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怪我をしているわけでもなく、留守番と言われてもやることのないリリーは、剣術の練習をするべく外へと出た。
リゼに教わった型の一つ一つを丁寧に、確かめるように繰り返す。
それが終われば、仮想の敵を頭の中に浮かべて、現実とリンクさせながら剣を振るい戦闘を模倣する。
リリーが思い浮かべたのは、ついさっきまで戦っていたロックバードであった。
思い出せば思い出すだけ、反省点や改善点が次々と出てくるし、反省点のさらなる反省点なども見えてきて、堂々巡りの様相を呈している。
「まじめねぇ」
いつの間にか軒下に置かれた長椅子に座ってリリーの様子を眺めていたニーナが呟いた。隣には怪訝な顔をしたレオンも座っている。
リリーは気付いてちらりと目を向けたが、気にする素振りもなく、すぐに訓練を再開した。
何をそんなに熱心に、と思うかもしれないが、リリーにとってしてみれば一分一秒も惜しいという気持ちでいっぱいだった。
ジェイドが言った通り、明日にはまた森へと行くことになるかもしれない。
そうして魔物と戦闘があった時、今度はいったい誰に怪我を負わせるのだろう。
自分を庇う誰かだろうか。
足手まといの分を補強して負担が増えた誰かだろうか。
それとも、今度こそ自分自身が重傷を負って、調査が中断されるのだろうか。
情けない。そう思うのと同時に、熱せられている水の入った鍋の底から泡が立つように、ふつふつと怒りが湧いてくる。
リリーは自身の無力感を否定しなければならなかった。
その怒りは、リリーが立ち止まることを許してはくれない。
立ち止まれば、骨拾いをしていたあの頃に追いつかれてしまう。
環境や状況や立場が変わっても、毎日が必死なことに変わりはない。
むしろ今の方がよほど死に物狂いと言える。
何せジェイドたちの裁定一つで、リリーはいつでもあの頃に戻れてしまうのだ。
自身の価値を真価を、あるいはその途上にあることを示し続けなければ、死ぬまで終わりのない地獄のような日々へと自ら戻らねばならない。
目を瞑り、暗がりを覗けば、過去の自分が手を伸ばしてくる。
影を踏み、背に触れ、肩を足を掴んで引きずり込もうとしてくる。
振り払わなければいけない。追いつかれてはいけない。
一度でも戻ってしまったら、もう二度とはこちらへ来ることができず、終わりの見えない三界で、延々と死出の淵を彷徨うことになる。
そうならないために、リリーはただひたすら現実と向き合うと、今一度覚悟を決めて訓練に臨んでいた。
「おい」
集中している最中、レオンに呼ばれたリリーが振り返る。
「お前、俺を助けた時のやつやってみろよ」
突然何を言い出すのか、というか何を言われているのか、リリーはすぐには思いつかず、小さく首を傾げた。
「離れたとこからロックバードを斬っただろ」
言われてようやく、そういえばそんなこともあったなとリリーは思い出す。
たしかにあれができたら便利だが、あの時は無我夢中で、どうやったかなどリリー本人でさえまるで分らなかった。
「いいからやってみろよ」
レオンに促され、仕方がなく、その辺に見える木の枝に向けて剣を振る。
当然切れることはなく、何度かやっても傷一つつかなかった。
「おい、なんかコツとかねーのかよ」
隣に座るニーナを見ながらレオンが言った。
ニーナは「あたしが知るわけないでしょ」小馬鹿にでもするみたいに返す。
「火の玉飛ばせんだから同じようなもんだろ」
「あたしは最初からできたから教え方なんて知らないの」
「んだよ使えねーな」
舌打ちと共に文句を言って顔を背けるレオンに、「生意気な」言ってニーナはその頭に手刀をおろした。
「そもそもコツなんて聞いてもあんたは使えないでしょ」
「うるせぇよ」
「まずは自分の剣に魔力を作用させなさいっての」
ニーナはそのままレオンの頭を乱暴に撫でくり回し、「触んな」手を払われた。
「ってことであたしじゃなんも教えらんないわ。ごめんねリリー」
「大丈夫です。リゼにもまだ早いって言われたので」
リリーはまた気にする素振りもなく、訓練を再開した。
「あんたもあれくらい素直なら可愛げがあるんだけど」
リリーの訓練はジェイドたちが戻ってくる日暮れまで続いた。
その後、リリーを伴って森の奥や広範にまで足を運び、初日と合わせて合計五日間の調査が行われたものの、目ぼしい発見はなかった。
とはいえ魔物化したロックバードは掃討できたものと考えてよさそうであったし、他の魔物も周辺にいないことが確認できただけでも収穫である。
また、原因が分からないまでも、大なり小なり森になんらか異変や異常があることも見つけている。これらだけでも成果としては十分だろう。
よって一行は、依頼内容にあったロックバードの駆除、並びに今回の調査結果について市長へ報告するべく、レーベンティアへと帰還することとした。
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