81
「ここまで来ましたけど、私は何をすればいいんですか?」
「まずは水に触れてみろ」
リリーは泉の縁の前にしゃがみ、言われた通り水面に触れた。
滑らかに磨かれた鏡のような水面は、リリーの干渉を受けて波紋が伝播する。
生み出された小さな波は徐々に勢いを失い、水面が元の空を映した鏡に戻った。
「何も起こりませんね」
ジェイドの方に顔を向けたリリーが言った直後、魔力が溢れ噴き出した。
驚き反射的に飛び退くリリーを横目に、ジェイドはじっとその行く末を見る。
「あ、一応短剣預かっとくか」
思い出したように言うジェイドに、今言うことじゃないだろうとか、もし何かあったら反撃できないだろとか、言いたいことはあれどリリーは素直に従った。
ベルトを外して鞘ごと短剣をジェイドに投げ渡す。
そうこうしていると溢れ出した魔力が一つに収束し、人型をした靄が現れた。
昨日と見た目に差はなく、膨大な圧力をかけて形を維持しているようなぼやけた輪郭と、幾重もの細い糸が風に煽られ今にも崩れそうな儚さをしている。
靄はゆっくりと、一歩一歩を踏み締めるように近づいてくる。
「次はどうするんですか」
「水際に立って手を伸ばせ」
指示されたリリーは泉の縁まで近づき、
「どっちの手を?」
「左手」
左腕を持ち上げ前に突き出し、手の平を広げる。
目の前までやってきた靄も右腕を伸ばし、リリーの手の平に重ねた。
魔力の塊である靄には、たしかに触れた感触があった。
それはひやりと冷たく、跳ね返るような重たい抵抗を受ける。
同じ位置座標に異なる物体を無理やり重ねようとするかのような、強い反発を感じたリリーはしかし、ほどなくしてするりと抵抗が消え失せた。
ほとんど同時に靄は形を崩し、リリーの体に纏わりついて吸収されていく。
リリーにはそれを止める術もなく、ただ受け入れるしか他にない。
靄が完全に吸収されると、リリーの腕が下がり、目を閉じてがくんと急に首をもたげた。
「リリー?」
呼びかけるジェイドは内心でものすごく焦っていた。
というのも、自分が見て経験した未来とは異なる現象が起きていたからだ。
さらに奇妙なことに、リリーを見ても未来が一切見えないのだ。
ジェイドは懐から拳銃を取り出し、鞘から短剣を抜く。
ごくりと生唾を飲み込んで、リリーに起こった変化の推移を見守っていた。
ぱちりと目を開け、顔を上げたリリーは、左右に瞳を泳がせる。
右手に視線を落とし、開いたり閉じたりを繰り返すと、「ふむ」何か納得したように呟きジェイドの方を見た。
「誰じゃお主」
声色はリリーのそれだが、口調や発音が現代とは少々異なっている。
これはリリーの形をした何かだ。
そう結論付けたジェイドは沈黙を貫き、数秒の睨み合いとなる。
「口がきけんのか? いやちょっと待て」
何かは目を瞑り、こめかみをとんとんと指で叩いてみせた。
「なるほど。お主の名はジェイドであっておるか?」
「そうだけど、そういうあんたは誰なんだ」
再び交錯する視線と自身の名を言い当てられたジェイドは、さらなる警戒心を露にしながら問い返した。
「わしか。そうじゃなぁ、お主らに分かるように言うと、澱みの魔女ってことになるのかのう」
腕を組み、不満気にそう告げられた途端、増大した威圧感がジェイドの体に悪寒を走らせる。
全身の汗腺がダムのように放水をはじめ、流れる汗はまさしく恐怖を垂れ流しているようであった。
「はっはっは、そう恐れるでない。何も取って食おうというわけでなしに」
「……澱みの魔女レンフレット」
「なんじゃその頭が頭痛で痛いみたいな名称は」
「レンフレットはあんたの名前だろ」
「愚か者め。レンフレットとはこの器の名称じゃ。
そもレンフレットとは魔女から生み出された澱みという意味を持つ。
ゆえにわしは単に魔女と呼ばれておったはずなのじゃが。
いやまったく、口伝とはあてにならんな。歪んで伝わるのは世の常か?」
澱みの魔女は憤慨やるせなしと言いたげに嘆息し、首を振って溜め息を吐いた。
「まあよい。さてジェイドとやら、時間もないしお主に頼みたいことがある」
神話に出てくるような人物を自称する者からされる頼み事など、どうせろくなものではない。
身構えるジェイドを見て、澱みの魔女は鼻で笑った。
「臆病を咎める気はないが、これはお主の目的と合致することじゃぞ」
「話だけなら聞いてやるよ」
「豪胆か見栄っ張りか。まあなに単純なことじゃ。
お主にはこの星の魔力の循環を正常なものにしてもらいたい。
この器、リリー・レンフレットを使ってな」
~~~~~テンプレート~~~~~
・評価:(∩^o^)⊃-☆
・感想:φ (..)
・リアクション:(`・ω・´)b
上記等の反応を頂けると嬉しいです!
よろしくお願いします m(_ _)m
~~~~~テンプレート~~~~~




