな気持ちになった瞬間、元凶本人が平気な顔で言った。
「このべべちゃんが、バブのバディに相応しいか、この目で確かめんとな。」
「ええっっ、アタシ?」
予想もしないところからハンマーで殴られた。
「余計な事だ。俺が選んだバディに口を出すな。」
バブ、ホントに怒ってるけど。
だけどこれって、アタシが認めてもらってないって事が原因だよね。
「それで、べべのスキルのどこに問題があったよ。」
ライトと私の間に立ち、バブが静かに睨みつけている。
「うーん。確かに判断の速さと格闘センスは及第点やな。」
そやけど、と続ける。
「圧倒的に足りんわ。」
あんな、バブ。
あいつらが復活してきてん。
ライトが名前を挙げたのは、つい先程聞いたばかりの中東、アジフ国の反政府軍だった。
3年前の大打撃の復讐に日本にやって来る準備をしているらしい、と。
(そ、それは、天災が原因だったんじゃ。)
聞いた話だと、こちらに非はない気がするんだけど。
責任転嫁されてるらしい。
思いっきり脱力。
こういう場合、どうすれば。
話し合いで済むような問題じゃないもんなぁ。戦闘民族って怖いんだから。
この世間的には平和なこの国で、テロでも起きたら国際大問題だってば。
帰りの車は沈黙が流れていた。
少し冷静になる。
(ねぇ、バブ。ふたりで喧嘩腰だったけど。あの人、バブのことを心配してたんだよね。アタシじゃバブを守れないって心配してたんだよね。)
自分の力のなさを痛感した。
今のままじゃダメなんだ。
バブを守れる人にならなきゃ。
真っ直ぐに前を見つめているバブの、その先に行かなきゃダメなんだ。
当面の棲家として提供された潜伏先に戻る。
もうとっくに日が昇っていた。
帰ると早速、シノブさんがまだ慣れないキッチンに立っていた。
「ただいまー!シャワー浴びたらすぐ手伝うね。」そう、声をかけて、浴室がどこか訊く。
血と汗と砂と潮風の残り香を落とし、慌てて戻って来ると、入れ替わりでバブが浴室へ向かった。
「大変だったみたいね。怪我してない?」
ミルクを注いでくれながら、聞いてくれる。
「私は大丈夫。あのライトって人もここにいるの?」
気になっていた事を尋ねてみた。
「ライトは本部所属だから、ここには様子を見に来るくらいじゃないかな。さっき所長と戻って行ったわよ。」
「あの人、苦手。」
ホッとして、つい本音が出る。
シノブさんが苦笑いしながら朝食を出してくれた。
あ、ごめんなさい。手伝えなかった。
そういうべべに「今日はゆっくり休みなさい。」と優しく言ってくれる。学校には本部から既に暫く休むと連絡をしてくれていた。
そうそう、べべ。
木本さんから連絡があったわよ。そっちにも着信が入ってるでしょ?
木本はマーダー協会から派遣されている藤城亜美のマネージャーだ。
スマホを確認する。(あ、ほんとだ。)
メッセージを読んで顔を上げたべべに、シノブさんの「おめでとう。」の満面の笑みが待っていた。
木本からのメッセージは。
専属モデルをしている雑誌『PUREGIRL』の3月のフェスティバルで卒業する、トップモデル三笠あかねへ花束を贈呈するプレゼンターに決まったという内容だった。
そして、それは時期トップモデルに選ばれたという事でもある。
それに合わせてクリスマス企画の『クリスマス・ガールズフェスタ』への出演が自動的に決まった。
「肋骨も治ってて、本当に良かったわ。」
シノブさんがニコニコ喜んでくれている。
思いがけず、藤城亜美の第二ステージが始まった。




