東波学園 接近 ⑤
「えっ、ま、待って。どういう状況?」
慌てた亜美が俺の顔を見るが、割って入ったりはしない。冷静だ。
「安堂、いや安堂くん。ちょっとそれ下ろしてよ、怖いって。キミ、サバゲーかなんかやってるの?」
滝谷もまさか本物だとは思ってないのか。いや、それはないな。
「お前、何者?」
学園の敷地の外には出たがまだ小さな声で聞く。
この学園の周りに民家はない。
だが、中から兵士が出て来たら、ってせっかく脱出できたのにバトルか。何人いるんだろうなぁ。装備を確認できなかったのは痛いな。べべと2人か。
ま、お荷物抱えてるよりは全然大丈夫っしょ。
「安堂くん、どうしたの?説明して。」亜美であるべべも困惑顔だ。
最初からおかしかった。
こいつは夜間に忍び込んだと言うのに、見つけた時から隠れる様子もなく、最短距離で2Aの教室にたどり着いていた。
さすがに滝谷が一般人でも、学園にガードマンがいることは周知の事実だろう。
だが、こいつは臆することもなく歩いていた。
これは万が一、誰かと遭遇しても構わないっていうことではないのか。
そして何より。一般人を装ってはいるが、こいつからは"音がしない"
廊下を歩いていた時に感じていたが、さっき植え込みの隙間を移動していて核心に変わった。
あの小石や草に混じった小枝がある場所で確実に気配を消せるのは......。
最後にゴクリと唾を飲み込む音を聞かせたのはわざとだろう。そこまでが完璧すぎた。
"滝谷佳祐は、訓練を受けた者だ"
腑に落ちていないべべは、それでも動きは確かだ。
分からないまま滝谷の斜め後方を位置取り、俺とふたり滝谷を挟む形でいる。
「動くな!はい、全員ホールドアップ。」
突然、男の声がした。
「アサルトライフルが藤城亜美の頭を狙ってるよ。この意味判るね。安堂尋は振り向かず、そのまま銃を後ろに投げて。」
道路の脇に止まっていた2台の車の陰から気配もなく男が現れたのだ。
油断した。
この男だけなら振り向きざまに撃てば良い。
だが、べべを狙っている狙撃犯がどこかにいるというのはハッタリではないだろう。これだけ隙のない者は適当な事は言わない。
安全の保証もなく、出て来はしないのだ。
仕方なく銃を投げ、両手を頭の後ろで組んだ。
べべもも同じように従う。
すると。滝谷が動いて、落ちている俺の愛銃SIG P320を手にした。
やっぱりお前か。
くそっ、触んじゃねえ。それは俺専用にカスタマイズされた世界にひとつしかないハンドガンだ。
「滝谷?」信じられないように亜美が眼を見張っている。
更に車の陰から数人が出て来たようだが、俺は後ろを向いたままで見えない。チッ。
思わず舌打ちが出た。
「滝谷、どうだ?」
明らかに2人は同じ側に属する者同士なのだろう。
「問題ないと思います。」
教室では聞いたことのない声で返答している。
滝谷佳祐。お前は一体何者だ。
だが、今俺の頭の中は、どうべべを逃すかでいっぱいだった。
間にいた滝谷が抜けたせいで、向かい合わせになったべべを見るが、こっちを見ちゃいねえ。
おい、落ち着けよ、べべ。
殺すなら即座に撃ち殺してるさ。まだ多少の時間はある筈。
目の色が戦闘モードに入っているべべは、俺の背中越しに相手を見ている。
べべの瞳の動きからすると、7人。いや、8人か。




