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死を連想し、受け入れてさえいたリリーに、「そうか」閃いたとばかりに男は両の手を打った。
「やっと分かった。ずっと気になってたんだ。
君さ、他人のも自分のも、命の責任が自分にはないって思いたいんでしょ?
そうだ、そうだよ。そうだよね。それなら辻褄が合うもんね。
お父さんが殺されたって言うのに、消極的だったことが気になってたんだ。
最初は僕と同じで、他人なんてどうでもいいって考えかと思ってた。
街の人を殺すぞって言っても気にしてなかったしね。
でも大切な人には反応したし、アンナさんには露骨だった。
それっておかしいよね。だって普通は家族の方が大事じゃないの?
しかもさっきのおじさんが死んだのもすっごく動揺してたし。
優先順位どうなってんだよって話。それでね、僕はこう考えたんだ。
君はお父さんが殺されても仕方がない人だったと思っている。
だけど、もしその場に自分がいたら助けていたはずだとも。
自分が一緒にいたらお父さんは死ななかったんじゃないかって。
その二つの妥協点が消極的な戦闘を選択させていた。
つまりさ、君は被害者の立場でいたいんだ。
何か決断するのも、自分は選ばされたんだって言い訳が欲しいんだ。
だから、自分のせいで死ぬかもしれないって人には手を差し伸べる。
一応は対処しようとしましたって取り繕わないといけないから。
最低だね。まるで人形ごっこだ。生きる価値がない」
男は言い終えて、まるで反応のないリリーに小さく溜め息を吐いた。
リリーは死んだわけでも気を失ったわけでもなく、男の話は聞こえていた。
黙っていたのは、声を出す力がなく、何より図星だった。
形を持たない思考の海の奥深くを漂っていた内面が裏返り、あろうことかこのような狂人に言語化され、また納得してしまっている。
そうだとも。
墓場で再開したあの男との因縁からも逃げ出し、父の死からも逃げ出し、これまでの人生で何一つとして責任を負ったことがない。
人形ごっことは言い得て妙である。
その通りだ。常に誰かの言いなりになるだけで、その環境の被害者という立場であり続けるだけで、自らの命を自分以外のモノに押し付けてきた。
そうして、その命もいま尽きようとしている。
「あーすっきりした。じゃあもう死んでいいよ」
男は今度こそ鋏を開いてリリーの首に焦点を当てた。
チョキン、幕を閉じるように音を立てた鋏はしかし、リリーの首を切らなかった。否、切ることができなかった。
瞬間、地面から大量の魔力が噴き出したのだ。
リリーへと殺到するその奔流に光が屈折し、周囲の空間を歪めている。
「すっげぇ。なにそれ」
男はただただ魅入っていた。
本来目にすることのできない魔力が、局地的かつ超高密度に圧縮されたことで、生物の次元へと干渉を果たすその神秘に、目を奪われ呆然とする。
何が起こるのかと次の展開に胸を膨らませる中、リリーが立ち上がった。
だがそれは自分の意思や力でという風ではなく、まるで人形が上から糸で引かれるような不自然さで立っている。
虚ろな瞳に映えるその赤は、一点の曇りもない殺意に満ちていた。
感情の矛先が自身へと向けられた男は胸を高鳴らせ、全身に鳥肌が立ち、場違いにも顔がニヤけている。
男は運命だとさえ感じていた。
この世に神がいるのなら、この少女こそ。
リリーは短剣を空へと掲げ、流れるように振り下ろす。
「……なるほど。切られるって、こんな感じかぁ」
男の斬撃とは似て非なるものだった。
切れる場所の拡張、なんて生易しい話では決してない。
それは結果のみを正しく世界に反映させる営みである。
男は真っ二つになって、血を噴き出しながら左右に別たれた。
雲の隙間から陽が差し込む。
雨は弱まり、その名残を地面に打つばかりだった。
真っ赤に染まった地面と、そこに転がる男の死体。
体は軽く、疲労も感じず、切られたはずの傷は跡形もなく消えている。
リリーは意識を取り戻してからしばらく、何が起こったのか分からなかった。
だが、その惨状が自分のもたらした結果であることだけは確信があった。
そうして、もうじき日が暮れる。
「帰ろう」
ぽつりと呟き、リリーは逃げるようにその場を立ち去った。
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