過去 中東ミッション ②
バブとライト。中東での決死の脱出作戦開始です。
「0400 大使館員脱出ミッションを開始する。」
翌早朝、ミッションが開始した。
今回の一個小隊は、分隊長を含めた各分隊が10名ずつ。
それが3分隊と、指揮官バブと副指揮官のハリス。
総勢32名。
状況、任務は、殆どの大使館職員や家族は2週間前の大規模救出で既に国外へ脱出済。
残るの職員3名と本日の日の出予定の5時半までに国境を抜けなくてはならない。
通常。
第1分隊が先行し、第2分隊が指揮官、救出者を加えた本部隊、第3分隊が後備を務める。
が、今回はライト率いる第1分隊がバブと共に先行し、そのまま職員と合流、脱出する本部隊となる。
残りの2分隊が後備という配置。
「これってさ、あいつら全員に裏切られたら俺ら全滅やんな。」
開始前にライトが日本語で言ってきた最後の軽口である。
バブの思考は更に厳しい。
(俺たちの第1分隊の大半も米軍人だからな、ライト。ハリスの息がかかってるやつが多いんだぜ。)
そして、それが現実になる可能性もあるということもお互い理解っていた。
無事、大使館内に潜入し、職員と合流、機密文書の入った鞄ごと脱出するというその時。
ライトの軽口がまさに目の前で現実になった。
指揮官としてこれほど若いバブが来たという事でだろう。大使館職員が機密文書を破壊する時間が欲しいと言ってきた。
まず、生命。と言いたいところだが、命より重い機密文書である。今まで米国に協力してくれた現地協力者リストや暗号コードもある。命に換えても死守しなければならない。
自国に持ち帰られない場合は何としてでも破棄する。
バブが判断を下そうとしたその時。
最上階の大使特務室にマーダー側から派遣されたレッドが駆け込んできて後ろ手にドアを閉めた。
「隊長、反乱が起きます!ハリス准将から裏切るよう指示があり階下は話が纏まっているようです!」
職員は味方の分裂が理解できない。
明らかな動揺が伝わったが、バブとライトにはある意味想定内。
起きて欲しくはない想定内ではあったが。
「これより、このメンバーでの脱出ミッションに切り替える。ジョーンズさん、破壊は一旦諦めてください。まず脱出します。」
職員に伝える。
現在部屋にいるのは、20代後半から40代半ばと思われる職員が3名。今入ってきたレッドに、最初から部屋にいるサンダー、クロス、シャークにライトのマーダー陣営とバブの総勢9名。
「ミスタージョーンズ、地下道があるんですよね?」
念の為、ハリスには知らせていない大使館員の緊急脱出ルートがあることは、前もって軍から知らされていた。
と。
付近の地図を前に確認しているところに地鳴りが聞こえ始めた。
階下も気づいたようで、最上階の本部隊を置き去りにして外へ飛び出して行くのが窓のブラインドの隙間から見て取れた。
外を包囲している2つの分隊と合流するつもりだ。
そのまま目をやると、東側から僅かに揺れる明かりが確認出来た。
見通しの良い立地は直線距離であと1kmほどか。
日の出が近づけばもうすぐ砂埃が見える距離に迫ってくる。
アジフ反乱軍の「テクニカル」がこちらに向かって来ている。
地鳴りの正体は、そのトラック数十台の部隊。
突然、そちらの方角から、カァン!という高音が聞こえた直後、シュウウウ、ドガンッという爆発音がし、建物が激しく揺れた。大使館正門付近の塀が破壊されていた。
「あいつら、あんな距離からランチャーを飛ばしやがって。」
まだ射程内の絶対距離ではない、威嚇なのか。
外でこちらを狙って待ち構えていた分隊が右往左往しているのが夜目でも判る。
あれでは負傷者もかなり出ただろう。
こちらも早く脱出しなければ、反乱軍が到着すれば逃げきれなくなる。
階下の元仲間達は既にいなくなったと思ったが、予め作戦が立てられていたようで数人が階段を駆け上がって来る軍靴の音が聞こえてきた。
ライト達がドアの両側で低くく構えた。
バブは大使館員に大型の執務机の陰に隠れるよう指示する。
ドアが開いて数人が飛び込んで来た。
接近戦の銃撃戦は同士討ちの危険性が高い。
ライト達には銃を使わせなかったが、大使館員を守る位置にいるバブは部屋に入ってきた兵士を先に撃つ。
相手の動きが予測出来ない状況でも致命傷を避けて撃てるバブの射撃術を目の当たりにした。
バブの射撃能力が世界最高峰だというのは真実なのだと、ジョーンズ達3名は初めて理解した。
バブが次々に神技のような一撃で米兵を倒すと、すぐさまライト達が気絶させる。
職員に危険が及ばないうちは絶対に殺してはならないといういつものバブの絶対命令に、何度も共に死線を潜り抜けて来たマーダーの仲間は、何の躊躇いもなく従う。
5名共、最年少のバブの能力を信頼していた。
「何で敵まで助けんねん。」
うんざりしたようなライトの日本語が聞こえる頃には精鋭4人を倒していた。
(まぁ、米兵だからな。処罰は軍法会議に任せるさ。)
中で格闘している隙に反乱軍が迫っていた。
既に走行中の車から次々に発砲されていた。
外で蜘蛛の子を散らすように逃げだそうとしている部隊をライフルが狙っている。
敵側には、こちらの仲間割れなど分かるはずもない。
「時間がない、早く地下通路に案内してください!」
職員に呼びかけた瞬間、またあの嫌な、カァン!という音とシュウウウという音が一瞬で近づいてきて、隣の別棟を破壊した轟音に変わった。
ジョーンズの顔色が変わる。
「ダメです!地下通路の入口は別棟にあったんです!」
反乱軍がそれを知っていたとは思えない。
偶然が最悪の結果を招いてしまった。
「他に地下へ行く方法はありませんか?」
尋ねたバブの顔も見ず、ジョーンズ達は首を振った。
と、同時に窓から別棟を確認したサンダーも首を振る。
では、と、
「ジープは何台ある?」
すぐさま切り替えてバブが尋ねたが、職員達は絶望の中、震えたまま言葉が出てこない。
建物の裏手に職員用のジープがあるはずだ。反乱軍に抑えられる前に脱出できれば。
ジリジリと時間が過ぎて行く。
先行で到着した第一陣が、こちらの分隊を蹴散らしているのが室内からでもわかった。
本体がくれば、ランチャーの照準は正確になる。恐らく兵士も100人はいるだろう。
本当に絶体絶命になってしまう。
日の出30分前。空の色が変わり、次第に明るくなって来た。
5AM。
スピード勝負の身軽さで、やって来たのは、見慣れたトヨタ ハイラックスが数十台。
先の携帯ロケットランチャーに加え、車載重機関銃を其々備えた装備が見てとれる。
既に敵陣は、大使館の半円を囲むように連なっていた。




