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「すみません、付き合わせてしまって」
ニーナと並んで歩きながら、リリーは申し訳なさそうな顔で謝った。
「んー、別に暇だったしね。気にしなくていいわよ」
本当に気にした様子のないニーナはそれとして、
「ジェイドはなんでついていけって言ったんでしょうか」
リリーはジェイドの思惑が何であるのかに考えを巡らせていた。
「さーね。あれの考えてることなんてあたしには分かんないし」
「ニーナはジェイドと付き合いが長いんですか?」
「ぜんぜん。リゼとかダズの方が長いわね」
「じゃあリゼとかなら分かるんですか」
「どうだろ? 普段の様子を見てると振り回されてることのが多くない?」
「それもそうですね。でもみんな指示に従ってますよね」
「まあね、実績があるから。怪しいやつだけど」
「たしかに怪しいですね。あ、」
ワゴンを引いて歩き売りをしている花屋のおばさんを見つけたリリーは、あっと言う間に駆け寄っていった。
「すみません。献花用の花束ってありますか」
「あらリリーちゃんこんにちは。もちろんあるわよ」
「じゃあ一つください」
「銅一枚ね」
リリーはポケットから銅貨を取り出しおばさんに手渡す。
おばさんは銅貨を受け取ると、「いつもありがとうね」ワゴンの中からすでに包んである花束を取ってリリーに渡した。
「こちらこそありがとうございます。またお願いします」
リリーはお礼を言って頭を下げ、ニーナの方へと小走りに戻って行く。
「お待たせしてすみません」
「はいよ。次からどっか行く前に声かけてね」
「あ、そうですよね。ごめんなさい」
「いいのいいの。さ、行きましょ」
ニーナはリリーの空いている方の手を引いて歩き出した。
歩幅はリリーに合わせて小さくしているのが分かって、リリーは口元を少し綻ばせる。
「なにニヤニヤして」
「いえ。こうしてニーナと街を歩くのは初めてだなって」
「こんな天気じゃなかったら買い物に付き合ってもらうんだけどね」
「雨、降りそうですよね」
「帰るまでに降りませんように」
繋いでいない方の手を立てて、むむむと念じるニーナをリリーが真似る。
この服を雨に濡らし、さらに土や泥でも汚してしまったら、リゼに怒られるのは確実だろう。今だけは神様とやらを信じてリリーは祈った。
「そういえばさ、リリーのお父さんってどんな人?」
「えっと、なんでですか?」
「あのおばさんがいつもありがとうって言ってたでしょ。
ってことはさ、結構な頻度で墓参りしてるってことじゃん。
リリーみたいないい子にそんな風に思ってもらえる人って、気になるわ」
徐々に人の少ない地域に進み、雲の影が重たさを増している。
共同墓地まではもうすぐだった。
「実は、わたしもよく分かっていないんですよね」
「えー、どういうこと?」
「あまり会話をしてこなかったので」
リリーは退廃特区で生活していた時のことを掻い摘んでニーナに語った。
物心ついた時からゴミ拾いをして生計を立てていたこと。
名前も知らない父は足が悪く、毎日お酒を飲んでいたこと。
犬や人に襲われたり、体を売らされていたり、父に暴行を受けていたこと。
それでも自分を捨てたりせず、家に置いてくれて、病気や怪我をして本当に命の危険があった時は看病してくれていたこと。
大変だったけど、そこには家族の愛があったはずだとリリーは信じていた。
「あんた想像以上に壮絶なの人生送ってたのね」
「そのおかげでニーナと会えたので」
「はぁー、ほんといい子いい子」
ニーナは繋いでいた手を離してリリーの頭を撫で回した。
「えへへ」と照れた笑みを浮かべたリリーはされるがままで、気付けば父の墓がある墓地へとたどり着いていた。
「おじさんこんにちは」
「リリーか。そっちは、見ない顔だな」
「どーも。リリーの付き添いです」
「そうか。最近は女子どもを狙った変なやつが出ると聞く。さっさと用を済ませて帰んなさい。襲われたいなら別だがな」
「ありがとうございます」
お礼を言って背を向け歩くリリーにニーナが後を追う。
少し歩いて、リリーは父の墓の前に足を止めた。
お墓といっても『リリーの父』と掘られた一本の木の杭が地面に刺さっているだけで、簡素や質素という言葉でさえ表現には足りない寂しさがある。
リリーは杭の根元に花束を置き、手を合わせて目を閉じた。
話したいことがたくさんあった。
違う街や村にいったこと。森に入って探索したこと。魔物と戦ったこと。知らない人と話をしたり、ニーナたちとも仲良くなったこと。市長はかなり怖かったし、ジェイドはやっぱりどこか胡散臭いこと。
ここ十数日の間の出来事を余すことなく脳内に巡らせて、言葉にならない思念のようなものを届けと念じていた。
ぽつぽつと雨の音がして、雨粒がリリーの頭や肩を叩く。
地面からは土の蒸れた独特な臭いが立ち昇り、雨足はいよいよ本格的に強くなろうと助走の速度を上げている。
——帰ろう。
「リリー」
そう思うのと自分の名前が呼ばれたのはほとんど同時だった。
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