東波学園 接近 ④
グランドの西側部室棟へ行くには、今いる本館から食堂などがある別館を回って行かなければならない。
別館は三階建だが一階は食堂と図書館で、この校舎は見回りの都度、鍵を開閉する。
校舎内には入れないので、校舎の裏側から回るしかない。
このまま本館にいる方が何者かと遭遇する確率が高い。俺たちは急いで別館の裏手に駆け込んだ。
「ねぇ、別館と部室の間ってちょっと見通しが良くない?危ないんじゃ?」
別館裏に来て、やや安全だと思ったのか亜美が小声で話しかけてきた。
見つかったら倒す?俺だけに聞こえる声で更に聞く。
僅かに首を振る。
今は戦えない。兵士なら定期的に無線連絡が入る。音信不通になればすぐ様、部隊が出勤するだろう。
窓から見えた兵士の数を思い出す。立ち姿はチンピラマフィアに見えたが、やつらは銃を装備していた。あれで一部。体育館や校舎内にはもっと潜んでいるに違いない。
滝谷がいるうちは無理だ。
「まず、滝谷が言うフェンスから脱出する。」
もちろん俺たちも本部に連絡を入れる事が必須だ。
今度は滝谷も無言で頷いた。
滝谷がいる事が大きなハンデだな。校舎裏とはいえ音を立てないように慎重に進む。
外部からの明かりも漏れない。今夜は月のない空。僅かな星明かりだけだ。
更にあの厄介なミラーレスネットの性能の高さが外からの光を遮断している。闇を作って、今はこちらの味方だ。
銀色のネットと低い植え込みの隙間を姿勢を低くして進む。
殊更低い茂みでは、ほぼ匍匐前進のようになる。
制服じゃなくて良かったぜ、膝に穴が開くところだった。べべに感謝だな。
後ろの滝谷が多少もたついてはいるがその後方にそのお手柄のべべがいるから問題ないだろう。
と、足音が近づいて来た。3人ともしゃがんだまま動きを止める。
靴音が校舎で聞いた音と違う。
軍靴の音だ。学園のガードマンではないことは間違いない。息を潜めた。
灯りが植え込みの上を照らしていく。もう植え込みのすぐ前を歩いている。
茂みを隔てて兵士がいる。バレたか?
その時、少し離れた場所から俺では聞き取れない声がした。
確信がなかったのか、茂みの向こうの軍靴が声のした方へ戻って行った。
ふぅ。俺たちが見つかっていた訳ではなさそうだ。
後ろで滝谷の喉をゴクリと鳴らす音が聞こえた。
呼んだ兵士が何と言ったか確認したいが亜美との間に滝谷がいる。
まずはここを抜けるか。
今夜が月のない夜で良かった。
部室棟の裏にたどり着いた時、改めてそう思った。
「これ。」滝谷がフェンスに立てかけてあった薄いベニヤ板を外すと、なるほど金網フェンスに裂け目が出来ていて、人が1人通れるサイズの穴になっていた。
部室棟の裏側はミラーレスネットは上部にしかなく、ここは金網フェンスだけな事が幸いしたな。
さぁ、脱出するか。
まず初めに俺が外に出た。
辺りに人影はない。
やっと外部の街灯の明かりを目にできる。普段は心許ない明るさだが、今は目に優しくて有り難い。
続いて滝谷が出て来た。
最後に亜美が出て来た時目にしたのは、俺が滝谷にピタリと銃口を向けている光景だった。




