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リリー・レンフレットの骨拾い  作者: 三色団子
第九章

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78


 全員が目を覚ましたのは、朝もずいぶんと過ぎて正午を指折り数えるような刻限であった。村人たちはすでに日常を営んでいる。


「おはよー」


 体を伸ばして大きなあくびしながら、最後に起きてきたのはニーナだった。


 他の面々も活動こそしているものの、それほど時間は経っておらず、同じ朝食の席についた。


 和気あいあいといった雰囲気にもなれず、咀嚼音と食器のかすかにぶつかる音が鳴るばかりで、黙々と食べ進める。


 一通り食べ終えるのを見計らって、ジェイドが口を開いた。


「これからの方針についてだが、とりあえず決定事項を伝える」


 全員の視線がジェイドへと集中する。


 何が語られるにせよ、まずは聞こうという目だ。


 昨日の今日で気持ちを切り替えるというのは難しいが、だからといってのんびりしてもいられない。


 そうこうしている間に、スタンピードが始まってしまうかもしれないのだ。


「俺とリリーの二人であの泉に行く。できれば今すぐに」


「ちょっと待って」


 ジェイドの言葉を遮るように、ニーナが口を挟んだ。


「二人で行くって、なんで?」


「それがスタンピードを止める方法だから」


「あたしたちが付いて行っちゃダメな理由は?」


「お前らがいると邪魔になる」


「止めるってどうやって」


「言えない」


「そんなのもう、言ってるようなもんじゃん」


 握っていた拳を解き、目を瞑って長く息を吐いたニーナは、開いた瞼の奥の瞳に覚悟を灯していた。


 納得いかない。


「リリーを使って何するか言わないなら、靄と泉まとめて私が蒸発させてやる」


 言葉を介さずとも伝わる意思を火にくべて、脅しの火力を上げた。


「そんなことしても意味ねーよ」


「やってみないと分かんないじゃん。


 未来が見えるからって、その通りになるわけじゃないんでしょ」


 苛立ちを隠さず打った舌を伏せ、「リゼか」非難がましくその目を向ける。


 それが何か、とでも言うみたいにリゼは澄ました表情をしている。


 頭を乱雑に掻いて余裕のない様子など、中々に珍しい。


 普段振り回されている意趣返しの意味も含みつつ、リゼはただ冷ややかな視線を返した。


「なに、その反応。リゼがあたしたちに話すのも分かってたんじゃないの」


「何をどう聞いたか知らんが、そんな便利なもんじゃねーの。


 この際だから教えるけど、見えるのは起こり得る確率の一番高い未来だ。


 あれもこれもと一遍に網羅できるほど俺の頭はすごくねぇ。


 それに、そもそも未来が見えるわけじゃなくて、体験する形だしな」


 話を逸らされた。上手く誘導された。軌道を戻さないといけない。


 ニーナはそう思うのと同時に、ジェイドの能力の詳細を聞いて、自身の想像していたものとの乖離(かいり)に動揺した。


 起こり得る確率の一番高い未来を体験する。


 気付いてしまったのだ、この言葉の真意に。


 即ちそれは、幾重もの未来を経験し、変えようと一人もがいてきた証左である。


 燃えあがったニーナの火は、熱をそのままに、だが確実に下火へと変わった。


「確率ってなにさ。やっぱり必ずそうなるってわけじゃないんじゃん」


「国中の命使ってギャンブルする度胸は、俺にはねぇよ。


 俺が体験した通りになぞれば、ほぼ確実にその未来になる。


 だからこのまま、今の方針でいくのがスタンピードを止める最善なんだよ。


 分かってんだろ。つーか、これ以外の方法は軒並み失敗してんだ」


「試しもしないで」


 未だその熱は衰えず、触れれば身を焦がすほどの炎にあってしかし、少しの厭(いと)いも見せずに、ジェイドはただ真っ直ぐ受け入れた。


「散々試した。そのうえでの結論だ」


 この言葉の意味するところを察することができないニーナではない。


「納得できないのはお前の勝手だがな、駄々をこねるだけじゃ」


「リリーはこんなんでいいわけ?」


 平行線だ。それどころか、このままでは押し切られる。


 すでに半分くらいは納得もしてしまっている。


 戦局を変えるには、別の角度や方向から攻める必要がある。


 ニーナはジェイドの言葉を遮り、ずるいと自身を卑下しながらも、リリーに加勢を求めた。


「ニーナ」


 しかし、そんな思いも虚しく、リリーの意思は決まっていた。


「私のために怒ってくれてありがとうございます。


 でも、大丈夫です。私は、私にできることをやるって決めました。


 少しは強くなったので、今なら自分以外の責任も背負える気がするんです。


 それにレオンと約束したんです。骨は拾ってやるって、お互いに。


 心配しないでください。こう見えて骨拾いは得意なんですよ」


 朝焼けのような恋慕にも似た微笑みの前に、ニーナは返す言葉を失った。


「そんなん言われたら、あたしはもう何も言えないじゃん」


「すみません」


 ニーナは長い溜め息を吐くと、「よし」と手の平で膝を打った。


「リリーが決めたならあたしは信じる。


 けどその代わり、ちゃんと生きて戻ってきなさい」


 先ほどの重苦しい空気はどこへやら、移り身の早さと周囲を巻き込み印象をがらりと変えてしまう性格は健在である。


「善処します」


「ったく誰に似たんだか」


「話はまとまったな。そんじゃ出発の準備しろ」


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