閑話①
リリーたちが留守番をしている最中、ジェイドたちは森の奥深く、放棄され自然に呑み込まれたかつての開拓村跡の土を踏んでいた。
候補としてここを拠点にとも考えていたのだが、浸食が思っていた数段早かったため、この廃村も調査対象と切り替えて訪れることとなった。
「調査って言っても、まあ見事に森の一部だなこれ」
手分けをして探索しながら、ジェイドは民家を突き破って伸びた大木を見ながら呟く。壁には緑のツタが何重にも巻き付き、家の中は雑草に満ちている。
ここ数年の出来事と知っていても、一見すれば数十年もの時を感じさせる様相を呈していた。
「どこも似たようなもんか」
何件か他の家や小屋を回ってみたものの、ジェイドの言う通りどれも似たように自然の一部として調和している。
また、ここまでの道中同様、魔物はおろか動物一匹、姿形や気配すらなかった。
「おっ、そっちはどうだった?」
他の場所を見て回っていたリゼとダズがやってきて、ジェイドが尋ねた。
「どこも同じね。目ぼしいものもなし」
「僕の方も同じく。まあ異変と言えばこの状況そのものが異変なんだろうけど」
二人とも芳しくない様子でそう告げ、「だよなぁ」ジェイドは溜め息を吐く。
「そんじゃあ今日はもう切り上げよう」
「今からだと日暮れギリギリだね」
ジェイドたちは言って、廃村から出て来た道を戻りはじめた。
「なんか、浮かない顔してんな」
「なに、いつも通りだけど?」
道なき道を歩きながら、リゼはどこか落ち着きのない表情をしていた。
例えるなら、指にできたささくれが気になる、みたいな顔である。
あくまで普段よりほんの少しだけ、気持ちや考えが違う方向を見ているようなもので、ダズなんかは気付いてすらいない。
「そういや、レオンたちに何もなくてよかったな」
「そうね」
「何かあったの?」
「リゼが心配してたんだよ。過去の自分と重なるってさ」
「そんなんじゃないわよ」
「ああ、まあ大丈夫じゃないかな。レオンはあれで結構理性的だよ」
「理性的じゃなくて悪かったわね」
「そういう意味じゃないけどさ。それで言うと、ニーナはリリーを心配してたね」
「へえ、やっぱ気に入ってんのな」
「そりゃね。ニーナは姉御肌って言うか、面倒見がいいから」
「自覚が出てきたようで何よりね」
「にしても子どもの成長ってのは早いよなぁ」
「そうだね。ニーナもレオンにしても、出会った頃より立派になったよ」
「リリーもひと月前と比べたら別人になったわよ」
「俺たちが年を取るわけだ」
「君もまだ若いだろ。僕なんて老後が見えてくる」
「あなたもそんな年じゃないでしょうに。こんな会話自体が年寄りくさいけど」
「リゼも三十代だしな」
「まだ二十六よ」
「おーこわ。魔物のせいにして後ろから刺したりすんなよ?」
「お望みなら下顎と上顎を串刺しにして喋れなくしてあげましょうか」
「ははっ、その犯行を着させられる魔物がかわいそうだね」
「そうなる前にさっさと帰ろうぜ」
軽口を叩き合いながら森を出れた頃には、日の暮れが近づいていた。
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