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セリフ長め/多めです。
男は視線を宙に投げ出し彷徨わせ、数秒考える仕草をとった。
「んー? 知らなーい。そもそも君とは初対面だよね?」
事もなげにそう言い放つ男の表情には、隠し事をしているという様子もなく、ただ事実を淡々と述べているようにしか見えない。
「それか、特徴を教えてくれたら思い出すかも」
「多分、四十代くらいのおじさんで、足が悪くて、いつもお酒を飲んでいて」
父について知っていることなどほとんどないリリーは、記憶にある断片的な外形的特徴を並べるが、絞り込める情報を提示できなかった。
「ごめんね、それだけじゃ分かんないや」
「殺した人のことを覚えていないんですか」
半ば八つ当たり的に言っていることを自覚しながらも、自身の無知無力に蓋をするためにはそう言う他にない。
男の方はと言えば、子猫がじゃれてくるみたいな風に気に留める様子もなく、飄々とした態度を崩さなかった。
「そりゃあね、たくさん殺したからいちいち覚えてらんないよ。
あ、でもこれから一人増えることはたしかだね」
「なんで。そんな風に命を奪えるんですか」
「えーなに宗教の勧誘? ごめんね、僕は神様ってやつを信じてないんだ」
「わたしも信じていません」
「あっそう。でもそうだなぁ、人を殺す理由。いろいろかな」
「じゃあ、そこでバラバラになっている人を殺した理由は?」
「金を出せーって襲ってきたから。正当防衛ってやつだね」
「来る途中に身なりのよさそうな男性も殺されていましたが、それは?」
「ああ、あれはちょっとした因縁とか怨恨があってね」
「……街の人たちを殺したのも、そうやって何か理由があったと?」
「あれれ、その言い方だと理由があれば人殺しも仕方がないって聞こえるよ」
「言ってません」
「えっとね、僕は髪を切る仕事をしていたんだ」
脈絡もなく話題が切り替わったことにリリーは戸惑い、口を挟むタイミングを逃してしまう。
そうして男は滑らかに語り始めた。
「でも働く店はどこも僕の才能に嫉妬して嫌がらせの毎日だった。
そんな時、僕を受け入れてくれるお店があったんだ。
幸せだったよ。まあ、口うるさい人もいたんだけどさ。
それも愛ゆえにってやつだね。
片づけとか備品の整理なんて下っ端のやることだろって。
今となっては大事なことだったって理解はしているつもりだけど。
すぐに散らかしちゃうのは悪い癖だから。
バラバラにした死体はちゃんとゴミ箱に入れるようにしてるんだ。
それと練習かな。僕はやろうと思ったことがなんでもできた。
練習なんて必要ないって、昔の僕ならそう言うだろうね。
ところがある日、この不思議な力を授かった。
使ってみたら全然思い通りにならなかったんだよ。
僕は夢中になった。間違いなく人生で一番練習をしたって断言できる。
でも練習するにも一人だとなかなか上達しなくてさ、人で試したんだ。
そしたら次々にイメージ通りのことができるようになった。
しかもやりたいこと試したいことがどんどん出てくる。
ああやっぱり僕は天才だったんだ。
そして、才能を伸ばすには練習が必要だった。
店長たちの教えはこういうことかって僕は天啓を得た気分だったよ。
あー、えっと、なんの話だっけ。あ、そうそう人を殺した理由だよね。
一言で言えば、僕の……練習台かな。
それにほら、最近だと警官隊があちこちにいて面倒なんだよ。
だけどここならどれだけ練習に使っても、誰も怒らないでしょ。
迷惑どころかありがとうって感謝されてもいいと思うんだ。
だって、僕の技術が向上して、街にはゴミが減るんだから。
ね、君もそう思わない?」
突然に同意を求められても、リリーは閉口するしかなかった。
話を聞いていなかったというわけではない。
むしろ日頃の勉強熱心も相まって、真面目に理解しようと耳を傾けていた。
だが、独善的で自己中心的、かつ触れたこともない思想信条と相容れることのない歪んだ価値観を前に、リリーには賛同するための経験もなければ、それを覆すための説法も持ち合わせもない。
また言論に対して暴力による抵抗も時として選択肢に浮上してくるが、リリーはそれでさえこの男には敵わない。
つまり、肯定も否定もせず、唯一できることが沈黙であった。
初めから理解も肯定も同意も求めてなどいなかったのだろう。
男は何を気にすることもなく、「それでね」話を続けた。
「それでね、君も僕の練習台になってほしいんだ。
たくさん人も物も切ってきたけど、魔力を使う人はまだ切ったことがなくてさ。
絶対いい経験になると思う。何かこう、新しい扉が開くみたいな、そんな予感。
君が殺される理由は理解できた?」
「はぁ?」
「え、なに。自分が殺される理由を聞きたかったんじゃないの?」
心底驚いたとでも言うように、男はぽかんと口を開けて小首を傾げた。
「……もういいです」
会話をしても意味がない。
そう悟ったリリーは静かに剣を構え直し、戦う覚悟を決める。
「どうしたの突然やる気になって」
「あなたと同じ、ちょっとした怨恨です」
「へぇ、十分だね」
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