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リリー・レンフレットの骨拾い  作者: 三色団子
第四章

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「いないわよ」


 リゼは問われて間を置かずに即答し、また断言した。


「いたら面白いとは思うけどね」


「でもいろんな本に、教典とかにもいるって」


「そうね。こんなことを言ったら怒られるんだけど」


 リゼはそう前置きをして、リリーに聞かせるべきかを悩んだが、言わずにはいられなかった。


「神様がいた方が都合がいいの。だから、いることにしている」


「都合がいい?」


「世界にはいろんな人がいるでしょ。


 男も女も老人も赤ちゃんも、貴族とか貧しい人とか、善人から犯罪者まで。


 見た目も違えば、考え方まで一人一人でまったく違う。


 それを一つの集団にするのって、普通は不可能なのよ」


 リリーは出会った様々な人たちを思い出す。


 たしかに、いい人もいれば悪い人もいる。


 また、自分の立場が変われば、悪人だと思っていた人が善人になったり、その逆もありえた。


「例えば、そういった人たちを一つの家に入れて、仲良く暮らせると思う?」


 問われたリリーはしばし黙考し、首を横に振った。


 どう考えても、仲良く暮らすどころか殺し合いさえ起こりそうだと思った。


「それを可能にするのが神様であり、宗教なのよ。


 まあつまり、秩序のための作り話ね。


 神様がいるかいないかなんて、本質的にはどうでもいいってわけ」


 リリーはそうまで言い切ってしまえるリゼのことが少しだけ怖かった。


 人が無意識に持っている曖昧な嫌悪ではなく、そこには明確な害意があるようだった。


 その隠された害意が、いつか自分に向くのではないかと、漠然とした恐怖を覚えた。


「じゃあなんで神様の声を聞いたって人とか、言葉が残っているんですか?」


「リリー、よく考えてごらんなさい。あなたは神様の声を聞いたことがある?」


「ありません」


「神様の言葉は誰が書いたの?」


「……人、ですか?」


「そう、人間よ。


 本当に神様がいるなら、自分で文字を書いてみせればいい。


 疑っている人たちに姿を見せて、声を聞かせてあげればいい。


 辛い目にあって苦しんでいる人を全能の力で助けてあげればいい。


 でも誰もそれを経験した人はいない。そうでしょう?」


 思い出すのは退廃特区の人々と、その生活である。


 たしかにあそこには、神様を信じている人もいないだろうし、それを議論する余地すら持ち合わせてはいないのだろうとリリーは思う。


 もし神様がいたなら、あれを放置していることの説明がつかないのだ。


 なぜここまでリゼが神様の存在を否定しているのか、リリーはなんとなく分かるような気がした。


「さ、おしゃべりはこの辺にして、休憩したら訓練に入るわよ」


「はい」


 本を閉じて元気よく返事をすると、リリーは二階へ上がった。


 自室に入り、動きやすい服に着替えて、腰にジェイドからもらった短剣を提げる。


 身なりの確認と忘れ物がないかの確認を入念に行った。


 訓練をすればどうせ、汚れたり衣服が乱れたりするのだが、それをリゼに見つかるとチクチクと小言を言われてしまうのだ。


「あら、この短い間に激しい運動をする余裕があるなんてずいぶん元気ね。


 今日はいつもより厳しくしようかしら」


 以前、急いで着替えた際にシャツがズボンから出ており、その時にリゼから言われた言葉である。


 実際に訓練内容が厳しくなり、足腰が立たなくなるほどボロボロになった。


 リゼ曰く、「常に手入れの行き届いた剣でありなさい」とのこと。


 結果として血や土や脂に塗れることがあったとしても、剣を抜く前からそれでは切れるものも切れないのだと言う。


 まあ大仰に聞こえるだろうが、つまり、身だしなみには気を付けましょうということだ。


 リリーは聞き分けのいい真面目な子なので、言われたことはしっかりと守る癖が付いている。


 そのため、言われて以降はこうして気にするようになっていた。


 問題ないことを確認したリリーは部屋を出て一階へと下りた。


 廊下を渡り、裏口から直接庭へと向かった。


 一足先に待っていたリゼは軽く準備体操をしており、リリーもその隣に混ざって体を動かしていた。


「まずはいつも通り、受け身からやりましょうか」


「はい!」


 ここひと月の間に行われたリリーの戦闘訓練の内容は、大体がこの受け身である。


 攻撃を全て躱すということは不可能に近く、また躱した際にバランスを崩して転んでしまうこともある。


 その際、きちんと受け身を取れるかどうかで生存率が大きく変わるし、攻撃による身体へのダメージや怪我の具合を小さくすることにも繋がる。


 さらに、次の動作へと滑らかに移行するため、そしてこの先のきびしい訓練に耐えるためにも必要不可欠の技術であった。


 以上のことから、リゼはリリーのことを千切っては投げを繰り返し、徹底的に正しい受け身の取り方を仕込んでいる。


 また、リリーの受け身はリゼの目から見ても及第点になってきたため、最近では木剣を使った剣術指南や模擬戦なども始まっている。


 こちらはまだまだ要領を得ず、構えや型の練習、あるいは剣対剣での正しい受け方を教えるに留まっているのが現状だった。


 さて、早速いつものように訓練を始めようした時のことだった。


「ただいまー」


 玄関の方から帰りを告げる女性の声が聞こえてきた。


〇ストーリー要約

・歴史の授業が終わり剣術訓練へ

・訓練を開始しようとした際、誰かが帰りを告げた

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