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リリー・レンフレットの骨拾い  作者: 三色団子
第七章

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 予想外の返答に耳を疑うのはリリーの番だった。


「すみません」


 自身の至らなさと余裕のなさに、いらぬ過去を思い出させてしまったとリリーは反省し、謝罪を口にする。


「リリーが謝ることじゃないさ」


 ダズは寂しそうに笑って、リリーの頭を撫でた。


「僕は東の遊牧民の出身でね。


 次の拠点を探しに出かけていた時、魔力に当てられて魔物化したんだ。


 その時のことはうっすらとだけど、覚えている。


 一緒にいた馬と仲間を殺して食べたこと。


 僕らを探しにきた仲間に襲い掛かったこと。


 逃げる仲間を追いかけて拠点を襲撃したこと。


 僕を止めようとした仲間と、妻と、息子を殺したこと。


 僕を討伐しようとやってきた王国兵を殺したこと。


 色々暴れて、ようやくジェイドたちに止められてね。


 処刑されるはずだったんだけどさ、ジェイドに言われたんだ。


 『今死んで、お前が殺した人たちに顔向けできんのか』って。


 ずるいよねぇ。出来るわけないだろそんなの。


 でも死ぬ以外に償う方法なんてないだろって反論したんだ。


 そしたらなんて言われたと思う?


 『お前の自己満足の自殺に他人を使うなよ』だってさ。


 ついでに思いっきりぶん殴られたね。


 もちろん責任は取らないといけないんだけど。


 責任と償いは混同しちゃいけない。似て非なるものなんだよ。


 で、なんやかんやあって、僕はこうして生きている」


 ダズは言い終えてから「あれ、なんの話だっけ」と首を傾げた。


 リリーは地面の下草をじっと眺めて考え事をしている。


「あの時わたしも魔物化してたんですね」


「多分、そうじゃないかな」


「でも、だからって人を殺した責任がなくなるわけじゃない」


「……そうだね」


「人をたくさん殺した悪い人でした」


「うん」


「わたしも殺されそうになりました」


「うん」


「それなのに。こんなに、重たい」


 跡ができるほど強く額に柄頭を押しあて、きつく目を瞑る。


 暗闇の中には、男を殺した光景がありありと浮かんでくる。


『これは君の責任だ』


 そう、わたしの責任だ。


 何度も反芻される言葉に、リリーは押し潰されそうだった。


「命を奪うっていうのは、そういうことだよ」


「ダズは、なんで……。どうやって乗り越えたんですか」


 リリーは(すが)るようにダズに尋ねた。


「乗り越えてなんかいないよ」


 ダズの答えはリリーの求めるものではなかった。


「じゃあなんで」


 腕を組み唸るダズはしばし黙考し、「そもそもね」と口を開いた。


「責任、というかこの場合は過去って言い方をするけど。


 過去は乗り越えるものじゃなくて、未来へ背負っていくものだと僕は考えてる」


「哲学的? ですね」


「ニーナが聞いたら考えすぎの頭でっかちって笑うだろうね」


「わたしには、重くて、背負えそうにないです」


「そう言えるなら大丈夫だよ。背負えるくらい成長するまで足踏みすればいい」


「でも、未来は待ってくれません」


「そういう時のための僕らさ」


「どういうことですか?」


「僕らが一緒にその責任を背負ってあげるってこと」


「そんなこと、それってありなんですか?」


「さっきも言ったでしょ。子どもを守るのが大人の責任だって。


 今にも潰れそうな子がいるなら、肩代わりするのが僕らの役目さ」


 リリーはキュッと胸が締め付けられたように苦しくなって、心臓を押さえた。


 どくん、どくん、と規則的な鼓動を繰り返し、ほんのりと熱が伝わってくる。


 生きている。当たり前の事実を実感する。


 生きていく。命を背負う覚悟を決める。


『これは君の責任だ』


 そう、これは私の選択で、私の責任だ。


「ダズ」


「ん?」


「私が一人で抱えられるようになるまで、助けてください」


「いいね半分こだ。これで僕は君の共犯者だね」


「ニーナみたいなことを言うんですね」


「彼女の受け売りだからね」


 ふっ、とこぼしたリリーの笑みを朝陽が照らした。


「そういえば、何があったのか皆にも教えてあげてね」


「そうですね。帰ってから部屋に閉じこもってたし」


「心配してたよ。特にリゼさんなんて、あんなにそわそわしてるの初めて見た」


「怒られますかね?」


「多分ね」


「ダズも一緒に怒られてくれますか?」


「遠慮願いたいなぁ」


「共犯者だって言ったのはダズですよ」


「僕にはちょっと荷が重いよ。あー、用事思い出した」


 ダズは言って立ち上がり、ドアノブに手を掛ける。


 もう、とむくれるリリーは「ダズ」再度その名を呼んだ。


「ありがとうございます」


「どういたしまして」


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