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悪役令嬢の前世がスーパーなマンだったとわかりギロチンが落ちる瞬間に地球を逆回転飛行したら時間が巻き戻ったので生き方を改めることにした  作者: スカンジナビア半島
4章 Secret Selva

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【十四】イエーーーーイ!

【十四】


 誰でも己を縛る重荷や鎖というものがある。

 普段からそれが意識されるくらいに表に出ている人がいれば、

 普段はお首にも出さず、特定の場面だけ強く心身の力が縛られるタイプもいる。

 ジェーンの場合は後者だった。


 父を幼くして武才で下し、

 両親に嫌悪、憎悪されて生きてきた彼女は、

 内心では親との繋がりを求めていた。


 しかし、今は僕とエドガーを背に、

 自分の心に重く強い楔を打ちつけていた。


「どうした!! お前ら、どっからでもかかって来い、コラァ!!」


 白い炎が口からだけでなく、

 全身からオーラとなって仄かに滲み出ている。


 クレオやシオンと戦うのに使った炎が、

 内燃機関のように全身をパワーアップさせるのにも使われている。

 僕が生前の時には決してできなかったことだ。

 口から炎も出ていないからだ。


 これがジェーン・エルロンドの個性なんだろう。


 僕の血由来ではあっても、

 そこから発展させただろうジェーン・エルロンドの強さが出ていた。


 母親を蹴り、父親を殴り。

 ジェーンは軛を断ち切っていた。


「なんと情けないことを……

 娘の分際で親に手を挙げて罵倒さえするなど……!」


「オラ、悔しいぞ……

 大魔王にパピィへの道を阻まれちまったんだ。

 ジェーン、おめえぇ、絶対にぶっ殺してやっからなぁ!!」


 鼻がひしゃげ、とめどない血を鼻から垂らしているヴァルター。

 半ばくの字に折れ曲がった鼻骨が

 時計の歯車の音を奏でて、

 巻き戻ったように治っていく。


「やめろ。これはオラの教訓にする。

 野郎の首を掲げねえと、

 スッキリ鼻呼吸もできなくなるって戒めだぁ」


「貴方の仰せのままに」


 夫の言葉に、治癒が止まる。

 改めて観察すると、

 何が起きているのかがわかった。

 折れて砕けた骨が治るのは、通常の水魔法を用いた治癒の範疇。

 だが、それで鼻血が、鼻穴に戻るわけはない。


「時間の巻き戻しか」


「我が異名は《水廻みずわの聖女》。治すのではなく“戻す”。

 ジェーンにも優れない者が勝てる道理もありません。

 ここの米栽培が、食料革命が成功したのも、私が己の力を使わない慈悲が故」


「それでも俺達に勝てると思うのは驕りでしかないぞ」


 とっくに両親を見限っていたエドガーは

 眉間に皺を寄せて、苦々しく切り捨てた。

 最初からそうではあったが、

 彼には、親を親と見る意識が完全に消えている。

 その眼差しは討伐すべき邪悪なモンスターを見据えるも同然だ。


「ならおめぇをぶっ殺すかぁ、エドガーよぉ。

 心配すんな。ミンチにならなきゃ聖女様が体を治してくれっからよ。

 安心して死ね、息子よ。冥府で我が伝説を見るが良い」


「お前が地獄を見ろ」


 弟に向けた大剣を、姉が掴んでへし折る。

 折れた剣の先端が転がり、

 幾つかの歯車が散在して浮遊し、

 元通りに戻っていく。


「折ったところですぐ元通りだぁ!」


「ならまた折ってやる」


 先端から根元まで細かく折っていく。

 次から次に戻していくにも、

 ジェーンの速さとパワーには追いつかない。


「終わんねえぞ!

 オラがリトルファムに千年謳われる伝説を立てるまではよ」


「お父さんは100万年生きたぞ。

 お前なんかじゃ到底追いつけないわね」


「ひゃく!? ぐはあぁ!!」


 数字に目玉が飛び出て、

 娘の膝が鳩尾に沈み込み、

 口から内臓が飛び出しかねないダメージを与えた。


 根元まで大剣をへし折り、

 相手が反応するより先に、大盾を蹴り飛ばした。

 今度は真ん中が大きく深く凹むだけではない。

 バズーカの砲弾も受け止める硬度が、

 蹴りの一つで粉々になった。


「馬鹿なあぁ!!」


 武装がすべてなくなってヴァルターが仰天した。

 明らかにジェーンの出力が大きく向上している。

 かつての彼女は僕と互角だった。


 今なら、10回戦えば4回は僕が敗北を喫しかねない。

 止まらぬ進化を続ける彼女に、

 父としての威厳を保つためにも……やはり、相撲か?


「もうお前には一切の躊躇をしないからな」


 ぞっとするほどに冷たく、

 一切の手加減もなく、

 ジェーンは実父の胸ぐらを掴んだ。


「お前に命令を下してやる。

 逆らうなら骨を一箇所潰す。

 一つ、エドガーを“出来損ない”と呼んだのを詫びろ。

 一つ、お父さんへの気持ち悪い陰謀を今すぐ止めろ」


「断るに決まって──」


「だろうからまずは十箇所潰した」


「ぎゃあっ!!」


 頭、両腕、両足の骨が各二箇所砕けた。

 頭部がニ箇所、両腕に四箇所、両足に四箇所。合計十箇所だ。

 痛そうだ……。


 外から見てもわかるくらいに体が陥没している。

 ヘルミーネが巻き戻しをかけんとし、

 発動よりも速く、母親の杖をへし折ろうと高速移動した。


「依頼を果たせぇ!!」


 激痛に耐えて動くヴァルターが顔を上げ、

 大量の唾を飛ばして絶叫した。


 ジェーンの人差し指が母に触れるか触れないかで、

 横から仮面の男の黒い影が飛びついてきた。

 速く、正確な急襲アンブッシュ


 ビギーには大きく劣るが、

 比較対象があまりに強すぎる。

 彼女が使った終点キャンセルへの指突も、

 ビギーの父である男が繰り出してきた。

 技は同じ、効果も恐らくは同じ。


 一方、彼の練度たるや娘に遠く及ばない。

 それでも危険性は十分だ。

 相手がジェーンでなければ。

 彼女はどんな相手でも、着実に戦えば戦うほどに、

 相手の動きを学習し、合わせる術を編み出す。


 自分を圧倒した技と動きでも、

 それの大幅劣化版ともなれば、

 彼女が見切っても不思議ではない。


「ぐあっ!!」


「なにぃっ!?」


 あっさりと指を横から掴まれ、捻り上げられる。

 ヘルミーネが治療をするにも、

 エドガーが斧を繰り返し振るうことで阻害されている。

 片手でヴァルターの胸ぐらを掴み、

 もう片手で突いてきた指を掴んでいる。


 ビギーという、僕の時代と合わせても文句なしの最強の天才。

 育てたのは恐らくは、この父親で間違いない。


 しかし、いくら師であり親といえど、

 真の最強の技と脅威に晒され、弟の前で勝ちすら譲られたとなれば、

 ジェーン・エルロンドの前では、止まっているも同然の動きである。


「指先からマナが出ている……

 なるほど、それであたしの皮膚にも効いたわけね」


「おおっ!!」


 なるほど、そういう手品だったのか。

 弾丸も爆発も津波も通さない僕達の体の終点を突く。

 それは本来なら不可能なことだ。


 なにせ、指で押すだけでは力が足りない。


 僕の知っている使い手は、

 こちらの力の流れを利用し、指突の威力を向上させることで、

 技を成功させていた。


 ビギーの場合は、指先に体内を介して微弱のマナ、

 いわゆる気の針を伸ばし、

 それで終点に触れていたのだろう。


 肉体のダメージは低いが、

 たしかに動きの停止は、そちらの方が遥かに効果的だ。


 納得すると同時に、初対面かつ弾丸より速く動くジェーンのボディに、

 そのような繊細な作業をして、見事に成功するビギーの練度に鳥肌が立つ思いだ。


 この男のタフネスさ、

 ここに実質的な高速治癒が加わればどれほどの脅威か。


「ビギー! 私を助けろ。

 さもなくば我らの未来はここで潰える!!」


「やめなよ、聞く必要ないよ」


 フィニーがビギーの腕にしがみつくが、

 あっさりと払われて長身が一糸乱れぬ正確な動きでジェーンに迫る。


 さっきの惨敗を思って敵の指を離し、

 全力気味に相手の攻撃を避けた。

 50mほど離れた地点まで避けたジェーンが見たのは、

 攻撃が空振ったらスムーズに

 弟へと狙いを変えて疾走していくビギーの姿だった。


 裏を突かれた。

 ジェーンだけなら防戦、距離を置く戦い方を意識すれば、

 攻撃を受けずにいられるだろう。

 だがエドガーはスピードが足りない。


「全身を丸めて! 頭も下げて!」


 とっさに思いつく対策を叫ぶが、

 それをしては今度はヘルミーネに倒される。

 どうにか斧を横に胸の前に出して盾の代わりにするが、

 そうしてもビギーの圧倒的な体術には太刀打ちできない。


「ぐっ!」


 終点を突かれたエドガーが倒れ、全身を動かせなくなった。

 指先も足の指も動かせなくなった巨体。

 これは……どうすればいいか……。


 たしかにさっきは、僕がジェーンの終点を適当に弄ったら

 なんとかなりはした。


 しかし、それは彼女が僕の魂の娘であり、

 僕の体の頑丈さを引き継いでいたから賭けに出られた。


 ジェーンには言わなかったが、

 終点を弄くっている間、彼女の体重が100キロ増えたり、

 頭がどら焼きみたいになったり、

 背中からもう一本、足が生えようとしていた。


 それでも、正解を引いたら元通りになったから問題なかった。

 だが、エドガーに高速治癒はない。

 下手に弄ったら体が爆散してもおかしくない。


 …………運が良ければまた少しマッチョになって終われるか?

 いや、賭けるには怖すぎる。


 僕の焦りがジェーンにも伝わり、

 意識が弟に集中してしまう。

 胸ぐらを掴んで吊るしている実の父の傷が

 急速に快調へ戻っていくのを止められない。


「よっしゃーーーーっ!!

 いいとこまで行ってたな、大魔王!」


 傷と一緒に戻った大盾がジェーンの胴体を押し出す。

 それでダメージはないが、

 手が離れてしまう。


「しまっ──」


「もらったー!! 勇者アタック!」


「お前にあげるものなんてない!」


 唐竹割りを、

 しゃがみ込んでの回し蹴りで、

 足首を砕いた。

 エドガーを助けに行こうとすると、

 ビギーに立ちはだかられる。


「どかないと本気を出すわよ!」


「観念なさいな。

 もう貴女に勝ち目はないわ」


 前方にはヘルミーネ、ビギー、そしてビギーの父。

 背後にはヴァルターがいる。

 どちらかに対処をするとしても、

 その間に他に襲われる、または回復されてしまう。


「せっかくだから教えてやっか。

 おめえのどこが弱くなったかをよ」


 大剣を引きずって、ヴァルターが言う。

 夜の静けさが、圧巻の猛者の集まりによって張り詰め、

 今にも切れそうな危うさになった。

 大樹の葉のざわめきが

 地上まで聞こえてきそうだ。


「お前の大魔王ぶりはよ、敵ながらてぇしたもんだった。

 食料革命。革命だぞ、おめえ。それを9歳から始めて10年で達成するなんてよ。

 まさに神か魔王かだった。だがな、おめえ、息子殿と通じてからはどうだ?」


 僕とジェーンが会話できるようになってからのことか?

 いったいなんの話をするつもりだ。

 訝しんでいるとヴァルターは続けた。


「ただ降り掛かってくる火の粉を払うだけだな。

 そんだけのパワーを引き継ぎながらよぉ。

 問題処理能力と願望を実現する運気がダダ下がってんだ。

 何のつもりかはわかんねえけどよぉ。自分が息子殿に相応しくねえと認めろ」


「お前には関係ないことでしょ!」


「それがどうした?

 貴様はここ半年で何をやった?

 学校を開いたが、それだけか? 聖女の称号を得た頃から落ちぶれたな」


 頷くことはできない。

 ジェーンは最善を尽くそうとがんばっている。

 だが、米のことばかりやってきた時とは、

 成果の出方が変わっているのは否定できない。


「それはな。お前が、我らを、我が家名を穢すためにだけ生まれた大魔王だからだ。

 役目を終えれば、もう遺るは伝説的に討伐されるだけ。

 今やっていることに、かつてほどの熱意も持ててないだろう」


「そうかもね」


 ジェーンが肯定をしてしまった。

 状況と戦力差に気圧されてしまったのか。

 僕が何か、後押しをしてやれないだろうか、考えないと。

 そんな僕の杞憂を、ジェーンは無視して続けた。


「スゲーマンと繋がってから、

 お米のことばっかり頑張ってた頃とは違うわ。

 戦うのは痛い、クレオと戦うのは嫌。……シオンも死んでほしいわけじゃない。

 嫌なことばっかりやってきているのは、あるし。

 あの頃ほどに、やりたいことに突き動かされている気分はない」


「そうだろう。じゃあ、首を出そうな。

 血縁上の両親と戦うのも、やりたくなさそうに見える。

 つまり、父に首を差し出せと世界が求めているのだ」


「最低だ……!」


 戦いに置いていかれたフィニーが、

 悍ましさに眉を顰めた。

 僕も同意だった。この心に体があれば、

 ジェーンの代わりにヴァルターとヘルミーネを思いっきり殴っただろう。


「認めるわ。お前らがあたしを殺しに来るのもだし、やりたくないことばっかり。

 一人なら絶対にもうベッドでずっと寝ることを選んでるわ」


 言葉とは裏腹に、ジェーンの体内を巡るエネルギーは活性化を止めない。

 誰にでも見える位置に手を掲げる。

 さっきも元気よく叫んだその手は、微弱に震えていた。


「震えてるわ。でもね、いつもこの人が見てるの。

 頭の中で馬鹿みたいに暢気なぽやぽやしたことくっちゃべって

 あたしのやることなすことに一喜一憂してくれるの。

 やりたくないことばっかりやらなきゃいけなくなっているけど、

 お父さんが見てくれるなら失敗だろうと負けだろうとへっちゃらよ!!

 お前らの居場所なんてあたしの周りには稲穂一本分もないわボケェ!!!」


 そう言うと、全身から朧に湧いた炎が、

 形を伴って明確なものになった。

 白炎が彼女の全身を包んでいた。


 黒い夜に、ジェーンの白い人型が焼きつく。

 ビギーと、その父が目を見開いて後ずさりした。

 彼女らの戦い方が、指先に気の針を展開するのであれば、

 このジェーンには炎で阻害され、手出しできない。


「さあ……依頼は無駄になったわね。

 大金払って最強にお願いしても、あたし達の前には朝飯前よ!」


 彼女を挟み撃ちした二人は冷や汗を流し、

 全身を強張らせた。

 ここに至れば、ジェーンを倒す手段がないと理解したのだ。


「か、考え直しなさい。

 実の両親に手を挙げるなんて……!」


「然り。息子ど……お前が“お父さん”と慕うスゲーマンに尋ねてみろ。

 親への暴力、愛のない行為が許されるかどうかを」


「ふぐうっ」


 目を見開いたエルロンド家の母が、

 胃の内容を吐き出した。

 答える必要はない。

 ジェーンはヘルミーネを横蹴りで昏倒させた。

 回復役を先に倒して、残りはヴァルターのみ。


「聞け! 聞いてみろって!

 息子殿はパピィが欲しいに決まってっだろぉ!」


「一つ教えてあげる。

 この人、思ってることだいたい垂れ流しているの」


 拳を大きく引き、

 それから爆発的に打ち出す。


「お前は殴っていいってさ!!」


「ギャアーーーーーーー!!!!」


 そこまでは……言ったかも。言ったな。


「やっちゃえ、ジェーン!」


「やった! もうやった!! イエーーーーイ!!!!」


 満面の笑みを浮かべ、ガッツポーズして飛び跳ねる彼女の後ろで、

 実父が飛んで星になった。

 とりあえずは一件落着だな。

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