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BABY BOMB!!  作者: 未芹


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べべの生い立ち

「どうしてべべは、お父さんの事はお父さんって呼ぶのに、お母さんの事はシノブさんって呼ぶの?」


文化祭も終わって2週間。やっと今日で中間テストが終わった。

リビングで久しぶりに羽根を伸ばしていたら、お風呂から上がって来たハナが突然聞いて来た。


シノブさんもキッチンにいて聞こえてるが、特に聞かれて困るような事でもない。


「んとね。」


私は5歳になる直前にここに来た、らしい。

だから断片的に記憶が残っている。


1番古い記憶は、お母さんとふたり。

多分私の誕生日。


苺が乗った小さくて白くて丸いケーキと、クリームシチュー。


誕生日でもクリスマスでもシチューが出て来る。

もっとも、べべの誕生日は12月23日なので、翌日がクリスマスイブ。

もしかしたら連日のシチューは残り物だったのかもしれないが、べべにとっては幸せな特別な日々。



幼い頃の思い出は、ケーキとかぼちゃの入ったシチュー。

うちのシチューはいつも私が好きだったオレンジ色。


多分、外食なんてする余裕がなかったからね。

それがお祝い事のある日の特別なメニューだった。


(大好きだったんだ。お母さんのかぼちゃシチュー。)


他に楽しい思い出になるような出来事がなかったんだと思う。


お母さんはいつも膝の上に乗せてくれて、ぎゅっと抱きしめてくれた。私はそれだけで嬉しかったんだ。


正直、顔はもう(おぼろ)げだけど、笑顔が優しかった事はなんとなく覚えている。



「いいね、ちゃんとお母さんとの思い出があって。」


それまで黙って聞いていたハナが言った。


酷い虐待を受けて半死状態で見つかったハナは、売られた訳でもなく、"死んだ扱い"でここに送られた経緯を持つ。



ハナと互いに目を合わせる。

どちらがどう、誰がどう、幸せで不幸せなのかなんて、決められない。

それはここに来るみんなが知っている。


だって、本当に幸せなら、ここには来ないじゃない?


でも。

とべべは思う。


(私はここで、お父さんとシノブさん、バブやハナなみんなに会えて良かったよ。家族が出来た。)


「そうだね。」と答える。

本当にそうだ。お母さんの記憶がある私はその分幸せなんだろう。


話を続ける。


本当のお父さんの記憶はない。

死んだのか、離婚したのか。

もしかしたら最初からいなかったのかもしれない。


家には写真も仏壇もなかったんじゃないかな。



代わりに来たのは、恐らく4歳の誕生日後に来たと思う、男の人。


(その人とケーキを囲んだ記憶がないんだよね。)


その人は、お母さんが働いていた焼肉屋さんのオーナー、だったのかな。

社長って呼ばれてたと思うんだ。


最初は羽振りが良かったんだと思うよ。


突然大きなお家に引っ越して、突然大きなベッドでひとりで寝る事になって。

嫌だって泣いたけど、結局

お母さんの為って言われて我慢した。


それ以外は楽しかったのかなぁ。

お母さんが仕事を辞めて、ずっと家にいてくれたから、それはすごく嬉しかったよ。


でも長くは続かなかった。

段々、様子が変わって来たのが子供でも分かったんだ。


「何かあったの?」ハナが聞いた。


しょっちゅう、お母さん達が喧嘩するようになったと答えた。


多分、男の人のお店がうまく行かなくなってたんだと思う。


「その人、悪い博打に手を出して、多額の負債を抱えてたみたいよ。」

シノブさんはべべを引き渡された時に、情報をきいていた。





そのうち、お母さんがいなくなった。

随分経って一度だけ連れて行ってもらった病院は、ガラス越しでしか会えなかった。


「お母さんは、病室へは入れない病気になったんだ。」

そう、言われた。


それから。

色んな事があって、とべべは言葉を濁した。


優しかった男の人が、毎日家でお酒を飲むようになった。

その頃は仕事をしていなかったみたい。


怖い男の人達が家に押しかけてくるようになってからは。

夜でも昼間でも、ずっと怒鳴り声とチャイムを鳴らし続けて。

玄関で嫌がらせをされて、外にも出られなくなった。

すごくすごく、怖かった。


そのうち、"お父さん"と呼ぼうとしていたあの人は出て行ったまま帰ってこない事もあって私はひとり、クローゼットで耳を塞いでたんだ。


ある夜。

突然、誰かが玄関から入って来たの。


(私、殺されちゃうんだ。)


そう、思った時、小声で私の名前を呼ぶ声がした。

数日ぶりに現れた男の人だった。


何日も、なんにも食べてなかった。


大きな冷蔵庫の中は、もういつ開けたのかも判らないカレーのルーが箱に少し、あるだけになってたの。

ずっと水道のお水しか飲んでなくて、ふらふらだった。


ふらふらしながら、隠れていたクローゼットから出た私の腕を掴んだその人は私の顔も見ずに外に連れ出した。


殆ど引きずられて、ちゃんと履けなかった靴は途中で片方脱げちゃった。


そのまま家の少し先に停まっていた、見たことのない古い車に乗せられて。


連れて行かれたのが、政府の建物だったのかな。

その男の人とは、それきり。



その時、売られたみたい。政府に。


だからね、私にはお父さんはいなくて、所長がお父さんだけど、お母さんはまだ生きてるかもしれないから。


「だから、べべが来た時に、シノブさんって呼んで良いよって言ったの。私がそう言ったのよ。」


キッチンからシノブさんが、そう言った。



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