見張り
「さぁさぁ。ハナ、髪乾かさなきゃ。痛んじゃうよ。」
現役JKモデル亜美ちゃん直々のお言葉だ。言う事は聞かなきゃね。
ハナが洗面所に立とうとしたその時。
「シノブさん、ちょっと。」
ロードワークから帰って来たバブが、シャワーにも行かずキッチンのシノブさんのところへいった。
髪の先から汗が滴っている。
不穏な空気にハナと顔を見合わせる。
何事か話していた背中が振り向いて、ふたりと目が合った。
「べべ、俺たち、今部屋に入っていい?」
玄関側に面した2階の私の部屋に入り、電気は点けない。
カーテンの隙間から外を見るようにシノブさんにバブが言ってる。
私とハナも逆サイドから確認した。
バブの言う通り車が1台、2軒先の空き地の前に停まっている。
「あの車、私がロードワークから帰って来た時も停まってたよ。」ハナが言う。
所長に知らせてくるとシノブさんが下に降りて行った。
バブが言うにはあの車ともう1台バンが、この1週間交互に近辺に停車しているらしい。
この施設が見張られる理由はいくつか考えられるから、この状況はいつでもあり得る事。
「俺、シャワー浴びて来るからお前たち様子を見てて。」とバブが部屋を出て行った。
私のドライヤーを使って、暗がりの中ハナが髪を乾かしているとシノブさんが戻ってきた。
「所長が戻ってきたらすぐに移動よ。」
荷物をまとめといてね、と言い残してまた階下へと降りて行った。
バブに伝えるのだろう。
恐らくこの家がバレた。そう考える。
狙いはマーダーランキング11位のバブか、育成マーダーがいるこの施設や私たち自体か。
全くの思い過ごしなら、その時は戻ってくればいいだけだ。
だが襲撃されてからでは遅い。
まずは移動して様子を見るのがセオリー。
私たちはいつでもどこにでも行けるよう荷造りに時間はかからない。
普段からまとめている荷物を入れるだけ。
10分もあれば準備完了。
着替え、貴重品が入ったスーツケースと学用品。以上。
身軽なものだ。
だいたいこの国で買えずに困るものなんてないのだ。
大切な記憶だけ。それだけ胸に抱いて移動する。
ハナがドライヤーを掛けながら窓の外を見張っている間に自分の準備をした。
「ハナ、教科書全部ある?」
全部部屋にある。とうんざりした顔だ。
こういう時のために、べべは殆ど学校のロッカーに入れているが、中学生のハナは校則で持ち帰らなければならない。
「教科書と参考書でスーツケースがいっぱいになっちゃうよ。」
ハナがため息をついた時、濡れた髪を拭きながらバブが顔を出した。ドライヤーをする暇もないのだろう。
「ハナ、教科書は全部置いていけ。準備、すぐな。」
言い置いたバブと見張りを交代したハナが自分の準備のため部屋に戻って行った。
黒っぽい車はまだ停まったままだった。




