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リリー・レンフレットの骨拾い  作者: 三色団子
第五章

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 ジェイドたちと同じくらい距離を取ったニーナたちは、ダズだけで魔物への対処ができる陣形を組んで構えている。


 ニーナは木を背にして背後からの奇襲を潰し、覆いかぶさるようにダズがその前に立つ。前方の全てをダズが受ける形である。


 例え樹木を貫通する攻撃を背後から受けたとしても、かなりの衝撃が緩和されることで、致命傷にはならないだろうという考えだ。


 ダズの戦闘スタイルは攻撃を受けきってのカウンターが軸となるし、ニーナは近接戦闘が得意ではないので、形としては最適とも言える。


 しかし、守られるだけという役回りの本人は、つまらなさそうに腕を組んで不満気な顔をしていた。


「ひま。やることがない」


「ニーナが本気出したら大惨事になるからね」


 こんな森の中でニーナが力の一端でも使おうものなら、まず間違いなく敵味方もろとも命の保証はできないだろう。


 前回の熊の魔物討伐の時も最初は暇そうにしていたなと思い出しながら、ダズはそう宥めて苦笑した。


「わかってるわよ。でも、いざとなったらぶっ放すから」


「そうならないことを願うよ」


 どこか気の抜けた様子の和気あいあいと談笑しているようでいてその実、周囲への警戒を怠ることなく、二人は注意深く気配を探っていた。


 だが、相手が攻めてくるどころか飛び去る影や物音さえしない。


 様子見か足止めか、何にせよ魔物側の思惑がいまいち読めずにいた。


 こういう時間が続くと次第に集中力が切れていく。


 また、精神的摩耗は加速し、隙を晒して命取りになることもある。


 早く仕掛けてきてくれた方が、二人にとってはありがたい状況だった。


「これ、リリーたち大丈夫なの?」


 そんな状況を誤魔化すように、ニーナは不満の目を逸らす。


 レオンたちの方から聞こえてくる戦闘音は激しさを増していた。


「そんなに心配?」


「そりゃそうでしょ」


「そう簡単にやられる子たちじゃないと思うけど」


「レオンはともかくリリーは分からないじゃん」


 ニーナの言い分も一理ある。


 というのも、リリーは魔物との戦闘はこれが初なのだ。


 先の模擬戦とここ数日の内に、その実力や人となりはなんとなく把握できているのだが、初めてというのはアクシデントが付きものである。


 それでも魔物と一対一ならどうとでもなるだろう。


「レオンと共闘だし、囲まれる側の集団戦とか、あたしでもきつい」


 ニーナの思う不安不確定な要素は主に三つだ。


 一つは先述の通り、魔物との初戦闘。


 これまで人としか訓練してこなかった人間が、いきなり動物と戦えというのは勝手が違い過ぎる。


 事前に情報共有をしているとはいえ、実戦で活きるかは別問題だ。


 一つはレオンとの共闘。


 二人の仲は悪くはないが良くもない。顔を合わせれば挨拶を交わす程度で、互いにまだどこか距離を測りかねているという印象が強い。


 加えて、レオンはこれまで指示を受ける側であった。


 それを突然「はい今から指揮してください」なんて言われても、「はい分かりました」で結果を出すのは難しい。


 こちらに至っても一人なら自由が利くのだろうが、後輩がいる手前無視するわけにもいかない。


 しかもその後輩はつい先日、内容的に自分を負かしている相手ときた。


 はてさて、互いが邪魔をし合わなければ及第点といった具合だろうか。


 最後の一つは魔物の行動にある。


 ハミングバード、もといロックバードは群れで行動をする生き物だ。


 魔物になってもその辺りの習性は変わらないはずである。


 つまるところ連携はあちらが上だし、数の上でも地形や環境の上でもあちらが断然に有利を取っている状況にある。


 戦いとは敵の弱いところを狙うのが基本だ。


 ジェイドが言った通りなら、魔物たちもその基本に則り、一番狩りやすいレオンたちを確実に潰しにいく。


 自分が魔物の側なら、自分でもそうするとニーナは考えていた。


 それを逆手に取って、足止め要員の数匹を確実に処理し、頃合いを見て加勢しようと言うのがジェイドの考えるところなのだろう。


 まあ、レオンとリリーがそれまで耐えることができればという前提だが。


「あーイライラする。さっさとこいっての」


 先の要素から、ニーナはじりじりと背を炙られるような焦りに眉をしかめた。


 不意に、風の切れる音がした。


 ダズの視線が自然とその音のする方に流れる。


 左から心臓目掛けて一匹のロックバードが嘴を尖らせ突進してきており、示し合わせたもう一匹が正面から同様の位置へ突撃してきていた。


 ダズは丸太のように太い左腕を曲げ、脇を締めて左側からの攻撃をガードし、正面からの突進には正拳突きの要領で拳を繰り出す。


 衝突音が三つ、鼓膜を打った。


 一つは左腕の筋肉に弾かれて顔が潰れたロックバード。


 一つは正拳突きを受けて粉々に砕け散ったロックバード。


 一つは空いた右脇腹に辻斬りをしようと翼を当ててもげたロックバード。


 地面を転がり立つことすらままならない三匹目にダズは近づき、足を落とす。


 ゴシャ、という鈍い音が響いて、出したての糞でも踏んだような汚れがダズの足の裏にこびりついていた。


「ニーナ」


「分かってる」


 ダズの呼びかけに答えたニーナは、その場から半歩横にずれた。


 瞬間、頭上の木の葉の隙間から急転直下でロックバードが突撃してきた。


 おそらくダズが離れるタイミングを狙っての攻撃だったのだろう。


 しかしてニーナたちはそれを狙っていた。


 ニーナはズボンのポケットに入れていたオイル式ライターを素早く取り出し、炎の上がる噴出口をロックバードに合わせ、着火した。


 魔力によって強化された凄まじい火力の炎が飛び出し、火だるまになったロックバードは地面をのたうち回ってすぐ、ぴくりとも動かなくなった。


「どう、火力は最小限に抑えたけど」


「これが料理で出てきたら離婚を考えるかな」


「弱火にも耐えられない食材が悪いでしょ」 


 魔物たちはそこらの動物にしては頭がいいし、森という環境も相まって、こちらから手を出すことが難しかった。


 ゆえに、ダズたちは隙が見えるようにしていた。


 狙いはリゼに見せた頭上からの攻撃である。


 魔物たちを倒し、ダズが離れれば、自然とニーナを狙いやすくなる。


 暇そうにしていたあの会話すらも、人間が用いる罠であると知らずに。


 そうして、あえてニーナが狙われやすい陣形を組んでいたことに、魔物たちはついぞその思惑を推し量ることなどできなかった。


「あと何匹かしら」


 まだ火がついて煙の上がっているロックバードを、まるで煙草の火を消すみたいに、ニーナが上から踏み砕く。


 離れた位置で銃声が響いたのは、ちょうど同じ頃であった。


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