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リリー・レンフレットの骨拾い  作者: 三色団子
第七章

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 死を連想し、受け入れてさえいたリリーに、「そうか」閃いたとばかりに男は両の手を打った。


「やっと分かった。ずっと気になってたんだ。


 君さ、他人のも自分のも、命の責任が自分にはないって思いたいんでしょ?


 そうだ、そうだよ。そうだよね。それなら辻褄が合うもんね。


 お父さんが殺されたって言うのに、消極的だったことが気になってたんだ。


 最初は僕と同じで、他人なんてどうでもいいって考えかと思ってた。


 街の人を殺すぞって言っても気にしてなかったしね。


 でも大切な人には反応したし、アンナさんには露骨だった。


 それっておかしいよね。だって普通は家族の方が大事じゃないの?


 しかもさっきのおじさんが死んだのもすっごく動揺してたし。


 優先順位どうなってんだよって話。それでね、僕はこう考えたんだ。


 君はお父さんが殺されても仕方がない人だったと思っている。


 だけど、もしその場に自分がいたら助けていたはずだとも。


 自分が一緒にいたらお父さんは死ななかったんじゃないかって。


 その二つの妥協点が消極的な戦闘を選択させていた。


 つまりさ、君は被害者の立場でいたいんだ。


 何か決断するのも、自分は選ばされたんだって言い訳が欲しいんだ。


 だから、自分のせいで死ぬかもしれないって人には手を差し伸べる。


 一応は対処しようとしましたって取り繕わないといけないから。


 最低だね。まるで人形ごっこだ。生きる価値がない」


 男は言い終えて、まるで反応のないリリーに小さく溜め息を吐いた。


 リリーは死んだわけでも気を失ったわけでもなく、男の話は聞こえていた。


 黙っていたのは、声を出す力がなく、何より図星だった。


 形を持たない思考の海の奥深くを漂っていた内面が裏返り、あろうことかこのような狂人に言語化され、また納得してしまっている。


 そうだとも。


 墓場で再開したあの男との因縁からも逃げ出し、父の死からも逃げ出し、これまでの人生で何一つとして責任を負ったことがない。


 人形ごっことは言い得て妙である。


 その通りだ。常に誰かの言いなりになるだけで、その環境の被害者という立場であり続けるだけで、自らの命を自分以外のモノに押し付けてきた。


 そうして、その命もいま尽きようとしている。


「あーすっきりした。じゃあもう死んでいいよ」


 男は今度こそ鋏を開いてリリーの首に焦点を当てた。


 チョキン、幕を閉じるように音を立てた鋏はしかし、リリーの首を切らなかった。否、切ることができなかった。


 瞬間、地面から大量の魔力が噴き出したのだ。


 リリーへと殺到するその奔流に光が屈折し、周囲の空間を歪めている。


「すっげぇ。なにそれ」


 男はただただ魅入っていた。


 本来目にすることのできない魔力が、局地的かつ超高密度に圧縮されたことで、生物の次元へと干渉を果たすその神秘に、目を奪われ呆然とする。


 何が起こるのかと次の展開に胸を膨らませる中、リリーが立ち上がった。


 だがそれは自分の意思や力でという風ではなく、まるで人形が上から糸で引かれるような不自然さで立っている。


 虚ろな瞳に映えるその赤は、一点の曇りもない殺意に満ちていた。


 感情の矛先が自身へと向けられた男は胸を高鳴らせ、全身に鳥肌が立ち、場違いにも顔がニヤけている。


 男は運命だとさえ感じていた。


 この世に神がいるのなら、この少女こそ。


 リリーは短剣を空へと掲げ、流れるように振り下ろす。


「……なるほど。切られるって、こんな感じかぁ」


 男の斬撃とは似て非なるものだった。


 切れる場所の拡張、なんて生易しい話では決してない。


 それは結果のみを正しく世界に反映させる営みである。


 男は真っ二つになって、血を噴き出しながら左右に別たれた。




 雲の隙間から陽が差し込む。


 雨は弱まり、その名残を地面に打つばかりだった。


 真っ赤に染まった地面と、そこに転がる男の死体。


 体は軽く、疲労も感じず、切られたはずの傷は跡形もなく消えている。


 リリーは意識を取り戻してからしばらく、何が起こったのか分からなかった。


 だが、その惨状が自分のもたらした結果であることだけは確信があった。


 そうして、もうじき日が暮れる。


「帰ろう」


 ぽつりと呟き、リリーは逃げるようにその場を立ち去った。


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