海辺の話
目の前に真っ暗な海があるはずなのに。
真の闇の中では、その海さえも見えないんだって初めて知った。
怖かった。
どこまでも永遠に続いてるんじゃないかと思うくらい果ての見えない砂浜に、ふたり並んで座っていた。
正面は海と空の境目も見えない。
宇宙ってこんな感じなのかな。
バブとこんな夜中に海辺にいるなんて。
(変な感じ。)
私のほんの少しのくすぐったいような気持ちより、この闇に飲まれそうに大きな不安をバブが持っていることの方が問題だった。
暗くてよくは見えないが、隣では美しい金髪が、この強い海風を受けているんだろう。
「夜の海って、本当に何にも見えないんだね。」
何も見えない闇を見ながら言葉にする。
「勢いで千葉の東側まで来ちゃったからな。西側だったら東京湾の灯りが綺麗だった。」
(誰かと行ったこと、あるんだね。でもって私とは勢いでこんなところまで来たのか。)
ちょっとモヤモヤ。
「ひとりだよ。」
(エスパー?)
もう!勝手に人の心を読むな!
「べべが分かりすぎな。」
風が吹いてバブの言葉を攫っていった。
なんだか、すごく優しい声だった気がした。
ねぇ。
バブはさ、他人に心を読まれるの嫌だろうけど。と心の中で思う。
私は、バブが私のことを識ってくれてて、嬉しいよ。
(この気持ちも届け。)
言えない気持ちの代わりに話を変えた。
「あのライトって人のこと。聞いてもいい?」
大きくため息を吐いたバブは嫌な表情してるんだろう。
見えなくても声で判る。
「あいつは。」とバブが話し始めた。
米国の研修センターの同期だった。
マーダーの方の。
バブは6歳になる前から、米国のギフテッドとマーダー、ふたつの研修センターにいた。
どちらにも所属して、どちらもずば抜けた成績を出すのは世界初らしい。
あいつは、あの見た目に関西弁だが、イギリスと日本のミックスなんだ。
ハーフとよく言われるそれをバブはミックスと言う。
イギリス国籍で生きて来たライトは、イギリス側では貴族の血筋だそうだ。
だが、日本人とのミックスという事で、血族から忌み嫌われ、当主である父親が病死すると6歳で捨てられてマーダーになった。
それだけ厳格な血筋なんだとか。
知らない方が良いよと言われるくらいには。
詮索すら拒むような相手。
あいつは自分を否定して捨てた血族を見返そうと、トップマーダーになる為に血の滲むような努力をしていたんだと思う。
たまたま同期に俺がいるせいで、あいつはずっと2位だった。
それで、あの事件が起こった。




