過去 中東ミッション ①
マーダーでも願うことは、あるんだ。
3年前。
バブはチームを率いて中東の小国アジフに派遣されていた。
「二等准尉殿、明日、我が第一分隊は捨て駒になりますか?」
バブが率いる一個小隊の中の第一分隊隊長は、同期のライトだった。階級は軍曹。
二等准尉扱いのバブの爆進昇級は特別として、この年齢で軍曹扱いのライトも十分にエリートだった。
同期2人がここまで優秀で、早くに揃って昇級するのは珍しい。
マーダー本部からの派遣でも、ふたりが同じミッションに選ばれる事が多かった。
だが。
だからこそ。
本来の軍部所属の隊員には、マーダー所属の上級階級者を快く思わない者がいるのも事実だった。
殊に今回、一個小隊を率いているトップがまだ20歳そこそこのバブ。
バブの有能さはマーダー界隈どころか軍や政府にも知れ渡っているのだが、現場主義の下級軍人ほどその能力の価値がわからない。
「ただの人殺しが、政府から許可をもらって堂々と殺している。それだけで、上級階級を得るなど以ての外。」
言葉だけは正当性があるような物言いだが、実は事実を全く理解していない。
過去において、バブが率いたミッションでの死者、行方不明者は皆無だった。
バブは、誰も殺さないために作戦を組む。
バブの優秀な頭脳は、その為に情報を処理し計算する。それは有能な士官だったのだ。
だが、育成から現在の所属までがマーダー界のトップを行く機関である。
"マーダーランキング=人殺しの数"
一般的にそう思われている。
もちろんそれが当たり前。
"バブは大量の殺人鬼"
そう思われても仕方ない存在ではあるのだろう。
今回の編成の際も、内部からかなり激しい抵抗があったと聞いている。
今回のミッションは、遠征して来た小隊3つのうち、ライト率いる第一小隊のみがバブの直属。
他は表面上大人しく従っているものの、いつ手を翻すかもわからない。
言わばバブ達は、味方の中にいてさえ四面楚歌であった。
ライト、2人の時はいつも通りの話し方でいい、とバブが言う。
今はバブの執務室代わりの部屋。ふたりきりだ。
「そんなん言うても、誰かおる時にうっかりタメ語出たらヤバイやん。」声を落とす。
「ま、日本語だったら、一瞬くらい大丈夫だろ。」
バブはそう言いながら、明日のミッションの確認に余念がない。広げた地図を睨む。
今回のミッションは、内紛により取り残された大使館員の救出と機密情報の保持。
今まで大使館員が収集したこの国の情報を持ち帰ること。
人命よりも重要案件だ。
当然、人命救助第一の安保理には知られてはならない極秘事項である。
"だから"、マーダー組織よりバブとその補佐としてライトが派遣されたのだった。
「さっきのミーティングの時のあいつらの顔見たか? 絶対裏切るって。」先にやってまおか。
ライトの鼻息が荒い。
それもそうだ。
先程のミーティングでバブの次点で補佐官の第一准尉であるハリスが、やんわりだが確かにハッキリと、指揮官であるバブが先陣を切って救出に出ろと言う意味の言葉を発したのだ。
「ありえへんやん指揮官が先陣切るなんて。あいつら、俺らのこと見殺しにするって。」
だから、先に"殺って"まお。
確かにライトの言うことも判る。
味方だと思っている者まで敵対すれば、助かる確率は限りなく0に近づく。
ましてや大使館員の救出もかかっている。
「万が一、あいつらが裏切ったら魔法でも使わん限り助かるの無理やって。」珍しく真面目な顔したライトが俺を見た。
「いや、俺は誰も死なせたくないさ。」
常日頃からライトには綺麗事だと言われる。
でもだからこそ。
俺は殺人でなく、サイバーテロなどのネットによる破壊攻撃を主に計画しているんだよ。
どこまで行けば、誰も死なずに済む世界があるんだろうな。
「マーダーのくせに。」
ライトに言われる前に自分で言う。
自虐じゃないぜ。
マーダーでも願うことは、あるんだ。




