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リリー・レンフレットの骨拾い  作者: 三色団子
第九章

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79


 準備と言っても大げさなものは何もない。


 荷物は流されてどこかへ行ったが予備はある。


 今から泉まで歩くとなると、道中で夜を明かす必要があるため、簡易的な野営ができる設備を持っていければそれで十分なのだ。


「リリー、レオンも連れてちゃんと帰ってきて」


 出発に際して村の外まで見送りにやってきたニーナが念押しする。


「はい」


 返事を聞いて胸が痛むのは、兄の最後と重なるからだろう。


 後悔先に立たずとは言うが、ニーナはすでにこの選択を悔いていた。


 だが同様に、その歩みを止めることができないニーナには、せめて別れと送り出し、あとは祈り信じて待つしか他にない。


「リリー。前にも言ったけど、子どもを守るのが大人の責任なんだ。


 君の覚悟を無下にする気もないし、選択は大いに尊重する。


 でもね、無理だと思ったら、あの時みたいに誰かに預けていいからね。


 例えば、そこの仏頂面をしたジェイドってやつに丸投げすればいい」


 口を噤んだニーナと代わり、今度はダズが言葉を託す。


 話し合いの場では沈黙を貫き推移を見守っていたとしても、ダズの根底にある思いや考えが覆ったわけではない。


 その言葉はリリーに対して掛けられたものではあるが、半分くらいはジェイドへ対する嫌味のようなものである。


「今回の主犯はジェイドなので、そしたら私は共犯者ですね」


「というより被害者なんだけど。ジェイドはリリーに感謝しないとだね」


 憐憫(れんびん)を交えた慰めに、何を言っても負けになるジェイドは舌打ちで答えた。


 さて、とリリーはリゼを見た。


 目が合い、リゼは一歩、二歩と近付いて膝を折る。


 目線の高さを合わせ、両腕を伸ばし、ぎゅっとリリーを抱きしめた。


 リリーがまだ連れて来られてきたばかりの頃、心が限界を迎えて涙を流した時に背後から抱きしめられたことを思い出す。


 当時のリリーは自身のことでいっぱいっぱいで、リゼの行動を慮(おもんぱか)ることなどできなかった。


 しかし、今なら分かる。


 後ろに回された手が割れ物でも扱うかのように優しく繊細なことを、触れあう頬が互いに引き合い溶け合おうとするその寂しさを、重なる胸と脈動する鼓動が連なり連鎖的に混交する言葉という形を取らない温かさを。


 全てリゼから教わったことだ。だから心を置いていける。


 リリーも負けじとリゼの背に手を回し、ぎゅっと抱きしめ返した。


 永遠を思わせる数秒にも満たない抱擁は、離れ難きと決別する儀式である。


 刹那を過ぎて、なんともあっけなく解かれると、


「行ってらっしゃい」


 朝食のパンを買いに行かせる時のように言って微笑んだ。


「行ってきます」


 リリーはそう告げると、背を向けジェイドの前を歩き出す。


 ジェイドは何も言わずに後を追う。


 見送る者たちの方を一度として振り返ることはなかった。




 泉までの道のりはひどく単調なものになっていた。


 というのも、あの水害が通った箇所を一直線に辿ればいいだけである。


 相変わらず凄まじい速度で森の形が修復されてはいるが、地面を緑化する下草は踝よりも伸びていないし、木々も細く小さいものばかりだった。


 正確なところは分からないが、ジェイドの見解では、日没に差し掛かった現在で半分くらい進んでいた。


 幸いなことに獣や魔物の気配も妨害もないので、あと四半日もすれば到着できることだろう。


 しかしそうは言っても夜に歩くのが危険なことに変わりはない。


 リリーたちは野営の準備をして、焚き火で炙った干し肉を夕食としていた。


「そろそろ教えてくれてもいいんじゃないですか?」


 バチっと焚き火にくべた木の枝が弾けて火の粉が舞った。


「何をだよ」


「私を連れてきた理由ですよ」


「知ってどうする」


「興味本位です。みんなの反応と口ぶりからして、大体は察しています。


 でもやっぱり、自分の最後くらいちゃんと知りたいじゃないですか。


 というか知る権利があると思うんですよね」


 ジェイドはじっとリリーを見つめ、「はぁ」小さく溜め息を吐くと観念したように口を開いた。


「あの靄いるだろ。あれ、実際はただの魔力の塊なんだよ。


 そんでその魔力ってのはスタンピードで人を魔物化するのに使われる。


 お前にはそれを吸収してもらって、魔物化したところを俺が殺す。


 それで全部解決だ」


 ほっぺたを膨らませながら話を聞いていたリリーは、空気を抜き、これ見よがしに盛大な溜め息を吐いた。


「あーあ、干し肉が最後の晩餐かぁ。なんだか味気ないですね」


「驚かないのな」


「疑問はありますよ。なんで私なのかとか。吸収した魔力って私が死んだらどうなるんだとか。魔物化した私をジェイドが殺せるのかとか、その他いろいろと」


「安心しろ。他のやつだと容量なのか相性なのか知らんが吸収できないんだよ。


 魔力は死んでも肉体に宿ったままで、少しずつ空気中に霧散する。


 それと、戦闘で俺に勝とうなんて百年早い」


「リゼより弱いくせに」


「その俺より弱いって言ってんだよ」


 ジェイドは傍らに置いていた木の枝を焚き火に投げ入れた。


 炎が一瞬ぐらりと揺れて、すぐさま形を取り繕う。


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