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リリー・レンフレットの骨拾い  作者: 三色団子
第六章

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 リリーたち、特にリゼは朝からバタバタと忙しなかった。


 魔物の討伐と周辺の調査を終えてリリーたちが帰還し、レーベンティアへと到着したのは正午を少し過ぎたあたりのことである。


 約十二日間という短い期間の遠征ではあったものの、長距離の移動や慣れない土地での活動などで全員にそれなりの疲労が見て取れた。


 そんなわけで十分な休息を取ろうという判断になった翌日、全員がそろった朝食の席でジェイドが言った。


「午後一で市長と面会が決まったから準備しといて」


 ニーナは『またか』という顔をして呆れ、ダズは苦笑を浮かべ、レオンはあからさまに行きたくなさそうに顔をしかめる。


 リリーはよく分からないので聞き流し、リゼは怒りに震えていた。


「なんで毎回毎回、直前になって……」


「直前じゃないだろ。まだ二、三時間はある」


「当日に言うなって何度言えば分かるのかしら」


 盛大なため息とともに感情を冷却したリゼはリリーの方を見る。


「リリー、準備するからさっさと食べなさい。ダズ、片付けよろしくね」


「あ、はい」


「大変だね。ニーナはいいの?」


「あたしはそこまで時間かからないからへーき」


「毎度大げさなんだよなぁ。普段通りでいいのに」


 ジェイドは友達の家に遊びに行く子どものような気軽さで言い、事の重大さを一番に理解しているリゼはいちいち取り合わずに、手早早く朝食を食べ終えた。


 言われた通り、リリーもすぐに食べてリゼの部屋のドアをノックした。


「入っていいわよ」


 リリーが部屋に入ると、リゼはいくつかの服をベッドに並べて、腕を組み真剣な表情をしていた。


「あなたは社交用の服に着替えてきなさい。説明は後でしてあげるから」


「分かりました」


 自室に戻りクローゼットを開けたリリーは、二着あるうちのどちらに着替えるか頭を悩まして、シンプルでまだ動きやすそうな方を選ぶことにした。


 もう一方はくるぶしまでかかるロングスカートにごてごてとした装飾とフリルのあしらわれたもので、リリーはあまり好んでいない。


 リリーは今着ている服を脱いでいそいそと着替えだした。


 こららの服は客人や目上の人、あるいは上流階級の店に足を運ぶ際に着るものであり、試着を除いてこれらに袖を通すことは初めてであった。


 つまり、面会する市長というのはそういった相手と推察できる。


 そのことに思い至って少し緊張した面持ちになったリリーは着替え終え、リゼの部屋へと戻った。


「あらそっちにしたの」


 前髪を上げて後ろに縛り、鏡の前で化粧をしているリゼが横目にちらとリリーを見る。ベッドに並んでいた服は片付けられており、一着だけが横たわっていた。


「はい。それで」


「ちょっと待ってて。こっちが終わったら髪をセットしてあげるから」


「あの、本とか読んでいていいですか」


「好きにしなさい」


 許可を得たリリーは本棚から『鏡越しにキスをして 墓前に火傷を晒す※』というタイトルの小説を手に取った。


 それは無差別に人を襲う殺人鬼と、その殺人鬼を捕まえようとする一人の女性警官の恋愛小説である。


 最近では舞台化までされ、巷では今一番人気の作品と言われていた。


 普段はそういったものを読まないリリーも、世間の評価が高い作品とあっては気にならないはずもなく、機会があれば読んでみたいと思っていたらしい。


 表紙をめくり、文字の上に目を滑らせてすぐ、リリーは物語の中へと入り込み、ついつい周囲のことも忘れて耽ってしまう。


「リリー」


 そう声がかかるまで深く集中していたリリーは、名前を呼ばれてはっとする。


 本から目を離して顔を上げると、基礎工事を完了させたリゼが見ていた。


「先にあなたのセットをするから、ここに座って」


 促されたリリーは先ほどまでリゼが座っていた椅子に腰を下ろす。


 鏡に映る自分と比べて、化粧をしなくてもきれいなのにと思いながら、リリーは髪をセットしてくれているリゼを見つめていた。


 ちなみにリリーは以前、なぜ化粧をするのか尋ねたことがあった。


『マナーと嗜み。それと、女の化粧は本音を隠すためのものよ』


 リゼに泰然とそう返されたこともあって、リリーは「そういうものか」と納得したものの、いずれ自分もやらねばならないと思うと少し億劫だった。


 何に対しても、お世話になった人には特に正直にありたいものだ。


「市長ってどんな人なんですか」


 リリーはそう思うのと同時に、準備している目的を思い出してリゼに尋ねた。


「どうしたの急に」


「いえ、こんなにちゃんと準備する理由ってなんだろうって気になって」


「そうね。あなたが思っているよりずっと市長が偉い人だからよ」


「どのくらい偉いんですか?」


「……役職的に、国王陛下を一番上とした時に、上から五番目くらいかしら」


「えっ」


「そんな人に不格好な姿で挨拶なんて、まず警備兵に拘束されるでしょうね」


 いくら学の低く一般常識を身につけはじめたばかりのリリーでも、それがどれほど異常なことか理解できたらしい。


 言葉を失い固まるリリーの反応をよそに、リゼは愚痴にも似た説明を続けた。


※注釈『鏡越しにキスをして 墓前に火傷を晒す』について

タイトルは直訳気味にしたものであり、実際のニュアンスと異なります。

伝わるように訳すなら『透明な板(犯罪者と面会時に隔てられるアクリル板のような物)越しにキスをして、死ぬまで消えない傷をあなたに残したい』といった感じです。

いい感じのタイトルにできず、本編に関係ないこともあって、えいやで出しちゃいました。


小説の内容としては以下の通りです。

大量殺人犯のプロファイリングをしていた女性警官が、とある青年と出会う。

その青年に徐々に心惹かれていくのだが、同時に、事件の犯人との一致性を見出してしまう。

様々な葛藤の中、「せめて私の手で終わらせたい」と逮捕に至るのだが……。

といった具合の、『錯視』と同じく即興で考えた小説です。

当然、書く予定はありません。


~~~~~テンプレート~~~~~

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