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「それで何の話をしていたの?」
リリーとニーナは互いに顔を見合わせて、口を開いたのはリリーだった。
「ジェイドのことについてです。私はほとんど知らないので」
「なるほどね。納得のいく答えはあった?」
「いえ、分からないってことが分かりました」
「リゼなら何か知ってるんじゃないの?」
リリーの頭越しに顔を覗かせるニーナを横目に、「そうね」リゼは小さく溜め息を吐いた。
「ジェイドの何が知りたいの?」
改めて問われると、何を知りたかったのか、なぜ知りたいと思ったのかは判然としない。ただ漠然と、募らせた不審感からくる欲求の発露であった。
「分かりません」
俯き言葉を失うリリーは、自身の浅はかさに気が付いていた。
それはつまり、レオンの死という途方もなく受け入れがたい現実に対する八つ当たりなのではないか。
たまたま謎の多いジェイドという人物が都合がよかっただけで、本質的には責任から逃れたいだけなのではないか。
過去を背負っていくと、そう決めたはずなのに。
「ジェイドはね、現王の弟の末子なの」
口火を切るように語り出したリゼはしかし、その言葉に熱はなく、淡々と事実だけを述べていく。
判断は各々でしなさいとでも言うみたいに。
「知っての通り、王弟は内乱の首謀者よ。
当時はまだ戦争の真っただ中で、そんな時にジェイドが生まれた。
ジェイドはすぐに頭角を現したらしいわ。特に軍の戦略戦術方面でね。
五歳くらいだったって本人は自慢してた。
ジェイドの立てた作戦で状況を打開して、態勢を立て直し、なんとか形成を覆そうとしていたみたい。
実際、王国側で指揮を執っていたレーベンティアの市長なんかは、すごく手を焼いたって言っていたわ。あれがいなければ終戦は十年早かったって。
膠着状態にまで陥って、王国側は決断したの。
星降りの魔女を前線に投入して、一気に戦争を終わらせようってね。
それまではその力を恐れて、局地的にしか運用していなかったらしいけれど。
市長が打診したらしいわ。仲が良かったって話も聞くしね。
ジェイドは、戦場で星降りの魔女と出会った。
魔女の魔力に当てられて自身も魔力を発現した。
そうして、力が開花した。いえ、目覚めてしまった。
信じられないかもしれないけれど、事実として聞きなさい。
……ジェイドは、未来が見えるのよ」
告げられた真実に、リリーとニーナは驚きの表情を浮かべるとともに、「やっぱり」とどこか腑に落ちていた。
「意外と驚かないのね」
「そんな気はしてたからね」
「私は、未来が見えるってことの実感が湧かなくて」
「まあ、そんなに便利なものでもないらしいわよ」
「何か制約があるとか?」
「私も全部知ってるわけじゃないんだけど、例えば、未来が見えるのは魔力を発現させている相手だけとかかしら。その過程で魔力そのものが見えるようになったらしいわよ」
「あー、そういえば魔力が見えるとか言ってたっけ」
「あとは厳密に言うと未来が見えるってわけじゃないらしいけど、この辺りは本人に聞いた方が齟齬がないわね」
「じゃあ」
リリーは口を開いたが、静寂を呼び込んで次の言葉を殺そうとしていた。
言ってはいけない。それを訊いてはいけない。
「未来が見えるなら」
そう思えば思うほどに力は増して、出かかった言葉は喉をこじ開け、舌を踏み、歯を浮かせて飛び出した。
「レオンを見殺しにしたってことですか」
リゼの顔が見れなかった。
組んだ手の骨が軋むほど指を強く握っていた。
これ以上はと歯を噛み俯いても、一度放った言葉は止まらなかった。
「殺人鬼との戦闘も、あの男のことも、ロックバードの時のことも。
……お父さんのことも。
全部、全部、ジェイドは知っていて、分かっていて、見過ごしたって。
そういうことなんですか」
本当に未来が見えていると言うなら、殺人鬼と出会い戦闘し初めて人の命を奪う結果になったこと、太った男が襲ってきて聞きたくもない真実を語られたこと、ロックバードとの戦闘でレオンが怪我を負ったこと、父がバラバラになって殺されたことも全部知っていたのだろう。
いや、それ以外のあらゆること全てが、ジェイドの干渉を受け、その手の平の上で自由意志と見紛う選択をさせられていたのではないか。
もしそうなら、いったい、生きるとはなんなのか。
そんなのはもう、神様みたいなものじゃないか。
「その通りよ」
リゼは毅然とした態度と凛然とした声で、真っ直ぐに答えた。
ようやくジェイドの秘密の一端が出ましたね。
そうです。大体のことはジェイドのせいです。
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