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リリー・レンフレットの骨拾い  作者: 三色団子
第六章

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「うっす。昨日出した報告書はもう見ました?」


 報告書とはロックバードの駆除及び周辺の調査に関するものである。


 一日目に所感を述べ合いリリーがメモを取っていたようなものを数日分、それとなくリゼが書類としてまとめていた。


 ただし、あくまでその書類は自分たちが確認するようのものであり、間違っても市長に見せるようなものではなかった。


 後で清書しようと思っていたリゼなんかは、驚きと呆れを同居させながらも言葉を挟めない理性の介在する、なんとも言えない表情をしている。


「ああ、目は通した」


「じゃあ話は早い。結論として、今回の件はスタンピードの前兆だ」


「事実か」


「あなたが俺を信じるなら」


 市長は長く溜め息を吐くと、神様も平謝りをしてきそうなほど険しい顔をする。


 聞いたこともない単語にリリーは首を傾げた。


 周りを見ればダズとニーナとレオンも知らなさそうな顔であった。


 それでも、市長の表情からただ事ではない空気をみな一様に感じ取っていた。


「やはりか」


「お、というと街にもその兆しが?」


「関連しているか定かではない。憶測で語ることも好かん。


 だが、魔力絡みの事件が起きているのはそういうことなのだろう」


「例えば?」


「未解決なのは裁断死体事件と女児強姦殺人事件の二つだ。


 どちらも人の成し得る過程を無視した結果を出している」


 前者の事件について市長が口にした時、リリーの眉毛がぴくりと上がった。


 それは忘れもしない父の下を訪れた日のこと。


 バラバラの死体がゴミ箱に詰め込まれている事件が発生していると、床屋のアンナが雑談で語っていた。


 実家に帰ると、父はバラバラの死体となって亡くなっていた。


 もしかしたら同一犯なのではないか。リリーはずっと頭の片隅に置いていた。


 その犯人はまだ捕まっていない。


 リリーは無意識のうちに小さく拳を握りしめていた。


「それで、貴様のことだ。何か対策があるのだろうな」


「ええ、まあ。今日来たのは報告もそうだけど、市長にお願いがありまして」


「話は聞いてやる」


「第一声で無理と言わないところが器の違いってやつですかね。


 お願いってのは、レンフレット大森林に調査員を送ってほしいってやつです」


「お前……、失礼。調査は貴様らで十分ではないのか」


「俺らでやってもいいですけどね。でも広すぎるし、俺の目をもってしても把握できないんすよ。それと、調査が終わる頃には街が壊滅してたりして」


「はぁ……。お前が言うと本当にそうなりそうだからやめろ」


「そんなわけで、ここは人海戦術が適してるってわけです。


 市長にはそこんところの手配と指揮をお願いします」


 どこか懐かしむように苦々しい顔をする市長を前に、ジェイドは頭を下げた。


 その行動が予想外だったのだろう。


 全員がジェイドを見て目を丸くしていた。


 市長は咳ばらいを一つして、「顔を上げろ」ジェイドと視線を交わす。


「一個小隊分の私兵を調査に当てる。これで満足か」


「さっすが市長、分かってるね」


「まったく。まあいい、何かあれば報せる。そのあとはきっちり働いてもらうぞ」


「もちろんですよ。あ、それと、事件の方はこっちで片付けときますんで」


「用が済んだならさっさと帰れ」


「へーい。よし、全員帰るぞー」


 市長は虫でも追い払うように言って、ジェイドはそそくさと退室する。


 リゼは「失礼します」と頭を下げ、リリーたちもそれに倣った。


「大変だな。互いに」


 労いの言葉をもらい、苦笑いを浮かべたリゼも退室する。リリーたちもその背を追って市長の部屋を後にした。


 先に部屋を出ていたジェイドに追いついたリゼは、その後頭部を叩いて子気味のいい音を市庁舎に響かせた。


「いって、なにすんだよ」


「私の心労の分よ。っていうか、事件解決なんて約束してどうするのよ」


「それはもう当てがあんの。リリー」


「は、はい」


 呼ばれて手招きをされたリリーは小走りになってジェイドの近くに寄る。


「これありがとな。返す」


 そう言われて渡されたのは今朝貸した短剣だった。


 リリーは受け取ったものの、短剣を差すベルトを巻いていないので、仕方がなく手に持つしかなかった。


「さ、帰るか」


 一行が市庁舎を出た時、「あの」思い出したようにリリーが声を上げた。


「このままお父さんのお墓参りに行こうと思うんですけどいいですか」


 リリーは忙しい日々の中、隙間を見つけては父の墓を訪れていた。


 それが調査によって遠征に出ていたことでかなりの日数が空いてしまった。


 また、今の今まで頭の中からすっぽりと抜けていたこと、事件のことで思い出したこともあって、つい口をついて提案していた。


「いいぞ。ニーナ、ついてってあげろ」


「え、なんであたし? リゼでいいじゃん」


「いいから。頼んだぞ」


 ジェイドの有無を言わさぬ圧に押されて、ニーナは面倒くさそうに承諾する。


「まあいっか。リリー、お墓ってどっち」


「えっと、こっちです」


「気を付けろよー」


「雨降りそうだから、早めに帰ってきなさいね」


「はい」


 空は青がすっかり塗りつぶされて、今にも落ちてきそうな曇天が(うごめ)いている。


 リゼに言われた通り早く帰ろう。


 ジェイドたちと別れたリリーは、ニーナを伴い父のお墓へと向かった。


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