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濡れた服を脱いで着替えを済ませ、ジェイドとダズは外へ情報収集に、リゼたちは火を焚き遅めの夕飯の準備をする。
食料については、調査用に持って行った荷物がどこかへ流されてしまったが、予備を拠点に置いておいたので、すぐに困るということもない。
水を沸かした鍋に、固い干し肉と村人のご厚意でもらった野菜を食べやすい大きさに切って入れ、煮立たせれば完成だ。
干し肉から剥がれて染み出た多量の塩味と、ほのかに土の香りが立つ採れたての葉物や根菜類の質素な味は、なんとも庶民的である。
贅沢は言っていられない。それどころか、長期間の遠征ではこれよりひどい糧食もざらにあるので、温かいスープが出てくるだけマシとも言える。
ともあれ、外に出ていたジェイドたちが戻ってきて、一同は鍋を囲んで食事を摂り、冷えた体を温め空腹を満たした。
一息ついたところで、収集してきた情報についてジェイドが共有した。
何を訊いてきたのかと言えば、この村が先の水害に巻き込まれていないかどうかについてである。
結論から言うと、村にはそれほど大きな被害はなかったらしい。
現在で分かる範囲ではだが、低地や窪地となっている箇所に水が溜まったり、あるいは床下浸水が起きたりといった具合という状況だ。
また死者や重傷者もおらず、滑ったり暗がりでよろけて転び、軽傷を負った人が数名いるくらいだった。
村人曰く、「ちょっと大雨が降ったようなもの」らしい。
農作物等の被害については、今はすっかり日が落ちているので、明日にならなければ詳細の確認はできないが、「まあ大丈夫でしょう」とのことだった。
それを聞いた全員がほっと胸を撫でおろす。
自分たちの行いで無関係な村人を危険にさらし、あまつさえ甚大な被害を出したとあっては、申し開きもなければ示しもつかない。
なにせジェイドたちはスタンピードを止めようとしているのだ。
それにも関わらず、スタンピード以上の被害を出しては本末転倒である。
大きく目立った被害がないことに、一つ、肩の荷が下りた心地がした。
「それで今後の方針だけど」
ジェイドはそう言い出したものの言葉に詰まり、「少し考えたい」と濁した。
「みんな疲れてるだろうし、心の整理も必要だろ。今日はゆっくり休んで、明日からまた再開しよう」
意識を取り戻したとはいえ、本来なら死んでてもおかしくない災害に晒されたのだ。何よりもまずは身体の回復を図るべきだろう。
他方、目の前で親しい者が殺された心の傷もある。
この現実を直視することがいかに辛く厳しいことか、またその傷を治せるのは月日以外のなにものでもないことを、ここにいる誰もが知っている。
ジェイドの意見は至極真っ当であった。
「少しだけいいですか」
全員が納得しかけた中、リリーが口を挟み、席を立とうとするジェイドを引き留めた。
「少しだけだぞ」
ジェイドは座り直して、リリーと視線を交わした。
「じゃあ、なるべく手短にします。
報告にあった靄は発見されました。おそらく同一個体なんだと思います。というかあんなのが何体もいてたまるかという話です。
レオンはそれに首を切られて死んだんだと思います。
これも報告にあった通りです。
推測ですが、同じ攻撃方法なんじゃないでしょうか。
でもそれだけです。これが分かったからって、それで、どうするんですか。
というかあれをどうにかすれば、スタンピードは阻止できるんですか。
みんな気付いていて、でも誰も言わないので、私が訊きます。
……ジェイドは、何か知っているんでしょう?
この期に及んで、何をまだ私たちに隠しているんですか」
リリーは怒りがエスカレートしないように、また八つ当たりにならないように、精一杯で取り繕った言葉をジェイドにぶつけた。
これだけ言ってもダメなら、諦めた方がいいかもしれない。
そんな覚悟さえ滲ませたリリーの問いに、ジェイドは小さく溜め息を吐いた。
「今日はもう寝ろ」
そう言い残してジェイドは席を立ち、ドアを開けて外へと出ていった。
誰もその背を追おうとはせず、重たい沈黙が降りる。
リリーは無言のまま、食器や鍋などの片づけを手伝い、毛布にくるまって居間の床に横になった。
すっかりベッドに慣れてしまったリリーだったが、固い木の床で寝るのは冷たい地べたよりマシであり、どこか安心感すらあった。
目を閉じ、瞼の裏の暗闇を見つめる。
殺人鬼と戦った日の夜のように、レオンが殺される瞬間が何度も何度もフラッシュバックしていた。
どうにも寝付ける気がせず、リリーはもそもそと起き上がって外へと出た。
前回の留守番をした時に、訓練するリリーをレオンとニーナが眺めていたベンチが目について、リリーはちょこんと浅く腰かけた。
少しはレオンの見ていた景色も見えるかもしれない。
そんな期待は儚く潰えて、視点は違えど、自分は自分でしかなかった。
じわりと涙が滲む。潤んでぼやけた瞳から、瞬きもせずに涙が溢れた。
雲と月のない、星が点在するだけの寂しい夜だった。
「いい夜ね」
地面にいくつかの小さな水滴を落としていると、毛布をマントのように羽織ったニーナがやってきた。
「隣いい?」
訊くなり承認を求めることなくニーナはリリーの隣に腰かけた。
肩が触れて、何か言わなければと思うリリーに言葉は続かない。
「リリーはさ、ジェイドのことどう思う?」
今はまだ、言葉を紡ぐ手番はニーナにあった。
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