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リリー・レンフレットの骨拾い  作者: 三色団子
第四章

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 開始の合図と同時に、レオンは駆け出した。


 瞬時に間合いを詰め、大上段に構えていた剣を渾身の力を込めて振り下ろす。


 レオンの思惑は、最速最大の初撃にて勝負を決めることにあった。


 いくら頭に血が上っていたとはいえ、考え無しというわけではない。


 相手が魔力を使える、かつリゼの訓練を受けているのだから、何かしらの小細工はしてくるだろうと予測していた。


 ゆえに、その小細工をされるよりも先に叩いてしまおうという判断だった。


 しかしてその全身全霊を駆けた電光石火の一刀は、いとも容易く受け流されてしまう。


 リリーはレオンの剣に自身の剣を当て、滑るように力の方向性の舵を取り、その攻撃を地面へと逸らした。


 レオンは何が起きたのか、咄嗟の理解が遅れ、地面を叩いた衝撃に指が痺れて硬直した。


 さあ攻守交替、いざ反撃のチャンス、にも関わらず、リリーは構えを取り直して距離を取る。


 レオンにはそれが、自分を揶揄(からか)っているようにしか映らず、冷静になりかけていた頭に火が灯る。柄を握る両手に力が入った。


 その一連の攻防を見ていたニーナは口笛を鳴らし、「やる~」楽しそうに賛辞を贈る。


「あの剣術ってリゼの我流でしょ。教えたんだ?」


「リリーには性に合ってるからね」


「まあ、レオンじゃ無理よねぇ」


 ここで語られている剣術とは、少なくとも数百年は積み重ねられてきた王宮剣術を独自に魔改造したリゼのオリジナルを指している。


 使用する剣は細剣や短剣といった取り回しがよくて軽い物が適している。


 構えは独特で、右手に持った剣は顔の正面で垂直に置き、左手は拳を握って腰に置く。


 そして、相手の攻撃がくるまでひたすらに待ち、カウンターにて仕留めることを基礎にして奥義としている。


 このリゼの剣術は、一対一において必勝を飾るために編み出されたものである。


 まず大前提として、勝負に絶対はない。


 だが、勝敗はほとんどの場合、そうなるべくして決着する。


 では勝利という結果に寄与する最も大きな要因は何かと問えば、それは相手の隙をつくことに他ならない。


 例えば、戦闘中に足を滑らせたり、脇見をしたり、馬鹿正直に真正面から大振りの一撃をかましてくるなどは分かりやすい隙と言えるだろう。


 他方、達人の間合いともなれば、わずかな重心の移動ですら隙となり、初動の間もなく勝敗が決することもあり得るのだ。


 つまり、いかにして相手に隙を作らせ、それを狙って攻撃するかが重要となってくる。


 それではどうすれば隙を作れるのか。


 大きく二つに分類されるだろう、とリゼは考えた。


 一つは意識の外から攻撃すること。


 一つは攻撃直後を狙うこと。


 一対一の戦闘において、前者を当てにすることはまずできないので、必然的に後者を選択することになる。


 相手の攻撃を誘い、受け流し、防御はおろか回避も取れぬ間合いまで詰めて致命の一撃をお見舞いする。


 これがリゼの辿り着いた答えであり、そのために必要な武器の選定や構えの取り方を考案して、現在に至る。


 しかし、賢明な者はこう考えるだろう。


 こちらも攻撃を待ち、カウンターを狙えばいいと。


 これに対するリゼの回答は、「じゃあこっちも待つ」であった。


 実のところ、ただじっと待つということは意外と難しい。


 それが安全に配慮された試合であっても、まして殺し合いともなれば、静寂の中に身を投じ続けるなど、精神は激しく摩耗する。


 試合なら動きのない様子に観客から野次が飛び、殺し合いなら極度の緊張状態に気が逸る。


 単純にじっとしているのが性に合わないという者もいるだろう。


 加えて、その性質上、相手の攻撃には必ず晒されなければならないというプレッシャーも計り知れないものがある。


 ひとたびミスをすれば、こちらが致命傷を負いかねないのだ。


 こうしたことから、リゼの剣術を習っても使えない者が多かった。


 性格的にレオンもその一人で、彼には通常の剣術を教えるしかなかったのだが、これはまあ余談である。


 そんなこんなで模擬戦は続いていた。


 レオンが猛攻を浴びせ、リリーはそれを逸らし、あるいは躱し、ただの一度も攻撃しようとはしない。


「なんで攻撃しないの?」


 何度も機会がありながら、その素振りすら見せないリリーを疑問に思ったニーナはリゼに尋ねた。


「攻撃の仕方を教えていないから」


「いや、えぇ? そんなことある?」


 ニーナの呆れとも戸惑いともとれる返答はもっともであった。


 剣術については素人な彼女の目からしても、攻撃に転じる隙はいくらでもあったと見て取れたし、そう難しいことでもないだろうとも思われる。


 なにせ、勢いそのままに木剣を当てればいいだけなのだから。


 リゼは溜め息を一つ吐いて、ニーナの疑問に答えた。


「リリーは言われたことはできるのよ。でも、自分で考えたり判断したりってことが苦手なの。いえ、苦手というより、無意識に避けているって感じかしら」


 リリーの生い立ちやこれまでの境遇について、リゼも詳しくは知らないが、おおよその想像は難くない。


 また、無意識にと思われるが、自分自身で決断するということを避けている印象がリゼにはあった。


 今はまだ子どもなのでそれでも構わない。だが、このまま成長させるわけにもいかない。いずれは自立してもらわねばならないのだ。


 そのため、リリーが少しでも自発的な行動を取るきっかけになればと、レオンとの模擬戦を促したわけだ。


「ふーん、なるほどねぇ」


 リゼの説明を聞いたニーナは、頬杖をついて面白くなさそうな表情をした。


「でも、このままだと普通にレオンが勝ちそうじゃない?」


「いや、そうでもないかもしれないよ」


 それまで黙っていたダズが、ニーナの指摘をやんわりと否定する。


「レオンの息が上がってる」


 ダズの言う通り、レオンは肩で息をしており、序盤の激しい攻撃の嵐から、立ち止まり呼吸を整える場面が増えていた。


 さらに、繰り出される攻撃も、明らかに精彩を欠き雑になっている。


「どういうこと?」


〇ストーリー要約

・リリーとレオンの模擬戦が開始

・レオンは終始攻め、リリーは一切攻撃することなく防戦一方

・このままレオンが押し切るかと思われたが……

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