大吾
3日前。
バブと大吾が帰って来てから、すぐに出国の準備にかかった。
もちろん、書類上の手続きはとっくに終わってる。
みんなの。家族の気持ちの準備期間だった。
例年、開催国によっても初動訓練の内容は違う。
だが、ひとつだけ確実なのは。
"生き残れるのは1グループに1人か、多くて2人"
あとは全員死ぬ。例外はない。
その各グループで残ったメンバーが更に適性検査を受けて各自の最初の訓練ルートが決まる。
まずはこの初動訓練で生き残ること。
2人が帰宅した翌日。
べべが大吾に聞いてみた。「どんな訓練をしたの?」
すると大吾は少し不思議そうな顔をした後、訓練は、してないよ。そう、気まずそうに言った。
「じゃあ、10日間、何してたの?」
大吾は元気な声で『かくれんぼと鬼ごっこ!」と言った。
それからね。
草や星をたくさん教えてもらった。ひとりでお魚を獲る"しかけ"が出来るようになったよ!
夜の鬼ごっこもいっぱいして、あ、そうそう!火をひとりで点けられるんだよ、ぼく。お水も一回沸かしてから飲んだんだ。笑顔でそう言う。
怪我をした時とお腹が痛い時の草も覚えたよ!
あとね、あとね、いっぱい走れるようになった。
日に焼けた分よりも更に逞しくなった大吾は、"1番大事なのは"
「自分で考えること。」と言った。
きっとこれから、騙してくる人間、利用しようとしてくる人間がたくさん近づいてくる。大人も子供も。
笑顔で嘘をつく人。突然暴力を振るってくる人。
多くの悪い人間、怖い人間がいる。
だから「簡単に信じないこと」
キャンプの正規スタッフが言う言葉の本当の意味を考えること。
ヒントに気づくこと。
"痛い"のは治るから、治す方法を考えること。
早く治す為に、いつもお薬になるものがどこにあるか探しておくこと。
これから怖いことがたくさんあること。
でも、みんなも怖いんだってこと。
慌てないで周りをよく見ること。音を聴くこと。匂いを嗅ぎ分けること。集中すること。
それから。
ひとりでも生きていけること。
ここに戻ってきたらひとりじゃないってこと。
ここでみんなが待ってるから、必ず帰って来ること。
大吾が楽しそうに一生懸命話してくれた。
「全部、バブが教えてくれたんだよ。バブといっぱい競争したんだ。」と自慢そうに言う。
ぼく「生きる。」
べべは、そのキラキラした力強い瞳を見て涙を堪えた。
うん。そうだね、そうだね、大吾。
これから気の遠くなるような時間が始まる。
でも。大事な事を忘れなければ生きていけるよ。
待っているからね。
大吾が出発する朝。
車に乗り込む大吾をみんなで見送ろうと集まった中に、バブの姿はなかった。
「バブったらもう。ちょっと呼んでくる。」
そう走りかけたべべを止めたのは大吾だった。
「べべ。大丈夫。バブとはいっぱいお話したからもう大丈夫なの。」
ガンも『そうだな。バブは降りて来ないだろうな。」と言う。
大吾が2階のバブがいる部屋の窓を見つめた後、べべを見てコクンと頷いた。
「いってきます!」
バブにも届くように言って、大吾は長い戦いの地に向かった。




