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リリー・レンフレットの骨拾い  作者: 三色団子
第七章

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 木製の扉をぶち破り、その奥の壁に激突したリリーは地面に伏した。


 意識は朦朧(もうろう)としていて、咳と一緒に水を吐いて呼吸は苦しく、耳鳴りのする頭の中は振り子のように揺れている。


「おいおいおいなんだってんだよ! ってうお、大丈夫か嬢ちゃん」


 どこか聞き馴染みのある声がして、リリーはうっすらと目を開けた。


 (かすみ)がかったようにぼやける視界に映るのは、大柄で大層な髭をたくわえたおじさんが心配そうに見下ろしている様子である。


 記憶が瞬時に掘り返され、リリーはそれがゴミ買取業者のおじさんであることを認識した。同時に、吹き飛んだ先はそのお店だった。


「すみ、ません。逃げてください」


 リリーは擦れる声の精一杯で謝罪と退避を伝える。


 事の深刻さを共有できていないおじさんは、やれやれと肩をすくませた。


「逃げろったってここは俺の店だ。どこにも行けやしねぇさ」


 どこか誇らしげにそう言うと、「まあいい、ちょっと待ってろ」おじさんはリリーに背を向け店のカウンターの方へと歩いていく。


 リリーは起き上がろうと剣の柄を握りしめたまま地面に手をつくが、腕はぷるぷると震えるばかりで力が入らず、顔を上げるのが関の山だ。


 ふと、自分が突き破って壊れた店の入り口の先に人影を見る。


 おぼろげながらも捉えたその輪郭は、先ほどまで対峙していた男のそれで、幾度と見た遠距離斬撃を繰り出す仕草が網膜を刺激する。


「逃げて。逃げて!」


 リリーが叫ぶのと同時に男は腕を横なぎに振った。


 チョキン、と鋏の切れる音が鳴る。


「あ?」


 突然の大声に驚き、おじさんはリリーの方を振る向いた。


 そのおじさんの首に一筋の赤い線が走り、つと鎖骨の間の窪みに血が伝う。


「あえ」


 珍妙な声を漏らし、おじさんの首がコルクを抜いたみたいに飛んだ。


 後を追うようにして、その首の高さにある店内の全てに一閃が走る。


 壁ごと切られた店の天井はわずかに浮いて、重力に従い落ちてくる。


 その重さに耐えきれず、壁は押し潰され、天井と共に瓦礫と化した。


 瓦礫の中からなんとか這い出たリリーはその惨状を目の当たりにした。


 ——わたしのせいだ。


 心臓から伸びる血管に栓をされたような幻痛を感じてぐっと胸を押さえる。


 握られた服から水がしみ出して、リリーの手のひらを濡らした。


「あーあ死んじゃった。君のせいで死んじゃった」


 声のする方へと目を向ければ、男が目の前に立っていた。


 一見すれば憐れむような目をしているのに、皮を一枚剥がせばその奥には悦に入る表情がありありと浮かんでいる。


「あなたが」


「違うよ違う、ぜんぜん僕じゃない。


 君がこの家に突っ込まなければよかったんだ、そうだろ?


 話しかけたり呼びかけたりせず、すぐに立って出ていけばよかったんだ。


 もしかして助けてくれるかもなんて期待しちゃったのかな?


 その油断が慢心が他人を当てにする弱者の思考が、おじさんを殺したんだ。


 だから君のせいだ。君が巻き込んで、君が殺したんだよ?


 さてさて、君はどう責任をとるのかな」


 リリーは歯を噛み、渾身の力を振り絞って無造作に短剣を振った。


 そんな苦し紛れの攻撃に当たるほど油断しているわけもなく、男はぴょんと後ろに飛んで躱して距離をとった。


「ほら頑張れ頑張れ。じゃないと、アンナさんたちも死んじゃうよ?」


「うるさい」


 ぼそりと呟き、ガクガクと震える足でリリーは立ち上がる。


 短剣を持つ腕は上がらず、一歩でも踏み出せば倒れてしまいそうだった。


 男はそんなリリーの様子を眺めて、試しにと腕を振る。


 短剣で受け止めることはおろか、躱すことさえできない。


 斬撃の直撃を受けたリリーは衝撃に吹き飛び、瓦礫の上を転がる。


 左肩から右脇腹にかけて切られ、血が噴き出ていた。


 幸いなことに傷は浅く、内臓までは達していないものの、放置していれば出血多量で死んでしまうだろう。


 そうだと分かっていても、リリーにはもはやどうする力も残っていない。


 降り頻る雨に打たれ、冷たくなっていく体を半ば他人事のように感じながら、曇天の空に視線を投げる。


「もうお終いかぁ。まあよくやった方かな。


 でも一応お礼を言っておくよ、ありがとう。


 君のおかげでまた一つ新しいことができるようになったから。


 冥途の土産って言って伝わるかな? せっかくだから教えてあげるよ。


 さっきすごい速さで攻撃してきたでしょ。でも僕には届かなかった。


 理由はね、君と僕との距離を切ったんだ。ごめんね理屈は僕にも分からない。


 でも距離がなければ永遠僕にはたどり着けないって、なんとなく分かるでしょ。


 できるかどうか分からなかったけど、成功したからやっぱり僕は天才だよね。


 って、もう聞こえてないのかなぁ。まあ用済みだしいっか」


 男は上機嫌に語ったあと、鋏を開いてリリーの首に焦点を合わせた。


 まるで新品のような刃が鈍く光る。


 しかし、男はその手をぴたりと止めた。


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