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リリー・レンフレットの骨拾い  作者: 三色団子
第五章

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 ジェイドたちはレオンたちのいる位置から二十歩ほど前方に移動して立ち止まった。何かに見られている気配はあるが、仕掛けてくる様子は感じられない。


「今更だけど、あの二人で本当に大丈夫なの?」


 少し離れたところから、剣戟にも似た音を微かに耳が拾う。


 互いに背中合わせになって全方位へ警戒をしながらリゼが尋ねた。


「ほんと今更だな。大丈夫、死にはしないから」


 ジェイドはあっけらかんと言い切って見せた。


 リゼとてジェイドの能力を疑っているわけではない。むしろ他の四人と比べても、その言葉に対しては、一番の信頼を寄せていると言ってもいい。


 それでも、いやそれゆえに、一抹の不安はどうしたって拭えなかった。


「何が不安なんだ?」


 ジェイドもリゼの様子には気が付いていた。


 また、自身のことを過信しないよう気を付けてはいる。


 そのためになるべく対話と助言は受け入れる姿勢も取ってきたつもりだ。


 それらのことをリゼが理解していることをジェイドは分かっている。


 要するに、今回は自分の能力と発言に問題があるとは思えないからこそ、ジェイドはリゼの不安に心当たりがあまりなかった。


「あなたのことは信じている。でも私が心配しているのはレオンの方」


「レオンの?」


「リリーが来て、一番環境が変わったのはあの子だから」


 レオンはジェイドたちに拾われてからの約一年間、なんだかんだと末っ子ポジションに収まり甘えてきた節がある。


 周囲も彼の過去の境遇を知っていることと、子どもを自分たちの都合に巻き込んでいることへの負い目から、それを許してきた。


 そんな日常が、当たり前が、リリーの登場によって脆くも崩れ去る。


 最年少は当然ながら彼女へ変わり、しかも女の子である。


 レオンもまだ子どもながら、周りの大人たち同様に、リリーを守り、その道を示さねばならない責務を自覚することになった。


「あいつなら逆にやる気出すだろ」


 ジェイドの言う通り、これだけであれば、レオンの性格上、後輩からの尊敬や格好よく見られようとして、やる気を出す要因になる。


 だが現実としては不安と焦りからか、ここ数日で空回りと勇み足が目についた。


 この森に入る時、「早く行こうぜ」と急かしたことからもそれは見て取れる。


 発端となったのはやはりあの模擬戦であろうことは言うに及ばない。


 まだ弱く幼い女の子に、あろうことか自分から喧嘩腰に戦いを吹っ掛け、圧勝しなければいけないところを策にはまって、結果は引き分け。


 内容的には敗北といって差し支えないだろう。


 レオンの面目もプライドもまる潰れである。


 加えて、それを為したのがたかがひと月弱の訓練であること、魔力を様々なものに作用させられる才能があること、勉強による知識と教養を学んでいること。


 これらが、模擬戦で生まれた劣等感に拍車をかけていた。


 年を取ればその劣等感や妬みといった感情に折り合いをつけることもできる。


 もしくは、ニーナのように割り切れる性格であれば問題なかった。


 あるいは、日々の研鑽への自負があれば傷も浅くて済んだかもしれない。


 しかし、レオンにはそのどれもが乏しく、中途半端であるがゆえに、なんとかしなれけばという気持ちだけが先行して、焦り、空回りはじめていた。


「若い時の勢いと劣等感は、極端な結果を求めるのよ」


 リゼはそう言って、子どもが望めないと発覚した時のことを思い出す。


 強い感情による視野狭窄(きょうさく)と、若さに裏打ちされた行き場のないエネルギーが合わさると、短絡的に尖鋭化した結果のみを正解と決めつけ、導かれることになる。


 目先の成果だけに囚われて、無茶な行動をし、自分だけでなく周りさえ巻き込み、その被害に喘ぎ苦しむことになるのではないか。


 リゼが懸念し、また危惧していたことはまさしくそれであった。


 自分と同じ過ちを辿らせるなど、大人として恥ずべき行いとリゼは思考する。


 剣の柄を握る手に、思わず力が入った。


「……ま、心配ならさっさと片付けて加勢に行けばいいだろ」


 ジェイドは突き離すように言うと「来るぞ」会話を打ち切り、一歩前に出てリゼとの背に隙間を空けた。


「先に左四十度陽動、死角右足が狙い。三、二、一」


 カウントを刻み終えた直後、予期していた通りにロックバードが仕掛けてきた。


 リゼは陽動が来る方向に体の正面を向け、片足を半歩下げてひらりと躱し、死角に躍り出てきたロックバードを突く。


 目玉を抜いた一突きは脳まで達し、体をぴくぴくと痙攣させて絶命した。


 攻撃を躱された陽動の方はと言えば、その進行方向の下から生えた銃口の上を通った瞬間、タイミングよく引き金を引かれて頭が吹き飛んだ。


 血と脳髄を飛び散らせながら木にぶつかって枝葉を揺らし、体が地面を舐める。


「あと何匹?」


「二匹のはず」


「そう。早く来てくれるとありがたいんだけど」


 リゼはロックバードの頭に刺さった剣を抜き、ピッと空を切って血を払い、なんともつまらなさそうな顔をしながら呟いた。


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