66
市長はそう言うと机の引き出しから一枚の紙を取り出した。
「詳細な報告書は別途作らせるが、概ね書いてある通りだ」
ジェイドは腰を浮かして紙を受け取り、全員に見えるようにテーブルへ置く。
内容については次の通りである。
〇メモの内容
・調査隊構成:四人一隊とする独立六分隊
・第一分隊構成員:
・第二分隊構成員:
・第三分隊構成員:
・第四分隊構成員:
・第五分隊構成員:
・第六分隊構成員:
・調査(部隊運用)方法:
・距離百の横隊による直進
・距離三万ごとに小拠点を構築
・調査による発見:
・森林に浸食された集落三つ
・侵入経路二十一から直進距離約六万、周囲約三百の泉
・泉中央、半透明の人型をした靄の出現を確認
・靄は出現してから数秒停止、のち一人を残して第三分隊が壊滅
・靄への銃撃は効果なし
・靄が消滅したのち、銃声と発煙筒により他分隊が合流
・状況説明および周辺調査を実施
・再度靄が出現、第六分隊の一名を残して全員死亡
・死亡した隊員は全て首を切断されて絶命
・靄の攻撃方法および出現要因は不明
・その他、魔物との交戦はなし
・総括:レンフレット大森林内の泉に敵生体を発見、敵生体により部隊壊滅
それを読んだ全員が言葉を失っていた。
調査に送り出したのは市長の私兵ではあるものの、王国兵と比べてもなんら遜色のない実力を有する精鋭と言って差し支えない。
中には魔力を扱える者もいたはずである。
それが一人を残して壊滅とは、楽観できない事が起きているのは明白だった。
用紙に目を落としながらただ一人、ジェイドだけが違う景色を見ていた。
「お前はこれをどう見る」
頃合いを見て、市長がジェイドに尋ねた。
「そっすね。亡くなった方々には申し訳ないけど、おかげさまでなんとかなりそうです」
「……お前の予知ではどこまで見えていた?」
「正直言うとこの靄は想定外だし、二十人は帰ってくる予定でした」
「そうか。最悪だな」
「それは違います」
「なに?」
「最悪は情報も持ち帰ることなく全滅することですから」
拳に額を当てて目を閉じる市長は、事もなげに言い放つジェイドの言葉を受け止め咀嚼するように深く溜め息を吐く。
金属ケースの蓋を開けて高そうな葉巻を一本取り、先端を落として火を点けた。
「煙草、止めたんじゃないんすか」
「執務があるのに酒を飲むわけにもいかんだろ」
「部屋に入ってきた部下が絡まれるのは気の毒ですもんね」
「そう思うならお前が付き合ってくれてもいいんだぞ」
「全部片づけたあとならお供しますよ」
「まったくいつになるやら」
「喫緊ならスタンピードの阻止ですよ」
「できそうか?」
「今のところは」
「こちらで用意しておくものは」
「ありませんが、念のため警戒態勢を取っていた方が無難かと」
「いつまでかかる?」
「俺たちは明日にでも発ちます。数日以内には決着するものと見てます」
「よかろう。癪ではあるが、今はお前の力が頼りだ」
「微力ってわけでもありませんが、力は尽くしますよ」
「他に、何か質問はあるか」
ジェイドから視線を移した市長は言って他の面々の顔を見た。
リゼはおおよその事情を把握しているし、その他の面々は「なるようになるだろう」と話半分で聞き流していた中、リリーがすっと手を挙げ立ち上がった。
「発言よろしいでしょうか」
「リリーと言ったか。よい、申してみよ」
「スタンピードって、なんですか」
リリーの質問に市長は眉間にしわを寄せてジェイドを睨む。
ジェイドはつと目線を逸らして素知らぬ顔をした。
「お前、何度も言うが秘密主義は身を滅ぼすぞ。せめて身内には」
「わーかってますよ。ご忠告痛み入ります」
昔から変わらぬ態度に辟易とする市長は、眉間のしわを揉んで解き、リリーに視線を合わせた。
「スタンピードとは、一言で言えば大規模な魔物化現象だ」
「大規模な魔物化現象」
「大地から溢れた魔力がその土地に生きる生物すべてに作用する。
そして近い将来、レーベンティア全域がその対象となることが予測されている」
「全域、って、人間もですか」
「もちろんだ。その兆候もすでに確認されている」
リリーはそれを聞いて、ひと月前に墓場で出会ったあの男と、退廃特区で戦った男のことが脳裏を過ぎった。
似たような出来事が街のあちこちで発生しているのだとすれば理解も早い。
もしスタンピードが起こってしまえば、いったいどれほどの被害が出るのか。
少し想像しただけでも寒気を覚えたリリーは、ごくりと生唾を飲んだ。
「レーベンティアでスタンピードが発生すれば、今度はそれが王国全土に広がる。そうなってしまえば、国が滅びるのも時間の問題だろうな」
国が亡びる、とまで言われると想像し難い。だが、そうならないなどという根拠にも乏しく、また楽観できるほど事態は甘くもない。
できる準備や対策をせずに街や国が滅びましたでは為政者として失格である。
何より発生させないことにこだわるのも納得の話だった。
「詳しいことが聞きたければそこの墓堀名人に聞け」
「あ、はい、ありがとうございます」
——墓堀名人?
聞き慣れない単語に疑問符がついたリリーだったが、その場で追及する空気でもなく、ひとまず腰を下ろした。
「そんじゃあ、俺らはこれで」
他に質問もなさそうと判断したジェイドは、テーブルに置いた紙を丸めて懐にしまい立ち上がった。
「ジェイド」
市長に名を呼ばれて、顔だけを向ける。
「一人で背負うなよ」
「分かってますよ。ほらみんな帰るぞ」
市長は懐かしむように扉の閉まる最後の一瞬まで、ぞろぞろと退室していくその背を眺めていた。
〇補足
・距離に関して:1歩=1 [m]として、歩数にて計測しています。
→距離三万なら約30 [km]となります。
・レンフレット大森林の規模:領土としての面積は約5万 [km^2]です。
→イメージとしては福島県を除いた東北地方と同等の面積といったところです。
・エレオール王国の面積:約70万 [km^2]
~~~~~テンプレート~~~~~
・評価:(∩^o^)⊃-☆
・感想:φ (..)
・リアクション:(`・ω・´)b
上記等の反応を頂けると嬉しいです!
よろしくお願いします m(_ _)m
~~~~~テンプレート~~~~~




