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リリー・レンフレットの骨拾い  作者: 三色団子
第六章

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「多忙な方でね、普通は昨日今日で会える人じゃないの」


 レーベンティアはその成り立ちと意義から、市民と商人の影響が強かった。


 市政は王国にありながら民主的選挙に基づく議会制を採用しており、国王でさえ簡単には命を下すことの出来ない、ある種の自治区の様相を呈していたのだ。


 他に類例の見ない都市であっても、運営は滞りなく行われており、きわめて平和と安寧と発展を謳歌していた。


 だが、権力が腐敗するのは世の常である。


 議員たちの背後にはいつしか大商人や貴族の影が伸び、市民の代表という建前をした権力者の傀儡と化していた。


 不用意かつ不明瞭なまま税は重くなり、身内贔屓(びいき)な商会の優遇や競合への冷遇が行われ、既得権益を利用した事実上の特権階級が出来上がり、貧富の差の拡大に加え、法の濫用と理不尽な裁定など、悪事を挙げれば枚挙に暇がない。


 また極めつけに、史上最大規模の内乱として記憶に新しい南北戦争において、レーベンティアは中立を謳いながらその実、革命派である南側に与していた。


 大量の革命派を都市へと匿い、密かに軍の武器や糧食を備蓄し、大規模な攻勢に出る援助を行っていたのだ。


 王国側からしてみれば、それは外観誘致にも近い裏切りであり、黙って見過ごすわけにもいかない。


 必然的に、レーベンティアは戦場となった。


 主な戦場となったのは現在の退廃特区がある場所である。


 結果としてその内乱は王国側が勝利したのだが、都市は再起不能と思えるほどに崩壊寸前だった。


 それでも、レーベンティアは歴史と権威性、並びに東西南北の交易を中継する王国の中心地として、国民から復興が期待されていた。


 国王も実利と国民の声を鑑みて、再建を試みることとした。


 そうして都市長として王命を拝し派遣されたのが、王国四代貴族が筆頭と名高いオルトナ家の当主である。


 市長はレーベンティア入りをして視察するなり、戦場となった場所を退廃特区と切り捨て、まずは人と物と金を狭い範囲に集中させた。


 一時的にも都市機能が回復したのを見計らい、復興と同時に新たな土地の開拓とを行い、たった数年で元の経済規模まで回復することとなった。


 そればかりか、経済発展の勢いはとどまるところを知らず、さらなる成長の兆しさえ見えている始末である。


 市長はその役割を十全以上に果たしたといってよい成果を上げたのだ。


 後は代役でも立てて推移を見守り、元の議会制なり国王の直轄領なりにして身を引けばいいのだが、いかんせん市長は真面目が過ぎた。


 いや、思い入れが強いと言った方がいいかもしれない。


 市長は都市内外における大小様々な問題に耳目を利かせ、ここで余生を過ごす覚悟さえ垣間見えている。


 これには国王陛下も微妙な表情をしているのだが、まあ余談である。


 何はともあれそんなわけで、市長は多忙であり、面会の予定などはひと月以上先まで埋まっていると言っても過言ではなかった。


 それにも関わらず、ジェイドは早々に市長と面会を取り付けてしまえたのだ。


「これが意味することは何か分かる?」


 ある程度の事情を話し終えたリゼがリリーに尋ねた。


「……癒着ですか?」


「ふふっ、リリーも冗談が言えるようになってきたわね」


 リリーは半分くらい本気で言っているのだが、「でも市長の前では冗談でも言わないでね。首が飛ぶから」とリゼに(たしな)められた。


「それだけ今回の件が重視されているってことよ」


「なるほど」


 そうは言われてもよく分かっていないリリーは、鏡越しに目を逸らして分かった風の相槌を打った。


「まあ、色々あるのよ。それと、市長との応対は基本的に私とジェイドがするから、あなたたちは何か聞かれたら答えるように」


「はい」


「よろしい。さ、セットも終わったから出ていいわよ」


 ポンと肩を叩かれたリリーは椅子から立ち上がって部屋から出る。


 出発まで何しようかとぼんやりしていると、ジェイドに声を掛けられた。


「お、ちょうどよかった」


「わたしですか?」


「あげた短剣ちょっと貸してくれ」


「部屋にあるので取ってきますね」


 急かされるように自室へと戻り、机の上に置いた短剣を持って階段を下りる。


 廊下には先ほどまでいたはずのジェイドの姿が見当たらず、リビングを覗いてみると、普段よりも身ぎれいな恰好をしたダズとレオンがいた。


「おぉー、見違えちゃって。どこかのお姫様みたいだ」


 ダズは朗らかな笑みを浮かべながら言って、「ねえレオン」と同意を求める。


 話を振られたレオンは「別に」と言って顔を背けた。


「照れちゃってまったく」


「あの、ジェイドってどこに行きましたか」


「俺ならいるぞ」


「ひっ」


 突然背後から声がして、リリーは思わず短く悲鳴をあげた。


「その反応は地味に傷つくんだが」


「すみません。あの、これ」


「おう、ありがとな。これないと面会できないんだよ」


「面会に短剣が必要なんですか?」


「まあ、身分証明にちょっとな」


 リリーから短剣を受け取ったジェイドがあっけらかんと言い放った。


「身分証明?」


「出発までもう少しかかるから、ゆっくりしてな」


 なぜそんな大事な物を自分に渡したのかとリリーは困惑し、疑問を口にするより早くジェイドはリビングから出ていった。


「ジェイドって、貴族かなんかですか?」


 身分の証明とは俗に、商会主や貴族などの権威性を持った人物に必要とされるものと理解しているリリーは、誰にともなく呟いた。


「ん? あれ、聞いてない?」


「なにをですか?」


「ジェイドは一応王族なんだよ」


「えっ……」


「本人は放棄したって言ってたけどね」


「放棄、って、できるものなんですか」


「さあ? まあ見ての通り隠し事が多いから、僕にはなんとも言えないかな。でもいきなり市長と面会なんて、邪推しちゃうよね」


 リリーは突然告げられた事実の衝撃に絶句したまま、不安と疑問の渦中に溺れながら時は過ぎ、出発の時刻となった。


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