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予想外の返答に耳を疑うのはリリーの番だった。
「すみません」
自身の至らなさと余裕のなさに、いらぬ過去を思い出させてしまったとリリーは反省し、謝罪を口にする。
「リリーが謝ることじゃないさ」
ダズは寂しそうに笑って、リリーの頭を撫でた。
「僕は東の遊牧民の出身でね。
次の拠点を探しに出かけていた時、魔力に当てられて魔物化したんだ。
その時のことはうっすらとだけど、覚えている。
一緒にいた馬と仲間を殺して食べたこと。
僕らを探しにきた仲間に襲い掛かったこと。
逃げる仲間を追いかけて拠点を襲撃したこと。
僕を止めようとした仲間と、妻と、息子を殺したこと。
僕を討伐しようとやってきた王国兵を殺したこと。
色々暴れて、ようやくジェイドたちに止められてね。
処刑されるはずだったんだけどさ、ジェイドに言われたんだ。
『今死んで、お前が殺した人たちに顔向けできんのか』って。
ずるいよねぇ。出来るわけないだろそんなの。
でも死ぬ以外に償う方法なんてないだろって反論したんだ。
そしたらなんて言われたと思う?
『お前の自己満足の自殺に他人を使うなよ』だってさ。
ついでに思いっきりぶん殴られたね。
もちろん責任は取らないといけないんだけど。
責任と償いは混同しちゃいけない。似て非なるものなんだよ。
で、なんやかんやあって、僕はこうして生きている」
ダズは言い終えてから「あれ、なんの話だっけ」と首を傾げた。
リリーは地面の下草をじっと眺めて考え事をしている。
「あの時わたしも魔物化してたんですね」
「多分、そうじゃないかな」
「でも、だからって人を殺した責任がなくなるわけじゃない」
「……そうだね」
「人をたくさん殺した悪い人でした」
「うん」
「わたしも殺されそうになりました」
「うん」
「それなのに。こんなに、重たい」
跡ができるほど強く額に柄頭を押しあて、きつく目を瞑る。
暗闇の中には、男を殺した光景がありありと浮かんでくる。
『これは君の責任だ』
そう、わたしの責任だ。
何度も反芻される言葉に、リリーは押し潰されそうだった。
「命を奪うっていうのは、そういうことだよ」
「ダズは、なんで……。どうやって乗り越えたんですか」
リリーは縋るようにダズに尋ねた。
「乗り越えてなんかいないよ」
ダズの答えはリリーの求めるものではなかった。
「じゃあなんで」
腕を組み唸るダズはしばし黙考し、「そもそもね」と口を開いた。
「責任、というかこの場合は過去って言い方をするけど。
過去は乗り越えるものじゃなくて、未来へ背負っていくものだと僕は考えてる」
「哲学的? ですね」
「ニーナが聞いたら考えすぎの頭でっかちって笑うだろうね」
「わたしには、重くて、背負えそうにないです」
「そう言えるなら大丈夫だよ。背負えるくらい成長するまで足踏みすればいい」
「でも、未来は待ってくれません」
「そういう時のための僕らさ」
「どういうことですか?」
「僕らが一緒にその責任を背負ってあげるってこと」
「そんなこと、それってありなんですか?」
「さっきも言ったでしょ。子どもを守るのが大人の責任だって。
今にも潰れそうな子がいるなら、肩代わりするのが僕らの役目さ」
リリーはキュッと胸が締め付けられたように苦しくなって、心臓を押さえた。
どくん、どくん、と規則的な鼓動を繰り返し、ほんのりと熱が伝わってくる。
生きている。当たり前の事実を実感する。
生きていく。命を背負う覚悟を決める。
『これは君の責任だ』
そう、これは私の選択で、私の責任だ。
「ダズ」
「ん?」
「私が一人で抱えられるようになるまで、助けてください」
「いいね半分こだ。これで僕は君の共犯者だね」
「ニーナみたいなことを言うんですね」
「彼女の受け売りだからね」
ふっ、とこぼしたリリーの笑みを朝陽が照らした。
「そういえば、何があったのか皆にも教えてあげてね」
「そうですね。帰ってから部屋に閉じこもってたし」
「心配してたよ。特にリゼさんなんて、あんなにそわそわしてるの初めて見た」
「怒られますかね?」
「多分ね」
「ダズも一緒に怒られてくれますか?」
「遠慮願いたいなぁ」
「共犯者だって言ったのはダズですよ」
「僕にはちょっと荷が重いよ。あー、用事思い出した」
ダズは言って立ち上がり、ドアノブに手を掛ける。
もう、とむくれるリリーは「ダズ」再度その名を呼んだ。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
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