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リリー・レンフレットの骨拾い  作者: 三色団子
第九章

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「すみません」


「何に対してだよ」


 生木が燃えてもうもうと立ち込める煙にリリーは目を細めた。


「辛い役回りを押し付けてしまって」


「いまさらっつーか、お互い様だろ。殺されるんだぞお前」


「それは、そうですね。夜中に枕元に立って安眠妨害してやろうかなって思うくらいには恨んでます」


「あっそう。できればやめてくれ」


「でも同じくらい感謝もしています」


 本当ならもっと前に言うべきことだった。


 今になって伝えようとするのは、自身の死を知ったからか、言葉にしようと考えたからか、あるいはこの夜と森と焚き火のせいか。


 何にせよここを逃せば機会が訪れることはもうない。


 リリーは恥ずかしそうに、思い出すように、指折り数えて言葉を並べていく。


「私をあそこから連れ出してくれて、ありがとうございます。


 美味しいものを食べれて、たくさん勉強して訓練して。


 髪を切って着飾ったり、本を読んだり、いろんな経験ができて。


 いろんな人とも出会えました。


 誰かの役に立てるようになりました。


 色々あったけどようやく、一人の人間になれた気がするんです。


 あのまま退廃特区にいたらと思うと、ちょっと怖くなる時があります。


 きっと死ぬまで一生、骨を拾うだけの肉人形だったんじゃないかって。


 だから、連れ出してくれてありがとうございます。


 ジェイドがこれまで何をして、これから何をしようとしても。


 私を助けてくれた事実は変わりません。


 あなたのおかげで救われた人がいること、忘れないでくださいね」


「やめろ恥ずかしい」


 ジェイドは顔を背けてそう言った。


 焚き火の明かりが影を差し、いっそうの暗がりの中では、どんな表情をしているのかなどまるで見えない。


 その表情を想像したリリーは、揶揄うようにニヤリと笑った。


「本当はもっと前に言いたかったんですけど、ジェイドは中々帰ってこないので」


「俺も暇じゃないからな」


「何をしてたんですか」


「いろいろだよ」


「ほんと秘密が多いですね」


「それに礼を言うのはまだ早いしな」


「まだ何かあるんですか」


「内緒だ。まあ行けば分かる」


「それ、ジェイドの悪いところですよ」


「うるせぇ。リゼみたいなこと言いやがって」


「知らないんですか? 教え子は師匠に似るんですよ」


「分かった分かった。もういいから寝ろ。見張りはやっとくから」


「はい、お願いします。おやすみなさい」


 毛布にくるまったリリーは、三角座りをして目を閉じ眠りについた。


 見張りは一晩中、ジェイドが担当していた。




 翌日、日の出より少し前に自然と目を覚ましたリリーは、あくびと共に大きく伸びをした。


 パキパキと骨が鳴って、血液が急速に脳へと回っていく。


 涙に濡れた目を擦ると、木の枝で焚き火をいじる眠たそうなジェイドが座っていた。


「おはようございます」


「ああ、おはよう。寝れたか、って聞くまでもなさそうだな」


「おかげさまで。ジェイドは寝なくて平気ですか?」


「一日くらい問題ない。そんなことより、起きたんなら片付けて出発すんぞ」


 太陽が顔を覗かせて体を半分ほど出した頃に、ジェイドたちは片付けを済ませて野営地を発った。


 歩いてしばらく、キラキラと水面の輝く光の反射が見え始め、あと十数分もすれば泉へと到着する距離にあってしかし、人影のようなものが立っていた。


 輪郭がはっきりとして、姿形の判別がつくところまで近づいたリリーは、腰に提げた短剣を鞘から抜いた。


「昨日の、行けば分かるってこういうことですか」


「ああ、そうだよ」


 立っていたのはレオンだった。


 昨日出会った調査隊の死体と同じく、当然のように首から上はない。


 持っている剣と服装から、レオンと断定しているに過ぎなかった。


「最低ですね」


「俺に言うな」


「ジェイドは手を出さないでください。私がやります」


「一応言っとくけど、魔力で」


「分かってます」


 言われずとも分かっている。


 ジェイドが意味深に言った時から。


 人影が見えて、やっぱりと思った。


 目の前まできて、確信に変わった。


「ごめんなさい」


 リリーは短剣を水平に掲げ、横一閃に走らせた。


 瞬間、レオンの体がぐらりと揺れて、力なく前のめりに倒れだす。


 短剣をすばやく鞘に収めたリリーは駆け出し、その体を受け止めた。


 背中に手を回して抱きしめ、


「あとで迎えに来ます」


 耳があったであろう位置に囁(ささや)くと、遺体を地面にそっと寝かせた。


「何したんだ」


「見てたんじゃないんですか」


「そのうえで訊いてんだよ」


「作用している魔力の供給を切りました」


「さらっと言いやがって」


「私としては不本意ですけどね」


 遺体に毛布を被せてリリーは立ち上がる。


 迷いや躊躇いといった残滓(ざんし)の一切が拭い落とされ、前だけを見据えていた。


「行きましょう」


 リリーが先を歩き出したので、ジェイドがその横に並んだ。


 数分後、二人は泉の前に到着した。


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